第三話〜暗闇
底が抜けるようにして崩れた地面、再びヨルは落下し地下へと叩き付けられる。
いつかこの衝撃に耐えられなくて、死んでしまうのではないかとヨルは思う。
そうなった時は、きっとそんな運命なので、反抗しても仕方ないのだろう。
リュックをクッション代わりに下にして落ちるから、着地には気をつけないと。
ランタンやこの中身がつぶれてしまったら、とても大変なことになるから。
そんな風にヨルは思った。
ぼすんと土ぼこりを巻き上げ、この界層へと降り立った。
瓦礫と巻き上がる埃に包まれ、あたりが見えない。
いや、見えないのは埃のせいではなく、この層は本当に暗いのだ。と、そのことを理解するのにしばらく時間がかかった。
足元はランタンが照らしてくれる。それでも見えるのはその領域だけ。
あとは……何も見えなかった。
暗いなあ、そう独り言をつぶやく。どっちへ向かえば良いのだろう。
よく分からない。暗い大地を踏みしめると、唯一そこにだけは確かなものがあるような気がして、ほっとする。
あまりの暗さに、何気なく踏み出したら、そこには何もなくて、どこまでも落ちて行くことだって頭の中には浮かんだから。
ここは難儀しそうだな、ヨルはそう思い溜息をついた。
平らな地面の上を進む。どれぐらい歩いたのか見当もつかなかったけれど、進むうちに何かにぶつかった。あまりの痛みに、頭を押さえてその場にうずくまる。
ぺたぺたと手で探ればそこには、先のとがった岩がぽつんとそびえているようだ。
よりかかるには丁度よいかもしれない。
ずっと歩き尽くめだったから、休憩の意味も込めて、ヨルは足を休め岩の上に腰かけた。
いつの間にかこんな暗がりにも目が慣れてきていた。
リュックをおろして中身をあさる。中はほとんど食べ物。それから生き物の皮でできた袋の中に、水が少し。早く水辺を見つけないとな。
おいしいものでも食べようと思いご飯の準備を始めると、ほのかに何かが揺らめいた。
小さな灯りが暗闇の中に浮かび上がる。ふわりと飛び、水辺の草原でいつの日にかみた蛍のようだ。
それは次第に、少しずつ増えて行った。
薄い赤や青色、黄色に強い白色。
視界の隅々まで埋め、光が暗闇の中あらゆる場所に広がっていく。
その時、光が瞬き唐突に消えた。ほわりと、一段と大きな光が目の前に現れた。
歯車が回るようなギィという金属音が鳴り響く。
幕が上がるように、暗闇が晴れた。
そこには巨大な石と金属でできた、人形が転がっていた。
関節や手足の数が人より明らかに多い。私なんて片手で握りつぶされてしまいそうだ。
巨大な人形は右手で、何か紐のようなものを持ち、歯車の音とともにそれが引っ張られる。
ギィ、ギィ、ギィ。
光はより一層強くなり、人形の姿を浮かびあがらせる。
幕が上がりきる様にして、何かが止まる音がした。
人形の手に振動が伝わり、古びた全身が震える。錆びたその体は、衝撃を受け止め切れずに、頭の部分がごろりと、転げ落ちた。
全身がきしんでいる。
最後の力を振り絞るようにして、身ぶるいした人形は、そのまま動かなくなった。
弱々しい光が、地面に落ちた人形の頭から発せられていた。
目を凝らせば、そこにひび割れた地面が見えた。
ゆらりと黒い亀裂が蠢く。
教えてくれて、ありがとう。
ヨルは、もう何も反応を返さなくなった人形にそう一声伝え、地面へとピッケルを振り下ろした。