表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/60

『もう一度……』

願わずにはいられないんだ……


『また、会いたい』なんて……


想えば想う程、涙が止まらない。


いくら、名前を呼んだって、キミはもう振り向かない。


どんなに手を伸ばしたって、触れることすら叶わない……。


こんなにも、好きだって、告白することも、もう……出来ない。


何度も何度も、受け入れようとしたんだ。


でも……


あんなにもずっと一緒にいたのに、キミが隣にいないなんて……。



無理だ……。


この世界にキミの存在がもう無いなんて……僕には有り得ない。






「人が人を好きになるのって、キセキ?」



接点なんて無かった。


青空の下で寝ていたキミが、いきなりそんなことを聞いたから。


「奇跡だね。稀な出来事だ」


その答えは適当だったのに、キミは受け入れた。


「じゃあ、神様は?どこにいるの?」


幼稚園児と話している感覚だった。キミは僕と同じ高校生じゃないのか。


「案外、傍にいるんじゃないの?守護霊みたいな」


「もし居たなら、ヒーローは死ななかった?」


「そうだね。キミの好きなヒーローは間に合わなかったのかもね」


「エリィは死なない?ずっと……居る?」


「人間はいつか死ぬよ。この世に生まれて来たからには、死んで生まれ変わりしないと」


「どうして?」


「命を繋げなきゃいけないからだよ。世界が起動してるのは、次世代がいるからだ」


「アキも……死ぬの……?」


「その時が来たら誰しも死ぬんだよ。アキだけ特別な訳じゃないでしょ?」


「……病気だって。もう治らない……。死期が近いって」


「だからそんな話したの?病院は?」


「居たくないんだもん。死ぬ事が確実だって言われてるみたいで」


「治療すれば少しは長生き出来るんでしょ?」


「薬キライ。ご飯もキライ。学校もキライ。ぜーんぶ大嫌い」


「どうでも良くなってない?」


「でも、エリィの事は好き」


「なんで?」


「一人だったから。アキも、ずっと一人。だから、仲間」


「群れてる方が安心するのは、不安だからだよ。僕には無縁だ 」


「アキも。ともだちキライ」


「何かあった?」


「変な子だって。頭オカシイって。バカだって。指差されて笑われた。みんなと同じにはなれないって」


「個性的って事でしょ。いいじゃん、言わせておけば」


「アキは何も言ってないよ。ただ聞いてただけ」


「人の悪口ほど、暇なものはないからね」


「うるさかったから、口の中にゴミいれてきた」


「やるじゃん」


「そしたら殴られた。腹も蹴られた。痛かったけど、泣かなかったよ」


「強い強い」


「でもね……最期にバイバイって言う人がいないの」


「親は?」


「顔も名前も知らない。孤児だから、からかわれた」


「それで僕に話しかけてきたと?」


「エリィは、アキのこと、嫌がらない。笑わない。話、聞いてくれる。優しい。だから、好き」


「褒めるの上手いなぁ。何か出てくるって期待してる?」


「ビスケットならさっき食べた」


「なら、付き合う?」


「病院はやだよ」


「僕だって嫌だよ。行きたい所とかないの?」


「……エリィのとなり」


「……お、おぉ……」


「お出かけもキライ。話してるのが好き」


「そう……。僕も出歩くの怠いし……」


「お家。エリィのお家」


「大胆だね、アキは。可愛いから招くけど」


「エリィも可愛い」


「……どうせなら、かっこいいって褒められたいんだけどな」


「可愛い。エリィは、ずっと可愛いよ」



他愛ない話を沢山した。


意思がはっきりしてるから話しやすかったんだ。


それで、みんなからハブられてもまぁいっかって思えたし。


誰かを敵にして徒党を組まなきゃ生きられないのかってくらい、人との関係を恐れてる。


そんな人間にはなりたくなかった。




「あ、ヒーロー」


「まさか芸名がヒーローとは思わなかった」


「ヒーローの歌、好き。全部、歌える」


「聴かせてくれるの?」


「エリィ、感動するよ。アキの歌は天才だから」


「すごい自信だなぁ。期待値あげちゃうよ」


「きっと惚れる」




今でも耳に残って離れない。


キミの的外れな歌声が、聴こえてきそうだ。


ほんとに、今でも耳が二つ付いているのは奇跡だな。


あれほどの歌唱力とは流石に予期してなかったし……。


でも、声は綺麗だったから……ずっと憶えてるんだ。




「エデンのソノ?」


「園ね。りんごが美味しかったーって話だよ」


「神様キライ」


「信仰してたんじゃないの?」


「イヴとアダム、切り離した。キライ」


「一番最初に《寂しい》って思いを知ったからね。余計、辛かったんだよ」


「アキ、神様になりたい」


「……がんばれー」


「エリィが幸せになれる世界にする」


「それは有難いねぇ」


「あとの人間は要らない」


「……どうするの?」


「二人だけの世界を創ろう、エリィ」


「叶うといいね」


「叶えたい。願いは叶うってヒーローも言ってた」


「……どんなに必死に努力したって、報われない事もあるんだけどね」


「諦めながら努力してるから?」


「ダメ元でやっても成功する確率は低いって話」


「アキは違うよ。叶えたいから努力するの。何もしないで無駄だったなんて泣きたくないよ」




挫折も痛みも味わったキミの言葉。

ほんとうに叶うと思えたんだ。



たとえ、才能に負けても、振り返らないキミの強さにもう惹かれていたんだ……。




「エリィは、アキのこと、好き?」


「好きだよー。一緒にいると落ち着く」


「アキも!エリィと居るととても楽しい。お話して触れ合って、笑い合って、すごく好き。同じ世界に生まれたキセキ」


「ありがとう」


「だから、会えて嬉しかった。アキを好きになってくれて幸せだった。誰よりも、愛してる」


「アキ……?」


「……もうすぐ、お別れしなきゃいけない。ちゃんとバイバイできるかな……」


「……なにを……」


「思ったよりも病気、進行してて……。いつ死んでもおかしくないって……」




それまで忘れかけていた現実を突き付けられた感じだった。


そうだ……この子は病気だったんだ。


いつも明るくてにこにこしてて、そんな陰りなんか一切見せなかったのに。




「愛する人がいない世界って……絶望?」


「そういう話はやめようよ……。僕にとっては絶望だよ」


「……アキは……エリィが隣にいないと……怖い。お別れして哀しいのは……アキもだよ……」


「えっ……」


「どうして……生きてる人の方が哀しいんだって思うの……?死んじゃった人だって哀しいって思ってる……」


「アキは死ぬ時、なにを思う?」


「……わかんない……。今はまだ生きてるから……。でも……エリィと別れるのは辛い……哀しい……。ずっと一緒にいたい……」




初めて声を荒らげて大泣きしたキミに、生きている意味を教えて貰った。


望まない死は……たくさんの別れを告げる。




「ねぇ、アキ。《死者に対する最高の手向けは、悲しみではなく感謝だ》って言葉、知ってる?」


「……ソーントン・ワイルダー?」


「そう。もう会えなくて、哀しいけど……別れの言葉じゃなくて、感謝の意を伝える。その気持ちこそが、一番の追悼になるんだって」


「……エリィは……アキがいて良かった?一緒に色んなお話していっぱい笑って楽しかった?愛してた?」


「うん。ずっと愛してる。だから、まだ終わりじゃないよ」


「あ……明日には……居ないかも知れない……」


「死の間際まで、ずっと傍にいるから。僕が一緒にいる。大丈夫だ」


「……エリィ……」




日に日に弱っていくキミの手を握ることしか出来なかったけど……。


それでも最期の瞬間まで、その温もりを離したくなかった。


このまま、死神が現れてキミの命を狩ろうとしても、絶対に渡さない。




「あ!見て、エリィ。キレイ」


「もうクリスマスかぁ。雪降らないかなぁ」


「雪は寒い……」


「でも、好きな人と一緒にいると暖かいでしょ?」


「……うん。暖かいね」




キミにとっての最期の外出。


街並みは光り輝いて、一際大きなツリーが人目を惹いた。


ぎゅっと強く互いの手を握りしめて、離れないように。




「アキは、春には出会えないけど、桜……キレイに咲くといいな」


「咲くよ。それはもう綺麗に」


「エリィが目に焼き付けてね」


「うん」




キミの分までちゃんと、見届けたい。




雪が降り出してツリーが夜空に輝いた。このままずっと二人で居られればいいのに。

そんな我儘が、神様にもバレてたみたいだ。



──別れは、唐突だった。







「エリィ。今日もお花持ってきたよ」



──違うよ、アキ……!

僕はここだ。ずっとキミの傍に居るんだよ!



どうして…………




「ねぇ、ママー。このお墓、誰のー?」


「ママの大好きだった人のなの。沢山おしゃべりしていつも傍に居てくれた人だよ」


「パパも知ってる人ー?」


「話だけならね。直接会ったことはないよ」




アキ……。


キミは幸せになったんだね……。


病気も克服したんだね……。


どうして、今キミの隣にいるのが僕じゃないんだって何度も思うよ。


誰よりもキミのことを知っていたのは僕だ。


いつだって隣にいたのは僕なんだよ。


それなのに……どうして……僕の隣にキミはいないの……。


──あの日……僕はキミを独りにさせてしまったから……?




「ママー?この人はなんで死んじゃったのー?」


「えっとねぇ……悪い人からママを守ってくれたからなの」


「悪者ー?」


「……無差別殺人犯から、あたしを守って、その代わりに刺されちゃった……。ほんとは……エリィが死ぬ事はなかったのに……。なんで……」


「アキ……。そうやって自分を責めるのは良くない」


「どうして……今……抱きしめてくれてるのがエリィじゃないんだろうって……」


「……それを言われたらオレがキツい……」


「……会いたい……。エリィに会いたい……!またお話したいよぉ……!」




泣き崩れるキミを抱きしめることすら叶わない。


会いたいのは僕だって同じだ。


でも、伸ばしたこの手にキミが気付くことは無い。


僕はキミの守護霊として、キミを守ると決めたんだ。




「……願わくば、キミの世界に……幸多からんことを……」



大好きだった。


ずっと一緒に居たかった。


叶わない願いを今でも想い続ける。






──キミが、僕のことを忘れるその日まで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ