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『Lost Child』



二人は地球に生まれる筈だった。



生を受けた時にはすでに惑星に住んでいた。



水も空気も地球と変わらない。



其よりも遥かに澄んでおり、陽の光りも嘘じゃなかった。



海も草原も肌に感じる程、穢れのない自然。



ただ一つだけ、地球と違うのは、



その惑星には、二人しか存在しないと言う事。



虫も鳥も動物も此所では住めない。



二人の為に用意された理想の箱庭の様なもの。



それでも二人は幸せだった。



互いの存在さえあれば、他には何も要らないと満足していた。



兄のクルスは穏やかで優しく妹想いだった。



妹のクレファはわんぱくで明るく無邪気な少女だった。



世界の平穏は保たれていた。



変わらぬ平和が二人にとっての日常。



不変など起きない。そんな事は有り得ないと。



けれど、双りが16才になった時、惑星の名が知れた。




何処かの惑星がこの星を見つけたらしい。



耳障りな爆音が美しい景観を壊した。



空気は灰に、水は泥に、葉は塵に、海は血潮に。



一瞬にして奪われた世界。



双りは生まれて初めて【怒り】を覚えた。



「許さない・・・」


「この星を穢す者には制裁を」


「あの蒼い星を撃て」



そして、反撃を開始した。



その惑星の空気を吸って育った双りに地球の空気は甘かった。



異邦人と罵られ、敵対心を向けられた。



この世の者ではない程の美しさを纏い、強靭な身体を持った存在。



双りは世界の全てを破壊した。



怒りが暴走していた。



それでも自分の星を壊された想いは消えない。



「先に手を出したのはお前達だ」


「あの星はもう戻らない。軈て消滅する」


「我等の故郷を還せ」



双りの想いは誰にも届かなかった。



異邦人の戯れ言に耳など貸さない。



彼らは有無を言わさず攻撃を続けた。



「化物が!」



地球と異なった星で育ち、その空気を吸い続けてきた双りは身体の造りも免疫力も地球人とは違う。



「クルス!」



兄は妹を庇い、半身を失った。其でも意識はあった。血塗れになりながら兄は妹に手を伸ばす。



「クレファ・・・」



妹と手が触れ合う瞬間、銃弾が額を貫いた。



「・・・ク・・・ル、ス・・・」



その手が触れ合う事はなく、双りの命は絶たれた。






――ピピッ・・・



『被検体0-197、状態ー正常』



・・・ピッ・・・



『被検体1-075、状態ー正常・・・』




不確定な場所に設置された収容所。


白い服を着た者達が密やかに行っていた開発。


それは――



『イヴとアダムを甦らせること』




2体の被験者は水のカプセルに容れられ、生命維持装置によって生かされている。



目覚めの日は近いと研究者達は囁いた。



ふたりが意識を取り戻せば、失った星の事を聞けるかも知れないと望みを託して。



今はもう、蒼い星が権利を握っている。



いまだ未開発の惑星にはふたりのような存在は生まれなかった。



化学開発だけが発達し過ぎてしまった。



今の技術なら火星にまた戻れるかも知れない。



あの紅い星へ還れる。



そう、信じて・・・。






******




昔の人間は、とても短命だ。



コロニーが開発されて、惑星間の移動も日常になっていた。



蒼い星がすべての権力を握り、統治するのは麗しき双子。



兄は王と崇められ、妹は妃として称えられた。



失ったものより得たものの方が大きいと双りは説く。




人々は歴史に囚われず、今を信じて生きていた。




もう2度と母性を破壊されるような争いは起こさない。




そう、誓いを立てて。




今では、蒼い星の名前も滅んだ世界の名前も、覚えている者は誰もいない。


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