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『手向ける花などありはしない。』

仲間が殺されていく……。


私は、ただ見ている事しか出来なかった。


重ねた罪の重さを知り、命の尊さを思い知った。


今まで私達がしてきた事の報い。


これは、世界からの復讐なのだ。


何がいけなかったのか、悪かったのか、


それすらも判らなくなっていたのだ。


手を染めていく毎に快楽に溺れていった。


人を殺める感触を、好んでしまった。


血に塗れたこの手でいくら抵抗しようとも敵わない。


今更「ごめんなさい」だなんて神への冒涜だ。


目の前で1人、また1人と仲間が殺される瞬間を見せられた。


やめてくれ……。


そう叫んだのに誰も助けてはくれない。


罪に塗れたこの私を民衆どもは許さない。



ーー沢山の命を奪った。



貧しい暮らしの中、必死に生きてきた母娘を。


結ばれたばかりの男女を。


生まれたての赤子を。


最期まで生に縋った老人を。


嘗て共に戦った戦友を。



全てこの手に掛けた。



「助けて」って必死に叫ぶ姿を踏み潰してきたんだ。



私達の行為は許されない。


どんなに酷い拷問をされたって逆らえない。


それが報いだ。


いつかこうなる運命だと、最初の1人を殺めた時に悟った。



殺しは快感。美学だ。要らないモノを排除しているだけなのだから。



「姉さん!」



捕まった時、一番年下のチェルシーが目の前で殺された。



天井から吊るされた鎖に両手を繋がれてしまった私は助けることも出来ずに見殺しにした。



チェルシーは、何度も何度も身体を刺されて最後には乱暴に焼かれた。


骨すら残らず散っていった彼女に手向ける花などありはしない。


それでもチェルシーは私を守った。


「姉さんに手を出したら許さないから!」


激痛にも耐えながら。


その姿は美しかったよ。


私の仲間に恥じない立派な姿勢だ。


けれど、死を悼む間もなく次に処刑されたのは、親しき仲だったルキ。


穢れても尚、美しく気高い彼女が大好きだった。



「生きて……。貴女だけは、生き抜いて……」



直接頭に送られたテレパス。


ルキは、顔に塩酸を掛けられて口の中に焼けた鉄屑を入れられた。


一番美しかった顔は見るも無惨に焼け爛れ、とても綺麗だった清廉な声は言葉も発せぬ程に醜く枯れてしまった。


ルキは放置されて死んだ。


私はずっと、枯れ果てた姿のルキを見せられていた。


そんな姿一番見たくなかったのに。



哀しむ間もなく処刑は淡々と行われた。


愛した彼もまた矢を射貫かれた。



「やめろ……。殺すな……!」



悲痛な叫びは、彼の悲鳴に掻き消された。


両手両足をもぎ取られ、血飛沫に塗れながら彼は泣いていた。



もう、何も見たくない。


「フレイ……」



こんなにも残酷なものだっただろうか。


仲間の命がこんなにも大切だったなんて……。



目を閉じれば仲間の死ぬ姿が甦る。


夢であったならいいと何度も否定した。


残された仲間はあと1人……。



「やっと死ねるな」



首元に剣先を突き付けられ、見上げた先にいたのはいつか会った顔が2つ。



「最後の仲間はどこにいる?」



剣を突きつけている男が感情の無い声で聞いた。


「……何を……」



どこにいる?なんて的外れな質問ではないか。


「捕まえた時から1人欠けていた。気付いてなかったのか」



その時は満身創痍で傍に誰がいたかも分からなかったんだ。憶えているはずが無い。



「……私で…最後じゃないのか…?」

「違う。あと1人足りない」

「……じゃあ、最初から居なかっただけじゃないのか?」

「そんな筈はない。お前らは8人居るはずだ。そうだろう?【レクイエム】の団長さん」



ーー【レクイエム】ーー

・気紛れで気分屋で人の死を好む快楽殺人集団のこと。 8人の美女達で構成された美しい殺人鬼達。その殺しの技は世界で唯一とも呼ばれているぐらいの鮮やかさで時には夢を売ったりもしている。この世界でこの名を知らない者はいない。彼女達に狙われたが最期、命は無いものと思え。



「本当に知らないよ……。誰がいたのかも……もう分からない……」



夢と現実が交錯して頭が働かない。腕の辛さもあってか体力は消耗しきっていた。



「じゃあ、もうあんたを殺そう。そうしたら、最後の1人も自ずと現れんだろ」

「殺れ。私にはもう何も無い。独りで生きていても無意味なだけだ」

「……お前が言うな」



男の隣で今まで黙っていた彼女が冷たい声を放った。



「ユキを殺したクセに……!ミクの事も傷つけといてよくそんな言葉が出てくるな!?今まで罪のない人々を沢山奪ってきてその態度は何なの!?殺されても仕方ないだなんて思ってんならあんたは殺さない。傷つけ傷つけて、生殺しのように生かしといてあげる」



彼女の甲高い笑い声が耳に痛い。


死ねば仲間と会えると思ったのに、現実は甘くない。



「ユキとミクを傷つけた分、たっぷり痛め付けてあげる。覚悟はいいかしら?【レクイエム】の団長様

?」

「 ……」



彼女は刃を尖らせ、私の体へ突き刺したーー。




*******



何度目覚めた事だろう。


痛みに耐えきれずに意識を失って、激痛を感じてまた意識を取り戻す。


その繰り返し。



女は、急所だけを上手く外しながら死なない程度に私を痛打った。


骨が折れても命に支障はない。だから新たな痛みを与えられる。


本当の生殺しだ。


いっそ殺された方がどれ程マシだろうか。


けれど女は許さない。


男も私を嘲るように見下して。


今までの悪行が痛みとなって返ってくる。


私に殺された奴らも、こんな痛みを背負っていたのか……。


最後の仲間がいたとしても、もう会えない。


会うこともない。


きっと彼女は、仲間と共に死ぬよりも独りで生きていくことに縋る。



「…なぁ、そうだろう?」



痛みの感触も解らなくなってきた頃、私を捕まえた男女が死んだと耳に入った。


正確には殺されたらしい。


ここにいた全員を一瞬で死に誘った狂人。


ーー彼女だ。


こんな事が出来るのは彼女しかいない。



「団長!」



やっと見つけた最後の仲間。


また逢えたことに祝福を。



「……あぁ。リグルタか……。生きていたんだな……」

「……あんた……目が……」

「その声……本物だな。済まない、折角来てくれたのに。私はもう…何も見る事が出来ない…」

「それでも……生きていてくれた……。仲間が全員殺されたって聞いて……やっと…辿り着いたんだ…。あんたが生きていてくれて、また会えて嬉しいよ」

「……お前にそう言って貰えるとは私も幸せ者だな」

「この箱の中にいる奴らは全員殺した。一緒に逃げよう」

「……私はもうすぐ死ぬよ。一緒に帰った所で足手纏いになるだけだ…」

「……団長……」

「お前はもう殺しから手を引け。これからは人を愛する人間になれ」

「……それは、団長の願いか?それとも命令?」

「どっちも。お前なら叶えてくれるだろう」

「……わかった。もう手は汚さない」

「ありがとう」

「だから、最期に、もう一度だけオレの名前を呼んで」

「……リグルタ……。良い名前だ…」

「団長……」

「健やかに、どうか、幸せに生きろ」



それが最期の私の願いだ……。



軈て意識が遠くなり、リグルタの声も手の温もりも分からなくなった。


……あぁ。やっと、死ねたんだな。


これで、仲間とまた会える。


今度は、私も愛する人間に生まれ変わろう。



【レクイエム】ーー鎮魂歌。


憐れな運命に生きた気高き女達の生き様を奏でた歌。


今はもう、誰も口ずさむ事はない。

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