プロローグ
「ではみなさんは、この空より飛来吉兆や災厄の前触れと言われるほうき星のことは知らないというのですね?」
ほうき星先生はそうやって私たちに講義をする。
冷たい教室がくるくると笑うように、先生の声は私たちに暖かく響いた。
狭い校舎の中でもとりわけ小さなこの教室の中に全員入れば、もう一杯だ。午後の匂いが広がり、真っ白な空間が広がってゆく。
いつものようにゆっくりと区切られる言葉を、私たちはノートに板書し、鉛筆のカリカリと言う小気味のいい音が聞こえてくる。
降り注ぐ星に怯えて始まった争いは、実に十二年も続いたらしい。遥か昔の歴史の授業。
私はそんな時代の物事に思いをはせた。当時の人はどうしたのだろう、みんな我を忘れて岩山の洞窟や物陰に隠れたのだろうか。
洞窟は迷宮のように入り組んで、そこからさらに人の手で深淵まで続き、その奥には何が眠っているのだろう。
私もいつかそんな洞窟の中を静かにそっと歩いてみたい。
ふと振り返れば、クラスメートが眠そうに大きなあくびをしていた。
一人目のクラスメート、ドドロは太っちょの男の子だ。いつも食べ物のことばかり考えていて、暗いところが怖いらしい。なんて臆病なんだろうと私は思う。
二人目はオルカ姉さん。とてもとてもきれいでピアノが上手。私はいつもその音を聴くだけで幸せになれる。
三人目のプラネタは夢見がちな女の子。足を悪くしてからはずっと車椅子の生活だけど、それでも本を片手に毎日を過ごしている。
図書館の生活や匂いが好きだっていつも言っている。沢山の本の中に込められた思い。そんな記憶をプラネタはずっと感じているのだ。
四人目のリューリンはボサボサの髪の毛をして、いつも元気いっぱい。無口であまりしゃべらないけど、私ととても仲が良い。
五人目のニゲラはもういない。顔にひどい火傷をして、それ以来みんなの前には姿を現さなくなってしまった。私たちは心配して、必死に声をかけたけれど届かなかった。
ニゲラは私たちの前にはもういない。どこかでもう一度会えたのなら、とても嬉しいと思う。
そんな日が来るのを私たちは待ち望んでいた。
けれどもこんな日々ももう過去の出来事なのだ。