『少年Aの友だち』
その名前は、禁句。
嫌な事しか思い出さない。
彼の所為で多くの人が死んだ。
あの夜、夢見た世界は現実となった――。
彼には、予知能力があった。
けれどもヒトは彼を「狂言者」と蔑んだ。
本当の凄さも知らないで。
彼は唐突に、これから起こる事象を告げた。
それは本当にその通りになった。
「あの子、今日死ぬね」
彼が差した少女はその日の内に自殺した。
そうなるように仕組んだのでは?
誰かが囁いた。
違う。彼は何もしていない。
ただ、見えた事を告げたまで。
ボクは、そんな君を格好いいと思った。
側にいて、彼の予知を感じたいと思った。
その力は生まれつき?
神との誓約?魔女との契約?
君はどんどん能力を向上させていった。
誰がどんな目に遇うか、今日何が起こるのか。
面白いと思った。
もっともっと、予言して世界を思い通りにして欲しいと思った。
ニュースなんかより彼の予言が正しくあった。
一度も外れない、的確な予想。
君の凄さにボクは、溺れていったんだ――。
世間は彼の存在を知り、崇め、称えた。
「神の預言者」
それが彼の肩書き。
その名は一躍有名となっていった。
ボクはどんなに君が囃されても、ずっと一緒にいたかった。
だけど、ある日君はボクを突き離した。
「これ以上は関わらない方が良い」
「君には、まだ、未来があるから・・・」
哀しげな表情で別れを告げた君。
それから暫くして、彼は、禁忌を犯した――。
“預言者は自分の先見だけは絶対にしてはいけない”
その言葉が君を狂わせた。
自分の思い通りにならなければ神ではない。
だから――
気付いた時には沢山の人が死んでいた。
両手には紅い血がベッタリとついている。
何が起きたのか理解出来ない。
彼は、事が起こる前、ある瞬間を見た。
それは、誰かが人々を殺める光景。
見えていたのは、自分自身かそれとも別人か。
彼は世界から排除された。
償えない程の罪をバラまき、背負えない程の罰を与えられた。
そして、いつしか彼の名は禁句とされた。
彼の側でずっと一連の出来事を眺めてきた彼もまた、行方が解らなくなった――。
何もかもが忘れられようとしていた頃、通り魔殺人が起きた。
犯人は誰彼構わず殺傷し、その表情は愉しげに笑みを浮かべていたと云う。
捕まったのは、まだ夢のある少年だった。
彼はこう言った。
“神の意志を貫いただけだ”
その事件の起こる少し前、ある一人の青年がこう証言していた。
「もうすぐ沢山の人が死ぬよ。気を付けて」
その言葉は本物となった。
後に誰かが青年に問い掛けた。
「きみは、なにもの?」
青年は笑みを含んだ表情で静かに告げる。
「ボクは、神の預言者だよ」
それ以来、青年の姿を見た者はいないと云う。