『世界は、二人だけのものにはならなかった。』
――ねぇ?先生。オレの事、好きだった?
――好きだよ。今も。
――本当に?
――本当だよ。
――愛しく思った?
――今も変わらずに。
――世界が壊れてもオレを愛してる?
――ずっとこの想いは変わらない。
――先生・・・大好き・・・。
*****
スガタに告白されたのは、1か月前。
キスを迫られたのは、2週間前。
無理矢理襲われたのは、3日前。
そしてスガタが遅刻をせずに来たのが、今日。
目を合わされたのが、朝礼。
意味深な笑みを向けられたのが、昼休み。
肩をぶつけられた際に呼び出されたのが、放課後。
屋上に来たのは、1時間前。
スガタが来たのは、30分後。
唇を重ねたのが、たった今。
そして、またスガタを受け入れている現在。
最初は両手を縛られて抵抗出来なかった。
スガタはあの時より優しかった。
その甘さに負けたのかも知れない。
しようと思えば抵抗だって出来た。
逃げる事だって出来た筈だ。
スガタが来た時に待ち遠しいと感じてしまった。
律儀に30分も待って。
最初から全部見抜かれてたのかも知れない。
体の熱がスガタを求めてしまった。
好きだと思わずにはいられない。
1度生まれてしまった感情は、消えない。
だから、スガタの想いを受け止めた。
それで、満足してくれるなら・・・。
*****
ミナリに想いを打ち明けた。
案の定、戸惑った笑みを浮かべた。
でも、好きだと気付いてしまったからには止められはしない。
誰もいなくなった教室で、ミナリにキスをした。
やっぱり、ぎこちない笑みは残したまま。
答えを聞く前にちゃんと顔を見れなかった。
抱いた感情を制御出来なかった。
下校時刻の過ぎた校内で、ミナリを押し倒した。
抵抗される前にネクタイで両手を塞いだ。
ちょっと脅かすだけだったのに、ミナリは泣いた。
当然だ。
襲われたら、怖いに決まってる。
誰にも奪われたくなくて、早目に行った。
ミナリはいつもと変わらない。
だから、答えを聞く事にした。
遅れて行ったのは、ミナリを試す為。
いなかったら諦めるつもりだった。
でも、そこにミナリはちゃんといた。
安心したんだ。待っててくれて。
優しくしたら、ミナリは抵抗しなかった。
叫びもしないし、泣きもしなかった。
受け止めてくれたんだって嬉しかった。
やっと結ばれたんだって、泣いて笑った。
*****
想いは重なり、幾度も囁き合った。
いけないって解ってる。
越えてはいけない線があることも知っていた。
それでも、愛したいと思った。
愛されたいと思ってしまった。
互いの存在があれば、何も要らないと・・・。
世界は二人だけのものにはならなかった。
密やかな関係は、小さな皹で離された。
この関係を見られてしまった。
――教師と生徒の恋――
許される筈がない。
引かれていた線も踏まずに留まれば良かった。
けれど、どんなに後悔しても、もう遅い。
生徒達からの信頼を失った。
いじめの対象にされた。
誹謗中傷が飛び交い、皹は完全に割けた。
この世界から逃げるとミナリは言った。
それって、死ぬの?
スガタはミナリの手を振りほどけなかった・・・。
*****
どうして、女の子同士は手を繋いでも愛らしいと微笑まれるの?
どうして、男の子同士が手を繋いだら不快な目で見られるの?
どうして、女の子同士は抱き合っても楽しそうに思われるのに
どうして、男の子同士だと抱き合ったら変な言いがかりを付けられるの?
好きになるのに、権利が必要?
愛し合うのに、資格が必要?
想いを確め合うのに、評価が必要?
*****
これは、神様に逆らった罰なのかも知れない。
キミは、病に犯された。
折角、二人きりになれたのに。
ずっと哀しい表情だ。
笑ってくれれば楽だったのに。
それでも側に居続けてくれた。
弱っていくのを見ていたくなかった。
いつもみたいに笑って話したかった。
どこかでそうなる事を感じていたから。
もっとキミの授業、受けたかった。
一緒に勉強したかった。
沢山、想いを伝えたかった。
・・・もう、それすら叶わない。
最期の時は、一瞬で。
笑って逝った。
ずっと、この手を握りながら・・・。
大好きだった。
ずっと一緒にいたかった。
オレを愛してくれた事、嬉しかった・・・。
*****
――先生。ずっと待ってるよ。
――すぐに行くよ。
――そしたらまた二人きりだね。
――そうだね。
――早く、来て。
――行くから、楽しみにしてて。
――約束したもんね。
――忘れてないよ。
でもね、その前に・・・。
鐘が鳴ったのは、数年前。
彼が走ってきたのは、半月前。
二人で抱き合ったのが、1週間前。
想いを誓ったのが、今日。
「キミの、命日だよ――。ミナリ」
蒼い空の下で、ボクは今度こそ、本物の愛を貫いてやる――。
プロットのようなものです。
後に、長編として書いていきます。




