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強制的にシャットダウンされた真っ黒な空間が急に弾けた。
正確に言うと、目が覚めた。
異世界に転生・・、いや転送のようなこと推薦とか言われ本人の意思関係なくされたため、まあ、自分の結構嬉しかったけどね。でももっと異世界的な光景を信じたかった。
こんなラブコメみたいな展開・・。見ず知らずの美少女に膝枕されるとか恐れ多くて妄想すらしたことないわ。やばい、なんかいい匂いする・・。じゃなくてにわかにここが異世界だとは信じがたい。まだ目の前で美少女がスライムだの触手だのに犯されて俺の目の前で喘ぎ声を上げてたりする方が信じられる。自分で考えたくせに最低だわ・・、と今自分に引いた。
しかし異世界だと実感できることが一つある。美少女に膝枕をしてもらっている俺を剣だの武器っぽいもの持った人たち(全員美形)が睨んでいること。殺気すら感じる。鈍い俺は殺気すら感じられるほど鋭い男になっているようだ。
それにしてもここはどこなのだろう。異世界だということはわかっているが小さい小屋のようだ。小さいから小屋と書くのだろうけど。そんなどうでもいいことは本当にどうでもいいのだ。今大事なことはそんなことじゃないのだ。小屋に合わないほどの美形密度。もとい人口密度だ。そしてその美形共に殺されかけそうなのも勿論大事だがそれも違う。
俺を膝枕している美少女。茶色のような黒のような髪の隙間から除く穏やかかつ意志の強そうな眼にはとても見覚えがある。俺の頭の上に迫っている胸、おっぱいと呼ばれる部分は平均的な大きさだ。結論は出た。これは俺が知っている美少女だ。決してコイツで妄想などしてことがない。しようと思ったことがあるけどそれは人権があるからな。
「千ケ崎三鶴。お前が俺をこの世界に推薦したのか?」
「うん、そうだよ。アキアキ・・、いやましろん。」
その呼び方で実感する。バリバリ伏線張って、ラスボスかも感もあった「彼女」の正体は俺の幼馴染千ケ崎三鶴だった。そっか、まだ異世界に来て間もないのに俺(主人公)の思い出せなかった記憶を思い出してしまった。そういうのって終盤戦で思い出して、それでも俺はお前が好きだ・・、みたいな感じで一緒にラスボス倒そうとする感じだろ。
彼女、三鶴は俺の家の隣に住んでいる・・、なんていうお決まりの幼馴染ではなくただ単に幼稚園が同じでたまたまそれから同じ小学校、中学校だったのが彼女だけだったということで仲良くしていた間柄だ。そして彼女の父親と俺の父親が会社で同じ職場であったこともあり家族ぐるみの仲良しだった。高校になると別々の学校に行くこととなりしばらく音信不通になりかけたときに、俺の母親から幼馴染が今息を引き取ったという事実のみ聞かされた。急なことで急すぎることで俺は頭が全く回らなくなって、当分まともに息をすることすら忘れていた。中学校に通い始めてから恥ずかしさからが彼女のことを苗字や幼馴染と呼んでいた。少しずつあのころから間が空いていっていたが、母親から死んでしまったという事実を聞いてから息をすることを思い出して、それからは声は出ないのに涙は全く止まらなかった。
そして彼女は普段学校などでは長めのパッツンな前髪と長い三つ編みのせいで地味に見えたが彼女は俺と遊ぶ時にだけ髪をポニーテールにしたり前髪を上げたりしていて、俺だけに見せてくれていた表情はとてもかわいかった。そう、よくあるような隠れ美少女だったのだ、彼女は。
でも今彼女はその俺にしか見せてくれなかった顔、髪型。美少女ステータスを全面的に出している。でも全然違和感はなくてナチュナルにすら見えた。あのころと全く変わってはいないとてもきれいだ。
「もう一回会えてよかったよ、千ケ崎。」
「私はそんなに会いたくはなかったよ。それにこれは運命じゃなくて必然だからね。私があのちびっ子神様に頼んだってことちゃんと知ってたよね。」
何気に絵にかいたようなラノベヒロインのような幼馴染だが、再び使うが何気にクールで悟りキャラでもある。
「ああ、もしかして俺が死んだのってお前が呪いかけてたりする?」
すいません、ふざけました。ふざけすぎました。自分で自覚しております。だからこれ以上殺気を飛ばさないでください。すいません、二次元でしか考えられないような美形さんをモブとして空気として扱ったことと、幼馴染を疑ってしまってとても後悔しています。
殺気だけで殺されそうで怖い。
「やっぱり死んじゃったんだね。ここに来てくれたのは結構嬉しいよ。また、ましろん。いや、彰人、アキト君と遊べると思ったら嬉しくないわけがないよ。でもさ、もうちょっと生きても良かったんじゃないの?」
死んだという事実に俺の意思はなかったはずだ。だから、もうちょっと生きろとか言われても意味が分からないし、実現はできないだろう。もうあちらの世界では。
こんな言い回しができるだなんて、俺ってばもう異世界の住人って感じ。
俺は断って三鶴いや、ミツルに膝枕という状態をやめてもらった。やめてもらったというのに周りからの殺気は止まらない。
それは搔い潜れないものの、俺は軽く無視をして立ち上がった。
不思議といつもより目線は高く。世界観も、いや事実上変わっているわけだが見えているものが今までとは違う気がする。
世界が変わって見えるのは、まあ当然のこととして目線が高く見えるのはなんでだ?
理由は一つ。
「俺の身長が伸びてる・・・・。」
そして顔立ちも傍に運よくあった鏡で確認してわかるのだがベースは俺のものの大人っぽくなっている。顔もうれしいが何より身長だ。
今まで俺の身長は全く伸びなかった。中学生でピタリと止まってしまった。ミツルに追い抜かれそうだと何回もヒヤヒヤしたものだ。それが今確実に伸びている。憧れの180代ではないにしても、170くらいはあるんじゃないか?ミツルよりちゃんと大きい。どうしようっ、一応第二の人生なわけだしクールキャラでも再び目指してみようか?
でも、周りの美形軍団の背がお決まりのように高くてスレンダーなため、喜びもそれなりに薄かった。
「でも異世界だろ、異世界だよな、なっ、ミツル。魔王とかいるのか?それを倒す勇者に俺はなれるのかっ?」
久しぶりに名前で呼んだことを後から思い出した。自然とそう呼んでしまったのだからまあ、しょうがないだろう。不可抗力という奴だ。
「うん、なれるけど。とにかく魔王に謝ろうか。勝手に悪役にされたくないって。」
特に照れた様子もなく、淡々とミツルは言った。どこかのショタ神を思い出させる。
だがそう言って小屋の隅に縮こまってる美形軍団の長身長を隅からわざわざミツルは連れてきた。
俺が言えることじゃないけど何、コイツ痛い奴なの?と、思ってもここは異世界なのだから意味はないだろう。でもそう思わせてしまうほどTHE魔王な恰好だ。
真っ黒いマントに包まれた服の中にはがっしりとした鎧が着こんであるにもかかわらず太くは見えない。むしろスラッとすらしているように見える。畜生イケメンステータスかよ。
まあ、頭に角が直でついていることなんかはどうでもいいのだ。コイツ、本当に魔王なのか。
だとしたら、謝らなきゃいけない気もするがイケメンすぎて、恨みがましいと思うかもしれないが頭を下げるのは癪だ。
「いいんだよ、そんなヘタレに頭なんか下げなくても。むしろ下げさせてやればいい。地面を頭につけさせて、地べたに這いつくばるかのように。ああ、想像だけでもいい光景だな。すごいすっきりする。」
なんかこちらも鎧を着こんださわやかなお兄さんがすごい二次元チックな怖いこと、いやもうここは二次元に近い場所なんだからそういうことを言うのはやめよう。この憧れの素晴らしい異世界を否定なんて俺は絶対にしたくない。身長を伸ばしてくれた素晴らしい世界だ。
大事なのはそこじゃないだろ。きっと俺を庇ってこんな怖いこと現実で言ったわけじゃないんだろう。だって、さっきから一番殺気飛ばしてたのコイツだもん。
爽やかなお兄さんに見えるが喋りながらの笑みはとてつもなく黒い。どす黒い。
「なんだと、跪くのはお前だ、勇者。今日こそその減らず口の止まらない口を塞いでやろう。」
その言葉に反発しようとしたのかやっと喋った、多分魔王さんは多分勇者さんに殴り掛かろうとしたのかなんなのかよくわからないが、狭い小屋の中で勢いよく歩き?出して何もないところで躓いて転んだ。
これきっと魔王じゃないんだろう。ただのヘタレなんだろう。
あれもきっと勇者なんかじゃなくて腹黒いだけの鎧マンだよ。勇者っていうのはきっと自分の顔を分け与えるような正義のヒーローだ。それがあんな腹黒い、S前回の鎧男のわけがない。
「さっき自分の顔を分け与える勇者になれるのかって聞いてたけど、自分はその顔を分け与える勇者になれるの?」
聞いてもいない正論を返してきたミツルの言葉に息を詰まらせる俺。否定はできないからだ。俺にはそうなれる自信がない。いくら第二の人生だからといってそこまでの勇気はないんだ。自分を犠牲にして他人を守るなんてヒーローのテンプレのようなこと俺にはできない。
「アキト君は転送、召喚って言った方がいいかな?記憶を持ったまま、そのまま元の世界からこちらにきた。でも私は違うんだ。こっちで転生したんだよ。記憶を取り戻したのもつい最近。今の私にはこちらの親と、友人と名前があるの。アリシャっていうんだよ。こっちでの私の名前。」
衝撃の事実をも淡々と告げるミツルに息を詰まらせてしまう俺。コイツは変わってしまったのか?と不安にまでなる。
え?友達?
この美形軍団はお前の友達なのか?他に何の可能性があるのかは残念ながら思いつかないが。もう少しふつうな関係があるのではないかと思う。他人という線が一番安心なのだがその線はもうすでにさっきのなんちゃって勇者と魔王のせいでぶっ切れた。
「ああ、紹介した方がよかったかな?えーとね・・。」
それから6,7人ほど(正確には6人だった)の美形たちの紹介を簡単に行うミツルを見て俺の開いた口は塞がらなくなる。
何を言っているかなんて大体理解できなかった。いや、最も大事な部分は理解できた。
先ほどから俺に向けられていた殺気は、嫉妬だったのだ。6人分の嫉妬のオーラ殺気交じりにもなるだろう。嫉妬は殺人にまで発展するほど恐ろしいエッセンスだ。
つまり、ミツルは友達だと言い張るこの6人は全員ミツルのことが大好きでたまらないやつらなのだ。そう、この6人はミツルの乙女ゲーム・・。いや、もうミツルに全員がゾッコンな時点で違うな。
ミツルの逆ハーレムの要人たちなのだ。残念なことに本人は友達だと認識しているようだが。攻略キャラたちが主人公を落とそうとする、言うならばギャルゲーなのだ。これは彼らの。百合系専門キャラっぽいのが二人ほどいるがまあ、それは重要なことじゃないのかもしれないが。
俺は異世界に来てから、かなり勘が良くなったらしい。気づかなくてもいいことを気づいてしまった。
なんてこった。ここは、異世界勇者とか魔王とか出てくるよくある感じのゲームだと考えてはいけないらしい。ここは、ミツルの逆ハーレム。乙女ゲームだ。そしてギャルゲーだ。
ミツルを落とそうとする攻略キャラたちの。
なんかショタ神が魔王とか勇者とかが、ちょうどいい感じに丸め込まれている。とか言ってたけどミツルに、だったわけだ。
リアル、本物の三次元では、地味な子を演じていた・・・・、地味な子だったミツルも転生してオープンに素で生きていけばこんなにもすさまじい攻略ゲームになるのか。逆ハーレムになったのか。
まあ、異世界で生きることになった今そんなことは割かしどうでも・・よくないな。
戦士とか騎士とかになるにしても、こちらに魔王とか勇者とかいる時点で一度は通らなくてはいけない道になるだろう。
じゃあ、一応自分なりにさっき聞いた攻略キャラの情報をまとめてみよう。
一人目は、ヘタレななんちゃって魔王だ。本当に魔王らしく、今は秘書である実の弟に仕事を任せているらしい。むしろ仕事がダメダメで追い出された感ハンパない。
名前は馬鹿にしてしまいたいほど長いため、魔王と呼んでかまわないだろう。ミツルも魔王と呼んでいたし。
容姿は先ほども言った通り、THE魔王なスタイルだ。セリフには中二病・・、こちらの世界では正常なのかもしれないがそういうセリフが多々含まれている。
二人目は、こちらも先ほど言ったように勇者。名前はユウスというらしい。こちらは覚えやすい。あっちの世界で覚えていた名前はもうこちらでは意味を成さないから忘れていいと思うので、そう思うとすんなり新しく聞く名前も覚えることができる。ちなみに勇者なんて何人もいるらしいが本人曰く自分とは格が圧倒的に違うらしい。勇者さながらのさわやかな笑顔で人を罵り、黒い笑顔で卑劣なことを言う最恐の勇者だ。
三人目は、マシェリ。百合キャラだ。名前は自分で名乗らずにミツルに名乗らせた。ミツルにうまい感じにピッタリくっついているので百合は確定だろう。黒くてリボンだのフリルだのたっぷりのゴシックロリータと尖ったヒールの靴と、フリルがやばいほどついている日傘。澄ました顔をしていて人形のようにきれいだ。薄い紫のカールしたふわふわの髪と同じ色をした眼。多少幼さを残す体躯を見る限り俺よりは多少年下のようだ。ロㇼにぎりぎり入らないかくらいの。いや、入るな。とにかく、踏んでほしい。間違えた、俺を何かの汚物を見るような眼で見るのをやめてくれると嬉しい。そして極め付きの僕っこだ。
四人目は、ソワンという今までの濃すぎるキャラの中で本物の爽やかで優しい笑みを浮かべるお兄さん。長身なのがムカつくが、それ以外の言動はとても優しいもので先ほどかなり俺に殺気を送っていたとは思えないほどの人物だ。黄緑色の髪と眼が穏やかさとやさしさを全力で醸し出している。回復者、癒す者ヒーラーらしくそれを聞くと優しそうな雰囲気も納得できた。
あと二人も紹介したいところだが、その余裕はないようだ。
小屋の小さな扉がバタンと蹴飛ばされられて勢いよく倒れた。立てつけ悪すぎだろ。
そして外から一人の剣を持った男が小屋の中に入ってきた。どうやらモブ感ハンパないおっさんだったからミツルの逆ハーレムのキャラではないだろう。あとその男のせいで完全には見えないが扉があったところの隙間から、剣を持った数人の男が小屋の外に待機している様子がわかる。
いくら勇者とか魔王とかいたって摘かもしれない。ここものすごい狭いんだよだから小屋なんだよ。出入口も一つしかないし、それ塞がれてるし。触手持ったモンスターが来るよりはましかもしれないが、だって美少女が三人いるんだよ。エロいことになるよっ。ああ妄想が止まらない。そんな、馬鹿なこと言ってる場合じゃないんだ。モブ×美少女でも悪くはない・・。そんなこと言ってんじゃねぇアホっ。
二度目の人生を伸びた身長で生きていけるんだぞっ、こんな簡単に死にたくねぇ。