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『遥か遠くのセカイの出来事』

空を見上げる時は何時だって自由時間の夕方だけ。だから青い空があることを知らなかった。いつも紅く染まっていて、照らされる遠い景色が愛おしかった。



「早く外に出たいな……」



サイはいつも同じ言葉を呟く。

【鳥籠】の中で過ごす日々はとても暗くてつまらない。夕方まで朝からずっと武器を作らされる。手を間違えれば鞭で叩かれ、お偉い様の奉仕役として駆り出された。それが酷く辛いもので、二日間は体調が悪くなる。【鳥籠】に囚われている者達は逃げ出すことは愚か、死ぬことすら許されない。脱走を試みた者は、窓の無い檻の中に容れられ、磔にされるそうだ。死を望もうとした者は、もう息の薄い子達を解体させられるらしい。あまりの狂乱に言葉を無くし、精神を壊されるだとか。実際、見たことも経験したこともないので何が行われているのかは定かではない。けれど、この間、罰を侵した友だちは未だに戻ってきてはいない。



「なかなか難しいね……」

「リズは綺麗だからすぐ出ていくだろ……?」

「ここに来てもう半年経つけど、未だに決まらないよ。サイは器用だからもっとアピールすれば……」

「俺は……"いい子”じゃねぇしな……。気に入らない時はすぐに刃向かっちまう」

「それも個性だよ。ぼく達みたいな年頃男子はそういうものだよ」

「……早く買取手見つからねぇかな……」



もうすぐ日没となる。完全に陽が沈む前に中に入らなければ罰せられてしまう。サイとリズは小走りで【鳥籠】の中へと戻った。一つの檻の中に4人の少年達が暮らしている。若干のスペースがあるくらいの四角い部屋。ベッドやトイレと言ったものなどなく、冷たい床の上で1枚の布を敷いて寝るしかない。半年も経てば身体が順応していく。濁った空気にも慣れてしまう程。



「ミカ……まだ戻ってこないね……」

「え、まだなの……?」

「ユーリが言ってた。もう……ここには戻ってこないかもって……」

「それって……」

「殺されたか売られたかだろ。どちらにしろ、もう会えないよ」



冷たく言い放つクレアに空気が冷めた気がした。彼はいつも言葉がキツい。泣き虫のヴァルはそれにビクビクして涙を流している。宥めるのはサイの役目と勝手に決まっていた。



「ヴァルに当たるなよ、クレア」

「凡その見解を言ったまでだよ。いい加減、泣くのやめたら?」

「おい……!」

「解ってるクセにいちいち聞くからでしょ。もう寝るんだから五月蝿くしないでよね」



一人、背を向け就寝したクレア。安堵したのか、ヴァルは泣きやみながらみんなに小さな声で謝った。



「ぼくたちもそろそろ寝ないと、監視に見つかるね」

「……サイ。一緒に……寝て……」

「あぁ。もう泣くなよ」

「うん」



見回りの監視が来る前に就寝し、期待の無い夢を見る。

この【鳥籠】の中から外へ出るには、富豪達の目に止まらなければならず、大金で買われなければ意味が無い。買取手もそう簡単には訪れないので、その時を待ち望む子どもは沢山いた。

大人の勝手な都合で【鳥籠】へ容れられた子どもが大半を占めるこの世界。同じような境遇の子が偏り、仲間意識も芽生える。意識を強く保っていないと澱んだ空気に感化されて外への希望も失せてしまうから、 感情だけは失くさないようにしなければならない。今までも精神病になっていなくなった子は山程いる。



「ヴァル、寝た?」

「あぁ。秒殺だ」

「良かった」



この檻の中にいるのは歳も近い少年達。

実直で優しいサイは面倒見も良く、他の子達からも慕われている。クレアは黙っていれば綺麗なのだがいちいち五月蝿い。群れるのが嫌いなのか自分から関わろうとしない。ヴァルは泣き虫だが笑った顔が可愛くて愛嬌がある。年上の子達からは可愛がられていた。リズはとても端正な顔立ちをしており、性格も穏やかだったのですぐにみんなと打ち解けていた。



「ここから出られたら、サイはどうしたい?」



久々に4人で夕陽を眺めた。綺麗な景色にヴァルは感動し、ずっと遠くの世界を見つめていた。



「ちゃんとした仕事に就く。金稼いで自由に暮らしたいな」

「素敵だねぇ。クレアは?」

「妹に会いに行く」

「可愛いんだっけ?ぼくも会ってみたいな。ヴァルは?」

「おれは……先生に会いたい……」

「一緒に旅してた人?」

「うん。必ず捜し出して……また会いたい」



みんな事情は様々だ。

サイは元々孤児で仲間達と暮らしていたが、警官に捕まり、【鳥籠】へと容れられてしまった。その仲間達も一緒に捕まったそうなのだがここに送られたのはサイだけだったそうだ。

クレアは母子家庭で母と妹を支える為に働いていた。その綺麗な容姿故に人攫いに遭い、気付いたら此処にいた。

ヴァルは丁稚奉公していた所に後の師と呼ぶ先生と出逢い、旅をしていた矢先、賊に襲われ、生き別れとなってしまった。

リズは行方不明の兄を捜す旅をしていた所、奴隷商人に騙され、ここへ容れられてしまった。



「リズは?」

「兄を捜すよ。何処にいるか全く不明だけど」

「おれも、頑張る」

「うん。見つけようね、ヴァル」



その日が、4人で見た【鳥籠】での最後の夕陽だった──。






「あー……ケツいてぇ………」

「リズ!」



檻の中に戻ると心配そうにサイが迎えてくれた。



「あれ……?ヴァルとクレアは?」

「連れていかれた。罰は罰だからって」

「えー……。ぼくの立場無いじゃん……」

「悪いな……。お前が庇ってくれたのに……」

「サイが謝る事じゃ無いでしょ」

「でも……酷い仕打ちされたんだろ……?お尻……痛いのか?」

「あぁ、これは揉まれすぎてね……。変態野郎がずーっとモミモミしてきてさぁ……同じ体勢で疲れちゃったよ……」

「……本当にそれだけか?女みたいな事されたんじゃないのか?」

「されてないよ……」

「嘘つくな」



見透かすような強い視線にリズはビクッと肩を震わせた。



「……サイは、そういうことされた事ないの?」

「至る前に殴って終いだ。経験もない」

「そっか……」

「本当は何された?」

「……なにって……」

「聞かれてそんなに震えてるクセに、よく誤魔化せると思ったな」

「サイには敵わないなぁ……」

「触れても平気か?」

「あ、なら……一緒に座ろ……。ちゃんと話すから……」



二人は壁に寄りかかりながら腰を下ろした。



「……女になれって言われた。断ったら仲間にも罰が下るって脅されて……仕方なく……」



話し出したリズの声は少し震えていた。



「あの変態野郎か」

「……されるがままで……訳分からなくて……。痛いのと苦しいのとで頭がおかしくなりそうだった」

「良いように立場翳しやがって……。殺しても文句言えねぇだろ」

「サイ……ごめん……。嫌な気持ちにさせて……」

「謝るな」

「……どうしよう……。ヴァルとクレアも同じようなことされてたら……」

「それはねぇから安心しろ」

「えっ、なんで……」



意味深な優しい笑みを向けられ、リズは首を傾げた。






ガチャン、と扉が開き、懲罰房からヴァルとクレアが出てきた。



「もうほんと勘弁……。身体痛い……」

「銃とか取らなくていいの?」

「すぐにバレるって。見つからない内に戻るよ」

「うん」



二人は辺りを警戒しながら檻まで走っていった。

作業中、クレアが手を間違えてしまい、それを庇おうとしたヴァルもミスをして、二人の責任をリズが取ると言った。相手が変態野郎監視官だったので、リズだけを連れてその時は騒ぎにはならなかった。けれど、聞きつけた違う監視官によってクレアとヴァルも罰を受けろと懲罰房へと容れられたのだ。鞭打ちされる前に機を見計らってクレアが監視官の背後に周って動きを封じ、ヴァルは監視官から奪い取った鞭で監視官を眠らせた。



「また……罰だって言われないかな……」

「当分起きないように強めに打ったんでしょ?心配無いよ」

「……うん」

「悪かったね……ヴァル……」

「クレアが謝る事は何も無いよ」



普段は距離のある二人だと子ども達に思われているが、二人きりの時は互いを信頼し合っている良きパートナーだと思わせる位、連携プレーが見事だった。



「ただいま」

「おぅ。お疲れ様」

「リズ……寝てるの?」

「あぁ」

「珍しい。いつも最後に寝るのに」



安心したように眠るリズの寝顔を見るのは貴重だった。クレアは誰よりも先に寝てしまうし、ヴァルもサイに寄り添って貰うとすぐに眠る。だからこうしてリズも寝ていることを知って二人も安堵した。







その日は朝から騒がしかった。子ども達は早めに朝食を促され、作業はなく檻に戻されてしまった。そのまま何の情報もなく密閉空間に囚われまま。やる事もないので過ぎ行く時間は長く感じた。



「なんで誰も来ないんだよ」

「勝手に動いたら罰が下るよ」

「リズが戻って来ないのも関係あるのかな」



朝食時、リズだけがお呼ばれし、どこかへと連れていかれた。作業中に手を間違えたこともミスをしたこともないリズが監視官に呼ばれるのは変な気もしていた。




「この間、お偉い様来てたよね……?それにリズが指名されたとか……」

「有り得ない話でも無いね。僕もお目にかからないかな……」

「クレアは猫被らないとダメなんじゃ……」

「はぁ?どの口が言うのかなぁ……」

「まぁまぁ」



じゃれ合うクレアとヴァルを宥めながらサイは微かに聴こえた音に振り向いた。



「どうしたの?」

「誰か来る……」



息を潜めて気配に耳を済ます。段々とこちらに近付いてくる足音だと分かった。それは他の子達も悟ったらしい。



「監視官か?」

「それならあんなに静かに歩かないよ」



徐々に迫ってくる気配に子ども達は身を潜める。



「──この檻か?」



凛とした声が響く。 立ち止まった檻はサイ達の向かい側。だから見えたのは後ろ姿だった。



「違う。こっち」

「そうか」



振り向いたその人はとても綺麗な人間だった。



「お前達か」



リズやクレアよりも端麗な顔立ちで中性的な雰囲気を纏っていた。その隣にいた子どもも可愛らしさを帯びている。



「オレはヨル。この子はルヴィ。オレがお前達を買い取った。この檻から出してやる」

「……えっ」

「ちょっと待ってよ!何で僕らだけ……」

「既にやり取りは済ませてある」

「リズは?」

「オレが買い取ったのはお前達3人だけだ」

「はぁ?なんでリズは一緒じゃないの!?」



クレアは苛立ちながら問いかける。



「リズという子に頼まれたんだ。大事な仲間を助けて欲しい、と。けれど、オレの持ち金では多くは買い取れない。そう伝えたら、リズは仲間だけはこの檻の中から救いたいと。お前達は愛されているのだな」

「……じゃあ……リズは……どうなるの」

「監視官のお気に入りだと聞いた。暫くは出られないだろう」

「だったら!僕らも拒否する!リズを犠牲に自由になりたくない!」

「おれも」



ヴァルとクレアの意志は固い。何を言っても引かない気だ。



「……参ったな……」

「リズはどこ!?」

「監視官達に連れていかれた。場所は分からない」

「行くよ、ヴァル!」

「うん」



二人は意のままに檻から飛び出し、リズを探しに行った。



「どうしたものか……」

「なぁ。あんた、強いか?」

「……再起不能にする位ならできるけど」

「なら、問題ねぇな」

「キミも行くの?」

「当然だろ」



サイも出ていき、ヨルは溜息をついた。






娯楽室と言う部屋がある。主に作業で有能な子や監視官達のお気に入りの子が入れることの出来る部屋。そこにリズは連れて来られた。



「この間みたいに出来るよなぁ?リズ」



監視官には逆らえない。例え、殺されかけたとしても反抗してはいけない。そういう風にされてしまった。



「さぁ。服を脱いで脚を開きなさい」



今までなら言う通りにしてきた。でも今は従いたくない。あんな思いは二度と御免だ。リズは隠し持っていたナイフに手を掛け、勢いのまま走り出した。



「こいつ、ナイフを……!」

「取り押さえろ!」

「触るな!」



ナイフを向けながら殺気を放つ子どもに監視官達は恐れをなした。何故か身体が動かない。一歩でも踏み入ったら本当に殺されるのではないかと恐怖を感じ取っていた。



「──リズ!」



監視官達の後ろから現れたヴァル。気を削がれた一人がヴァルを捕らえようとした。



「はい、残念」



ヴァルの背後からサッと現れたクレアが監視官の腹に重たい蹴りを入れ、失神させる。倒れた監視官の服から銃を奪ったヴァルがリズを捕らえようとしている残りの監視官達に向けた。



「リズを返して」

「バカな真似はやめなさい。銃なんて扱ったことないだろう……」

「動くな」

「ガキが……」

「リズ!早くこっちに」



二人の登場に驚いていたリズはクレアに促され、監視官達の中から抜け出した。



「走って」

「行って、リズ!早く!」

「……どうして……」

「仲間だから助けに来るのは当たり前でしょ」

「リズがいないと寂しいよ」



そんな風に思っていたのは自分だけかと思っていた。だから嬉しくて泣いてしまいそうになってしまった。



「一緒に逃げるよ」

「先に行って、クレア!」

「ちゃんと戻ってきてよ、ヴァル」

「解ってる」



二人を先に逃がし、ヴァルは睨み付けてくる監視官達を見据えた。銃一つだけでどこまで人数を減らせるか分からない。それでも、先生から教わった通りにヴァルは銃爪に手をかけた。






「面倒ごとは避けるようにしてたんだが……」



ヨルは殺さない程度に見張りの監視官達を倒していき、先程の子ども達を探していた。ルヴィも離れないようにヨルの後をしっかりとついている。



「ヨル……。あそこ……」



ルヴィが指差す方向に扉が見え、何の警戒もなく開いた。中から漂う異臭に咄嗟に口元を手で押さえる。その部屋にあったのは、綺麗な少年達の首。ホルマリン漬けにされているから腐らずそのまま綺麗に保たれているのだろう。



「怖い……」

「悪趣味……なんてオレが言えた義理じゃないか。ルヴィ、今見たことは忘れろ」



此処は奴隷市場ではなかったのかと疑問を抱きながらヨルはルヴィを連れて部屋から出た。



「ヨル……音、聴こえた……」

「あぁ……。銃声だな」

「あっちが近い」

「ルヴィ」



ヨルはルヴィを腕に抱き、ルヴィはぎゅっと目を瞑った。

聴こえた銃声は一度。それからはまた大人しい。誰かが仕留められた可能性も高い。




「ガキにしてはやるじゃないか」



撃たれた監視官は静かに地面に倒れている。ヴァルの放った銃弾は目の前にいた監視官の額を貫いた。



「折角の商品だが、仕方ない。構えろ!」



一斉に向けられた銃口にヴァルはビビる事無く銃を構え直した。



「殺れ」



複数の銃弾が放たれた瞬間、ヴァルは誰かに押され床に倒れた。お陰で死にはしなかったが、身体が痛かった。



「お前は……」

「ルヴィ、この子連れて逃げられるか?」

「出来る」

「OK」



ヴァルはルヴィに引き摺られる形で連れていかれた。



「誰だ!こいつを招き入れたのは!」

「何かまずいことでも?」

「その方は大金で3人買って下さった方ですが」

「よく見ろ!お前達、知らないのか!?こいつの顔!」

「綺麗ですね」

「こいつは人殺しだ!数年前に死んだと噂されてたがまさか生きていたとは……」

「有名人ですか」

「めちゃくちゃ有名人だ。軽く見たら首が飛ぶぞ」



流石にもう時が忘れさせてくれているものだと思っていた。ヨルは溜息をつき、監視官達を見渡す。



「生憎、もう殺しはしないと誓ったからな。安心しろ」

「出来るか!」

「いちいちうるさいな。子ども達は買い取ったんだ。大人しく見逃してくれ」

「ガキが一人殺した。私達に対する反逆だ」

「正当防衛じゃないか?」

「うるさい」

「……面倒だな」



子ども達はもう外まで逃げた頃だろう。態々、身体を使う必要はない。



「じゃ。」



サッと逃げ出したヨルに監視官達は虚をつかれた様子で、慌てて追いかけた。






「サイは?」



外まで逃げられたリズとクレア。走りっぱなしで息が上がっていた。



「来るよ」

「……なんで……助けに来たの……?ぼくはみんなを巻き込みたくなかった……」

「バカ!こういう状で助けられても嬉しくないよ!」

「でも……ぼくだけなんて……嫌だった……」

「気にしなくていいのに」

「……ごめん」

「また会えたからいいけど」



クレアは優しく笑い、リズの頭を撫でた。



「──クレア!」

「ヴァル」



ルヴィと一緒に外に出てきたヴァルに安堵する二人。けれどリズの表情は浮かないままだ。



「ねぇ、ヴァル。サイは一緒じゃないの?」

「……うん」

「まだ中にいたら……」

「此処で待つよ、リズ!」

「クレア……?」

「戻ったらダメ!監視官に捕まったらもう二度とこんな機会無いんだよ!」



クレアに掴まれた腕が痛い。振り払えない程に。それだけ想ってくれているのだと痛感する。



「サイならきっとあの人と一緒に……」



その時、ドンッと物凄い爆音が響き、その直後に【鳥籠】から火が出た。メラメラと勢いよく火の粉を散らしていく。まだ中には囚われている子ども達がたくさんいるのに。



「嘘でしょ……」



あっという間に【鳥籠】全体を飲み込んだ炎は轟音とともに燃え続ける。



「サイ……!」

「──出てきた。もう大丈夫だよ」



至って平然としていたルヴィが指す方向から、サイを抱えたヨルの姿が見えた。あんなに燃え盛っているのに、ヨルは火傷一つ負っていない。



「少し煙を吸ったらしい。火傷はしていないから安心していい」

「……サイ……。良かった……」

「リズ……?」



サイはリズ達に支えられながらヨルから離れた。



「ごめん……。ぼくの所為で……」

「無事ならいいよ。ヴァルとクレアも一緒だったのか」



再会を喜ぶリズ達を他所にヨルは険しい表情で崩れていく【鳥籠】の方を見ていた。



「この爆発は意図的に計られたものだ。早々に立ち去った方が賢明だろう。馬を用意している。それに乗れ」

「こっち」



早々にこの場から立ち去ろうとしているリズ達を狙う一つの影。やっとの思いで外に出られた監視官は、フラフラしながらも狙いを定める。



「乗馬の経験は?」

「多少……」

「おれは知ってる。先生に教わった」

「なら、二人はその馬に。ルヴィはこの子を頼めるか?」

「うん」



経験のあるヴァルとその後ろにクレアが乗り、ルヴィとヨルが乗り方を説明しながらサイを補助する。そのやり方を聞いていたリズは不意に気配を察し、振り向いた。



「逃がさんぞ……リズ……!」



体の半身が焼け爛れていながらもあと少しの距離まで迫ってきていた監視官にリズは恐怖で動けなかった。



「リズ!」

「みんなは先に行って!」

「……巫山戯んなよ」



サイは馬から降り、リズの手を掴んで走った。



「お前はわたしのものだ……リズ……」

「あぁ……もう、面倒ばっかだな」

「退け……!」



放たれた銃弾を素手の2本指で捕らえたヨル。その技にはサイ達も驚きだ。



「邪魔を……」

「もう良いだろう。自由にしてやれ」

「人殺しが……!」

「しつこい」



瞬時に監視官の背後に回り込んだヨルは手刀を食らわせ、気絶させた。



「……あの人なに……?化け物……?」

「ヨルは天才なんだよ」



ルヴィは簡潔に言う。クレアとヴァルはヨルの力量に驚きを隠せず動揺していた。



パンッ、と頬を叩かれ、痛みを感じる前にグイッと抱き寄せられたリズ。ぎゅっと強く抱きしめられ、少し身体が痛かった。



「……サイ?」

「もうあんな真似するな。自分だけ犠牲になるな。俺らだってお前のこと守りたいよ」

「……ぼくだって、みんなのこと守りたかった。だから」

「お前が居なくなったら哀しいだろうが。泣く奴のことも考えろ」

「……ごめん」



サイの優しさを実感する。こうやって抱きしめられたのは久しぶりだ。とても温かくてほっとする。



「でも……他の子達は……」

「心配無い。爆発される前に逃がした。知り合いが保護してくれている」

「良かった……」

「早く馬に乗れ」



ヨルに促され、サイとリズも乗馬する。まだ燃えている炎を背に、ヨルの合図で馬は走り出した。


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