表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/60

『桜は死月に咲き誇る。』

「私が、贄になります」



魔法使いの願いを叶える為に少女は覚悟を示した。

何故、手を挙げてまで犠牲になる必要があるのか、その身を捧げてまで叶える価値のある願いなのか。氷雨(ひさめ)にはやはり理解出来なかった。他の三人は何も言わずに少女を見つめている。



廃れた町、名前すら忘れられた小さな世界。他の人間達は新しい世界へと移住し、残されたのは氷雨を含む五人の男女だけ。みんな、魔法使いに救われた恩があったから今この場にいる。復興さえ見限られたこの町を再生したい。それが、魔法使いの願い。その為には、千年樹木の桜が必要不可欠だった。



「同じ名を持つ私なら、きっと綺麗に咲き誇るわ」

「咲来……」

「大丈夫だよ、氷雨 」

「……キミが、望むなら正しい事なのかもしれない。会えなくなるのは……辛いけど……」



泣き出す氷雨を少女は優しく抱き寄せた。



「また会えるから。悲しまないで」

「……うん」



桜の木には魔力が備わっているらしい。元々、桜の木の下には死体が埋まってるなんて迷信があるくらいだ。それが千年樹木ともなると相当な魔力があるに違いない。ただし、花が咲くには人間の血が必要でその血を吸って万年桜になるそうだ。万年桜は枯れない桜としてずっと咲き誇る。



「魔法使いさん。お願いします」

「……わかりました」



浮かない表情で魔法使いは力を発動させた。少女と千年樹木が一体化し、魔法使いの手には剣が握られている。



「咲来……!」

「ダメだ、氷雨!」



抑えきれず伸ばした手は少女には届かない。氷雨は彼らに止められ、少女が魔法使いに刺される光景をただ見ている事しか出来なかった。

少女の身体は千年樹木に吸い込まれ、流れ出た血が幹を伝って蕾は花開いた。それはとても綺麗な瞬間で桜がこんなにも美しいと見惚れる程だった。

暖かな風が吹き、枯れ果てていた草木も芽吹いていく。灰色だった世界は色を取り戻し、緑豊かな大地を蘇らせた。



理想郷(アルカディア)……」



生まれ変わった世界に氷雨達も驚きを隠せない。これなら、また人々も戻ってくるかも知れない。



「咲来……」



膝をつく氷雨に魔法使いが歩み寄る。



「氷雨」

「……また……会えるの?おれは……咲来がいないと……」

「会えます、必ず。その為にはあなた方の力が必要です」

「結局は能力頼みか。魔法使いも有能ではないんだな」



一人が冷たく言い放つ。



「万年桜は枯れません。けれど、核となる部分を傷つけられたら死にます」

「……咲来も死ぬってこと……?」

「はい。なので、何人たりともこの木に近付けないよう、貴方達に護って欲しいのです」

「ガーディアンってことか」

「あんたの能力じゃ足らないの?」

「私の命はもう長くはありません。魔法使いは自分の願いを叶えてはいけない。その理を破った代償として命を落とします。だから、あなた達に託すのです。最期までこの桜を護って下さい」

「……自分が死んでも構わない位、この町を蘇らせたかったのか……?」

「はい。どうしても、叶えたかった……」

「……魔法使い……」



氷雨は 魔法使いに手を伸ばした。



「ありがとう。この世界を生き返らせてくれて。この景色に出逢えて良かった」

「……咲来のお陰だね……」

「また会えるその日まで、どうか、見守っていて下さい」



それから暫く経って魔法使いは息絶えた。残された少年達は魔法使いとの約束を守り抜いた。万年桜を刈ろうとする者や花びらを盗もうとする者、利用する者達を退けた。彼らの能力は強大で魔法使いが亡くなった後もその能力は偉大だった。

そうして何年もの月日が流れ、やがて万年桜は役目を終えたとでも言うように次第に衰えていった。



「咲来……」



それと同時に彼らも弱っていった。魔力を持つ万年桜と同じ、最期は葉さえつけなくなった桜の木の下で少年達は眠るように生涯を閉じた。




今では遠い昔の話──。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ