第二話〜洞窟
瓦礫の山に埋もれ、はい出しながら、痛みに目をしかめてヨルは身を起こした。
落下時に腰をひどく打ちつけてしまったようだ。
とても痛い。
見上げれば、いましがた自分が落ちてきたほら穴が見えた。
漆黒の洞窟に、そこの穴からだけわずかな太陽光がさして、ヨルの周りを照らしていた。鍾乳洞がずっと先まで連なるのが微かに見えた。
先はまだまだ長そうだ。そう思いヨルはため息をつく。
自分の代わりにクッションのようになってくれたリュックをいたわりながら担ぎあげ、ぶら下がるランタンの調子を確かめながら、再び歩きだそうと、足首をくるっと回した。
指ではじけば弱々しくランタンは光り出す。中には青白いヒカリキノコが
詰めてある。頑丈なガラス板は落下程度の衝撃ではびくともしない。
キノコの灯りもまだしばらくはもつだろう。
光が失われる前に、次のキノコかヒカリトカゲを探さないと。ランタンをかちりとリュックに固定して、ヨルは歩く。
洞窟の中、黒いタイツにと小さな靴越しに冷気が伝わる。足元はか細くても光に照らされ、荒れた道に阻まれる危険性も少ない。
光の届かない暗がりには、何か不気味な生き物が蠢いているのを感じ取ることができた。
カサコソ、ガサゴソと動き、ヨルが近付くと、必死にランタンの光から逃げて行くようだ。暗い洞窟の中で生きているから、明るいのはきっと苦手なのだろう。
よおし、進むぞお。ヨルはそう思い、大聖堂ほどもある天然のアーチを抜け、暗い中をどこまでも歩き回る。
奈落の底まで続くような穴を避け、アーチのような岩の天井を越えて進んで行くうちに、巨大な宝石のようなものがその場に鎮座しているのが見えた。何だろう?青色魚眼石か何かだろうか?こんな大きな物は始めて見る。
地上に帰ったとき、高値で売れるかもしれない。そうヨルは重い、手にしたピッケルを静かにその片隅へと押し当て、石のすみっこをへし折った。乾いた音がして、衝撃で細かな破片が地面に散らばる。
大事にそれらを拾い集め、リュックの中に詰める。何でも詰め込めるように、大きな物を選んでおいて本当によかった。必要なものは全部この中に入る。
暗がりの中で未知の生き物が、ざわめく声が聞こえた。折れた石を心配するかのよう。大丈夫、ちょっとだけだよ。
静寂が支配する洞窟の中、見えない生き物以外には誰もいない。誰も私を責めはしないの。そうヨルは独り言をつぶやく。
孤独の中を楽しみながら歩いた。巨大な洞窟の中をゆっくりと進む。
自分が進んでいる方向が正しいのかなんて、何も確証はなかった。
それでも……もう地上のあの場所に居続けるのは嫌だったから。
暗がりの中を当てもなく進んでいるだけだったのに、幸運なことに、視界の端にひび割れを見つけた気がした。
錯覚ではなかった。洞窟の中、丸く切り取られた部屋のような場所の中、そこには草原と同じ形をした、ひびが地面に刻まれていた。
ヨルは駆け寄り、脊中のピッケルを構える。
深呼吸をひとつ、ふたつ。振りかぶって地面めがけて振り下ろす。岩盤が固い。あきれるほどの衝撃が両手に広がった。
思わずピッケルを取りおとしてしまいそう。
それでもビシリと鈍い音を立てて、岩盤に亀裂が広がる。手ごたえはあった。
もう一度ピッケルを振りかぶり、ヨルは地面めがけて振り下ろした。
地鳴りのような音がした。揺らぐ亀裂を起点に、底が抜けるようにして、地面が崩れた。