5,初めての休息
●サクラside●
気付くとそこは見慣れた部屋。
いつもの癖で、私は壁に掛かった時計を見る。
「六時か......そろそろ起きよ......」
私は重たい身体を起こす。すると部屋の様子がいつもと違うことに、すぐに気付く。
本来、この部屋には私一人しか存在しないはずだ。なぜなら私は一人暮らしで、私がお客を招くことがあまりないからだ。
だがこの空間には二人の、いるはずのない存在がいる。
しかも二人は床で寝ているのだ。
床に寝そべっている一人はキレイな長い黒髪の、緑の服を着た幼い少女。
座りながら寝ている一人は輝いている銀色の長い髪をした、女性の魅力を持ち、かつ幼さのある白い顔の少女。
姉妹にしては似ていないような二人が、同じ空間にいるのだ。
(なに?この人たち......)
そう思いながら、私はベッドか出ようとしたとき、私の格好が下着だけの状態に気付く。
「あれ?せいふく......」
よく見るとベッド横の壁についているフックに、通っている学校の制服が掛けてあった......しかし、その制服は赤いシミがいろんな箇所に染みついていて、腹部の布は大きく切られて中が見える。とても着れるような物ではない。
そんな制服を見てだいたいの状況が読めた。
(そういえば、昨日は戦闘中に気を失って。それでこの眠っている二人に昨日助けられたのか。いや、あの時は三人いたような......)
すると突然、玄関から呼び出すチャイムが鳴った。
今は六時。
こんな早くから誰だろう。と言いたいけど、少し予想がついた。
私はそのまま玄関に向かい、ドアを開ける。
ドアのその先には。身長が高く。白髪で赤い目をした。外国人っぽいイケメンと呼ぶにふさわしい青年が立っていた。
「おはようございます。すみません、お宅におじゃましている二人を連れにきました」
私はその青年が、私を助けた三人の一人だと悟った。
「とりあえず上がって」
私はそれだけ言って、青年を招く。
「おじゃまします。すぐに行きますので、少々お待ちを」
「別にいい。ゆっくりして。何も壊さないなら好きにしていいから」
私はそう言って、自分がやるべきことを進める。
(とりあえず昨日汗をかいて気持ち悪いから、シャワーでも浴びようかな)そう考えると、私はかろうじて身につけていた下着を、浴室に向かいながら脱ぎ始める。
「ずいぶんと大胆ですね」
青年は私の姿を横目に言った。
よくある癖で、浴室に入るか、部屋が暑いときはよくその場で全裸になることが多い。
友達はこういうことに慣れているが、だいたいの男性は興奮したり、恥ずかしがったりするのが普通だ。なのにこの男は全くどうじない。
なんだか悔しい気持ちになるな。
「あまり期待しないで。浴びたいだけだから」
私はそう言って浴室に向かう......。
●ハイネside●
「ふぁーー。おはよう......」
エリシアのその声に、私も目覚める。
「うん?ああ、おはよう......」
私は辺りを見渡して、状況を確認する。
ここは確か、きのう私たちを助けてくれた。サクラという名前の少女の家だ。
そしてなぜか腰が痛い。というより腰に何か乗っているような感覚だった。
そういえば昨日は、遠慮するべきだと思って、座りながら眠っていたな。なんかあまり休めてない感じだ......。
とりあえず、昨日起こったことを思い出すことにする。
●●●
昨日の夜。私は、戦いで傷を負って力尽き倒れたサクラを背負い、どこか寝泊まりのできる場所を、アンドリューとエリシアで探していた。
その時、偶然にもサクラのポケットから、地図の書かれた紙が落ちて。それを頼りに来たら、サクラの家らしき所に着いた。
そしてそのままサクラをベッドに寝かそうとするも、さすがに血だらけの服で寝るのも気が引けると思い、その服を脱がした。
今を思えば、あんなボロボロになるなんてすごくもったいない......。
と私の感想は置いといて。
それからサクラに着せる替えの服を探すも見つからず、下着のまま毛布を被せて寝かしつけた。
と思ったら、床に敷かれているカーペットの上でエリシアが横になり、そのまま眠りについていたのだ。
何回か起こしても全然起きない。
なのでこのときに外で待っていたアンドリューを呼び出し。どうするか相談してみると。
「まあ、エリシアも大変お疲れみたいですので。すみませんが見ておいてくれませんか。男性である僕がここにいたら困ると思いますし、ほかにも調べたいことがありますので......」
とずいぶん無責任な事を言って立ち去った。
仕方なく私がエリシアに付き合っていると、そのまま私も眠りについたのだった......。
●●●
「おはよう......昨日は散々だったね」
「本当ですね」
すぐ近くから、アンドリューらしき声が聞こえた。そして聞こえた方向に顔を向ける。
そこには、アンドリューのカッコい...じゃなくて、私の顔を覗きこむ顔が目の前にあった。
「わああああ!」
たぶん、このときの私は顔を真っ赤にして、訳もわからずアンドリューの顔を思いっきり叩いた。
「な、な、なんで、ここに!」
アンドリューは平然とした顔だが。やっぱり痛かったらしく、頬を手で撫でながら立ち上がる。
「サクラさんに許可をもらって、おじゃまさせていただきました」
「あんたたち。よくこんな朝からラブラブコントができるのね」
と、どこからか聞いたことのある声が聞こえた。
「なっ!?」
その声の正体はサクラである。
サクラは別の部屋から姿を見せて、私たちに言った。全裸で......。
「なんで服を着てない!」
思わずつっこむ。
というか一応男性の前だぞ。これで普通にそんな姿で......。
「いやあ何でって、ハイネ。お風呂上がりに裸で部屋を歩くのは最高だよー」
とエリシアが誇らしげに言い出した。
するとアンドリューがエリシアの頭を軽く叩く。
「そんなはしたないことはやったらダメです。お母さんにも散々怒られたでしょ?」
「うー。アンドリューお母さんみたい」
なんなんだこの兄妹......。
「ごめん。私はあまり服を着るのが好きじゃないから家ではあまり着てない。外ではちゃんと着てるけど」
サクラは、申し訳なさそうに言い出した。
なんか、もうわたしこそ「ごめん」と言いたいよ。
「ま、まあここはお前の家だし。裸で歩こうが自由だから。それにわたしもよく寝るときは下着だけだし、風呂上がりに裸で歩くのはよくあることだ......」
私の言葉を聞いたエリシアは、私の手を掴んで握手してきた。
「じゃあ、私たちは裸族同盟だね!」
「えっ?」
エリシアはさっきよりもさらに誇らしさのある顔で私を見る。
「私たちは、ありのままの姿が一番最高だあ!」
なんか謎の掛け声をはじめた!?
「お風呂入りたいなら、好きに入っていいから......」
サクラには、なんかスルーされているのか、勘違いされてるのか......。
と、そんな事をしている間に、サクラは自分の服を身に付けていく。
すごくおしゃれな格好だ。
「あれ?サクラはお出掛け?」
エリシアが聞いてみた。
「今日は友達との約束。あんた達を置いていく形で悪いだけど。部屋にあるものは好きに使っていいから、留守番お願い」
そういいながら、服のボタンを閉めていく。
「えっ?いいの?」
「うん。別にいい。昨日のお礼だから......」
エリシアの質問にそう答えると。サクラは時計を見る。
「まだ時間はあるみたいだし、待っている間に少しあなたたちのことを聞かせてほしい」
サクラのその質問に、エリシアは少し戸惑う。するとアンドリューが言う。
「問題ないですよ。ただ話は長くなるとは思いますが。いいですか?」
「そうね。八時までならかまわない」
サクラがそう言うと、アンドリューは、私たちが旅で起こった出来事や、この世界とは別の世界のことを話した......。
「つまり、あんたたちはこの世界の人間ではなくて、エリシアの持っている時計の力で、この世界に来たってこと?」
エリシアは何回かうなずく。
「はい。なのでこの町のことは全くわかっていないんです」
「ふーん。じゃあもしその話が本当だとしよう。まあ証拠はあるわけないと思うけど、これだけは聞きたい......あんたたちは何者?」
どうやら、信じてないようだ。まあしょうがないと言えばしょうがないが。それよりも......。
「何者。と言いますと?」
アンドリューは聞き返す。
「私たち姉妹とまともに戦って生き延びれる人間なんて大抵いない。だからあんたたちのことを人間かどうか確認したい」
さすがにアンドリューもエリシアも困ってしまった。
しかし、私はそれに対して戸惑いがあった。
「なにって言われても。私は人間だよ」
「はい。僕も貴女のような力は持っていませんし。昨日の戦闘では、貴女が来なければ確実にやられてましたよ」
するとサクラはため息をつく。
「一応ユカリは私たちの中では、中程度のくらいの強さだけど。人間からしたら圧倒的な力よ。それを生き残れたことがすごいことなの」
「うーん、そういわれてもなー。私たちに特別な力があるとは思わないけど....あ、でも歌のお姉さんは、私の歌がなんとか。って言って私を不思議がっていたけど。それと関係があるのかも!」
アンドリューはそれを聞いてしばらく考える。
「もしかしたら、時計の影響でエリシアになんらかの力が芽生えた。と考えてもおかしくないですね......」
そのアンドリューの推論に、サクラもエリシアも、あまり納得はしてないが、とりあえずこの考えで話は進むことにした。
「それで貴女はどうなの?この子と同じ時計の力?」
と、私に質問してくる。私は「そうだ」と答えたかったが、うまく言えなかった。
いや、肯定したくなかった。
(本当にそれで良いのか)そんな思いが強かった。
「私は......そうだな、ついでだからエリシアもアンドリューも聞いてほしい。私が何者なのかを......」
固唾を呑んで見ている顔とはこういうことだろう。と思えるくらい真剣な表情で、皆わたしを見ている。
「最初に、まず私は、『ウィングチャイルド』の人間だと言っておく」
その言葉にアンドリュー以外の二人は首をかしげる。
「うぃんぐ、なに?それって裏組織の人間?」
「いえ、『ウィングチャイルド』とは僕たちの世界にある、世界規模な大きさを誇る孤児院ですよ。どうやらそこの創業者の方が大富豪らしく、自分の財力を全て子供達のために捧げたいという気持ちで創ったらしいです。ちなみに、孤児院とは、育て親も身寄りもいない。一人では生きることが難しい子供を、社会に出ることが出来るまでしっかり育ててくれる施設のことです」
説明を受けたエリシアは、私を寂しそうな表情で見る。
「つまりハイネもお父さんとお母さんがいないんだね......」
エリシアのその言葉は深みがあった。でも、私にとってウィングチャイルドは過ごしやすい場所であり、そここそ私の家なのだから。
エリシアほど苦しい思いはしていなかった。
「いや、別にそんな事はなかったな。確かに皆は、本当の親がいることに憧れを抱いていたが、寂しいとか悲しいとかはなかったな」
エリシアはなにかを思い出したような素振りをいた。
「わかった!あのテレビに映っていた人たちのことだ!」
その一言に(やっぱり)と思った。
というのも、最初エリシアが言った「家族のいない。テレビで見た子供達」にすごく親近感が沸いたからだ。
アンドリューはしばらく考えてから口を開く。
「じゃああの噂は本当なんですね。子供達の身体を改造して、裏の仕事をやらせているのは......」
その一言にエリシアもサクラも、一斉に言葉を失った。
「ああ、本当だ。私たちは皆身体を改造させられ。その身体を使ってそれぞれの仕事をやっている。でも、私たちにとってはその事が嫌だとは思っていないし、かなり協力的な奴が多かった」
ここで初めてアンドリューが首をかしげる。
そこで私は、孤児院で暮らした日々を皆に言うことにした。
●●●
『ウィングチャイルド』。
そこはすごく広い施設で、学習棟と宿泊棟の二つに建物を分けてある。さらに地下にも色々な施設があったりする。
順に説明してみるとこんな感じだ。
学習棟は学校のように、生徒の年齢や成績の基準で部屋分けされ、それぞれの教室で勉強を先生から教えてもらえる。学校のようなところ。
ある意味その先生こそが私たちの親のようなものになる。
宿泊棟は四人で一つの部屋を割り振り、生徒たちはそこで寝泊まりしたり、プライベートを過ごしたりしている。私たちの一番の生活空間だ。
そして、地下施設。私たちはここを「街」とも言っている。
この街というのは。私たちにとっての最高の場所である。
なぜならここには、いろいろな種類のお店や娯楽施設。公園など。子供にとってはたまらない場所なのだ。
何のためにここがあるのかはわからないが、そんな事を気にする人は私たちの中にはいなかった。
ついでなので、ここについても話しておこう。
この地下施設で買い物や娯楽施設の使用などにはチケットが必要である。
そのチケットは先生から、一日に必ず一枚もらえるようになっている。
つまりはお小遣いのようなものだ。
さらに先生のお手伝いや、なにかの賞を取ったりすると。追加でチケットを貰えたりするので、孤児院の生徒たちは積極的に活動する子が多かったのだ。
まあこの時の私は、特に取り柄もなく、一日一枚をコツコツ貯めていたけどな......。
と、ここまでが「ウィングチャイルド」の表向きの姿だ。
私たちは、働けるくらいの歳(十二歳くらい)になると、地下施設のさらに奥の施設へと行かされる。
私たちはより地下にある、一つの部屋に案内されるとベッドに寝かされた。
そこで奇妙な優しい声で、「大丈夫。眠たくなるだけだからね」と言われる。
すると。そのまま鼻と口をおおう呼吸器をつけられ、突然眠くなる......。
そこからの記憶は全くないまま目が覚める。
そして起きた瞬間、すぐに自分の変化に気付く。
見覚えのない部屋。
宿泊棟の寝室よりもすこし広い部屋。
そんな空間で見える世界が、全てはっきりと見えた。
壁についているシミの数。誰かがここを使ったばかりのような指紋のあと。空中で飛んでいる虫の形。
目に見えたもの全てがはっきりと見えた。
そう。異常なほどに視力が良くなっていたのだ。
とにかく状況を把握したいと周りを見渡す。
そして眠っていたベッドから起き上がると。身体が異常なほどに軽い。
まるで空を飛べそうだ。と思い、思わず飛び上がった。
すると想像以上に飛び上がり、そんな低くもない高さの天井に頭をぶつけたのだ。
そして着地に失敗して地面に倒れこむ。
その痛みで頭と足を抱え込む。
(どうしたんだよ......私の身体は......)
そんな事を考え、今にも泣き出しそうになった。
すると突然部屋のドアが開く。
そのドアからは、綺麗な顔立ちで、可愛いというよりカッコいい部類の綺麗な女性が入ってくる。
そこで言われたこと。
「今日から私がお母さんよ。よろしくね、ハイネ」
訳が分からなかった。
そしてただ流されるまま、私は説明を受ける。
人間の力を超えた異常な力。それを私の身体に、気を失っている間に植え付けられた。
この力を使い、世間の人たちに役立ててほしい。とか、弱き者を守ってほしいとか、本当に唐突な事をたくさん言われた。
説明を受けたあと。さっきの目を覚ました部屋に案内される。
どうやらそこが私の新たな寝室となるらしい。
荷物は既に移されて、寝心地のいいベッド。今まで憧れていたパソコン。広い生活空間。
そのなにもかもが私のものになり、すごく贅沢に思え、単純に嬉しかった。
ただ、ここに来たからには仕事をしなければならない。
その仕事は、依頼主によって様々だが、主に人間の力では厳しそうな力仕事や、重要人物の護衛、人命救助などが多かった。
エリシアを手に入れようとした、ビンドラ氏の護衛もその一つだ。
仕事はやはり大変であり、最初は失敗が続いたり、ケガをしたりと。辛いこともあった。
それでもこの仕事及び任務を、私たちウィングチャイルドの皆は、とてもやりがいを感じて、積極的に取り組んでいた。
それに、わざわざチケットを一枚ずつ集めていたころに比べて。仕事は、難しければ難しいほどにもらえるチケットの枚数が一気にもらえる。
だから一枚ずつもらっていた私にはすごくありがたいものだった。
そのあと私は、仕事を真面目に取り組みながら、豊かな暮らしを続けて。気付くと私は優秀枠に選ばれた。
その優秀枠は数百いる生徒の中から五人しか選ばれないほど優れている存在であり、選ばれた時は天にも昇る気持ちだった。
少し大変な暮らしだったが、私は不自由もなく、仲間や友達にも囲まれずっと幸せに暮らせていた。
でも......。
●●●
「じゃあ、ハイネはなにで苦しんでいたの?」
それはエリシアの唐突な質問だった。
たしかにここまで聞くと、私は幸せだったのかもしれない。
「そうだな。ここまで言ったら話すべきだとは思うな......」
と、私が話そうとしたとき。サクラが立ち上がった。
「ごめん。もう時間だから行くね。もしここに残るのなら、続き聞かせてね」
サクラはそう言い残すと、そのまま部屋から出ていく。
「うぅーーん!私も気になるなぁー。サクラが帰ってきたら話してよ」
エリシアはそう言うと、自分のカバンの中を探り始めた。
その二人の行動に、ため息をついた。
少し寂しさもあったが、ある意味では安心した感じでもあった。
でも、あまり良くない思い出を思い出したおかげで、少し気持ちに落ち着きがなくなった......。
●サクラside●
家を後にした私は、友達との待ち合わせのため、自宅から一番近い喫茶店に向かっていた。
辺りは人が多く、色々なお店や車があってとても賑やかだ。
その中を私はひたすら歩いている。
(異世界からの冒険者か。ゲームとかアニメではよくあるけど。本当にあるんだ......)
そう考えながら歩いていると、喫茶店が見えてきた。
(まあ、私もこの世に存在を知られていない化物の一人だけどね......)
今は春。暖かい空気が辺りを包み始めている季節だが、やっぱり肌寒い。
そして喫茶店に入ると、その肌寒さも忘れるような暖かさが包み。着ているコートを脱ぎたくなるほどに暑くなるのであった。
「サクラー!」
店内に響く、私を呼ぶ声。
その声に、店内にいるお客さん及び店員さんは、一気に声の主に振り向く。
それがなんだか恥ずかしかった。
(あの子。もうちょっと周りを意識しないのかな)
そう思ってため息をつく。
そのまま帰りたくなったが、さすがに見捨てることはできないため、仕方なくその子の向かいの席に座る。
「どうしたんだサクラ!元気がないぞ!」
この子は『新藤奈央』私と同じ学校のクラスメートだ。
とにかくこの子はスポーツが好きで、主に陸上部の助っ人をやっている。なにか部活をやれば良いのだが、遊ぶことを優先にしたいらしい。
そしてその体育系っぽい人によくある、おおざっぱな性格の表れか、髪は短く切らず後ろで結ぶ程度だ。髪も染めたりはしないし、普段着るのは、少し絵柄の入ったティーシャツと、短パンくらいである。
それでも、素材は良いから。可愛い部類に入るし。男女共に人気が良い。
「奈央が無駄に大声を出すから、呆れて帰ろうとしただけよ」
「えっ?ひどーい!お前はいつからそんな友達を見捨てる悪友に成り下がったんだ!」
とこんな感じが奈央と私のいつものやり取りだ。
つまりは普通の友達。それ以上でもそれ以下でもない。
そして今日は、中間テストに向けて、成績の悪い奈央に勉強を教えるのだった。
ただ、私は数学という教科はあまり得意ではない。苦手というより、好きではないと言うべきかな。
だから、いつも奈央に数学を教えるときは、本来ならいるはずのあと一人に教えてもらっている。
「あーあ。こんな時愛莉がいたらなー」
奈央はそう言った瞬間。(しまった......)でも言っているように、必死で自分の口を抑えた。
「ごめん......思わず......」
「別にいい」
さっきまでの明るい雰囲気が、重たくなった。
なので、(なにかフォローしないと)という気持ちになった。
その気持ちを奈央は察したのか、明るく笑顔をつくった。
「いつ愛莉が帰ってきても大丈夫のように、私たちは笑っていないとね!」
その笑顔に私は思わず感心してしまう。こんな悲しい気持ちになっているときに必死で笑えるやつなんてなかなかいないからだ。
だから、見習って私もある程度の笑顔を奈央に向ける。
「そうだね。笑っていないと」
奈央は、私の自分なりの笑顔を見ると、いつもの調子を戻し、勉強に取り組む。
●●●
愛莉は、私たち二人とよくいる友達。
性格はおとなしく。といってあまり暗くない性格で、クラスメートからはお姉さんみたいだと言われている。
そんなお姉さんのような立場は、私たちの間でも変わらず。
性格が反対な私と奈央の間をフォローしてくれたりする。
今まで奈央とやってこれたのも愛莉のおかげだ。
しかし、愛莉はある日突然姿を消した。
学校にも来ないし、家にも姿を見せない。
この時私は、愛莉を必死に探しだした。
愛莉が持っている魔力。
人間は魔法などは使えないが、それを使うための隠れた魔力は皆持っている。
私はその魔力を頼りに愛莉を探しだした。
そしてやっと見つけることが出来たはずだった。
しかしそこにいたのは......。
「久しぶりね。サクラ」
その声は、とても懐かしい声だった。
私がよく知っている人物。
私のいちばんの姉。名前はローゼ。
そして私は、目の前にある光景に驚愕する。
姉が私の友人をさらい。その友人を家畜のように服を着せさせず、本人が作ったようなイバラの檻に閉じ込めている。
そしてその人物がこう言う。
「あれほど言ったよね。人間とはあまり関わってはいけないって。ダメじゃない、食べ物に情が移ったら生きていけないんだから」
そういうとローゼは、魔力で作った風を私に放った。
その風は私を遥か彼方まで飛ばすように、強く。圧倒的だった......。
気がつくと、私はどこかの山にいた。
そして、それから必死でローゼを探し続けている。愛莉が生きていることを祈りながら。
●●●
「サクラ。なにボーッとしてんの?ここはどうすればいい?」
どうやら勉強で解けないところがあるらしい。奈央は私にそれを聞いてきた。
「そこは昨日教えたところよ。しっかり覚えて」
私は呆れながら奈央の勉強を手伝う。
●エリシアside●
さてと、わたくしエリシアは今。この世界で放送されているアニメに釘付け中である。
というかここのアニメはすごい!
まずは板のように薄い機械。それをスイッチを付けると、映像が見れる。
まさに未来のテレビだ。しかも映像がすごくキレイ!
そして、この未来のテレビの置かれた台の中にまた別の薄い箱の形をした機械。これに何かの絵がかかれた円盤を入れると、その円盤にかかれた絵の人物がテレビで動く。
そして、その円盤に入っているアニメ。これが本当に面白い!
思わず十話くらい連続で見ちゃったよ!
「すこし休憩~」
と言ってテレビを消した。
辺りはとても静かである。気になって一緒にいる二人の様子を見た。
アンドリューは、部屋の本棚から取った本を静かに読んでいる。
ハイネはというと。自分の持っていた二丁の銃を手入れしているように見えた。
私はハイネのやっていることに興味が湧いて。ハイネに近づく。
「ハイネの拳銃って、やっぱりカッコいいよね」
すると突然ハイネは、分解していた銃をすごい早さで組み立てる。
そしていつもの撃てる状態の形にすると、そのまま銃口を私に向けた。
「ひぃ!ごめんなさい!」
私は驚いて、手を上げながら叫ぶ。
それを見てハイネは笑った。
「わるいな、ふざけすぎた。一応手入れ中に敵が襲ってきても大丈夫なように、こうやって早く撃てる練習はしているんだ。でも今は弾が入っていないから大丈夫だ」
すると、手に持っている銃をそのまま、腰につけられている黒い革で作られたL字型の入れ物にしまう。
するともう一方の革の入れ物から、もう一丁の銃を取り出す。
私は、さっきの驚きが治まると、そのままハイネの横に置かれた箱のようなカバンに目が入る。
「すごい!ハイネ、こんなカバン持っていたの?」
するとハイネは、見せつけるようにカバンを私の前まで引き寄せる。
「これは私専用のバックパックだ。一人だけの単独任務にはかなり便利でな。予備の弾もかなり入るし、泊まりがけの場合に携帯食料の保管や、軽い毛布も入る。だけど何より、このカバンの持ちやすさがすごいんだ」
そう言って立ち上がると、カバンを自分の背中に付ける。そしてベルトのような物を身体に巻き付けて、完全にフィットしている所を見せつける。
「おお!すごーい!」
と、感動はしているのだが、それより驚きは、ハイネの語りかたが、かなり熱がこもっていて、別人のようだったところだ。
「あ、えっと......すまん。勝手に一人で盛り上がって」
「ううん。ハイネもそうやって笑えるんだね!」
なんだか嬉しかった。なぜならハイネが嬉しそうに語る姿を見て、距離が縮んだように感じたからだ。
でも、なんでだろう。ハイネがなにか悩んでいる、というより考えているような、そんな感じだった。
「ただいま」
そんなことをしている間に、今いる部屋の住人がやって来た。
「あ、サクラおかえり!」
わたしは少し駆け足で、サクラの所に行く。
「ねえ。『少女探偵モア』の続きってないの?」
それは、さっき見ていたアニメの中で最も好きなアニメのタイトルだ。
「発売はあと一ヶ月くらいだったかな。まあ早く見たいなら、録画されている分を見てみるのもいいかも」
「ろくが?」
私はサクラのよく分からない言葉に首をかしげていると。ハイネがサクラのところにやって来る。すごく真剣な表情だ。
すると突然頭を深く下げた。
「頼む!私に昨日の化け物を倒すための方法を、強くなるための方法を、どうか教えてください!」
そのハイネの願いが、部屋中に響いた......。
「突然ね。もしかして仕返しとか考えているの?」
サクラはあきれたようにため息をつきながら言った。それでもハイネは頭を上げずに黙ったまま待つ。
私も突然の出来事に焦ってしまった。
「言っとくけど、あんたたちが生き残れたことはある意味奇跡なの。本来なら人間が私たち姉妹に狙われた時点で終わり。待っているのは死か、家畜。だからあんたたちはこの奇跡を無駄にしないで、さっさと別の世界に行って......」
「このままではダメなんだ......」
サクラの警告を無視してハイネは呟く。
「私の攻撃は、全く効かなかった。今までほとんどの敵は一発の銃弾で仕留めてきた。それなのに、全ての弾を当てたのに。全然効かなかった。このままじゃこの先、生き残ることができないんだ!だから頼む!私を強くする方法を、あいつらを倒す方法を教えてください!」
ハイネの願いにサクラは全く表情を変えなかった。けど、サクラの目は真剣だった。
そして私も初めて気づいた。ハイネは私たちの旅に対し責任を感じているのだと。
「あんたの気持ちはよくわからない。でも、それなりの覚悟はあるみたいね」
サクラはまたため息を付くと、そのまま後ろを振り向き、玄関のドアを開ける。
「来なさい。あんたを強くすることができる人を案内してあげる」
「あ、えっと、すまん!じゃない......ありがとうございます!」
ハイネは少しぎこちないお礼の言葉を言うと頭をあげる。そして安心と緊張の混じった表情でサクラを追いかける。
「まって!私も行く!」
私はサクラを追いかけるハイネの後ろをついていった。
そして私たちは、ハイネ・アルネック強化作戦を実行するのであった......。
今回出てきたハイネの今までの暮らし。少し波乱な人生を歩んだ十数年の一部を出しました。
今後も話の中で、主人公たちの秘密を少しずつ説明していこうと思っています。
今まで読んでくださった方。今後ともよろしくお願いします!