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「お前ようやく死んだのか?」
大変失礼なことを初対面のショタ少年に言われた。中々整った顔をしているガキだ。真っ白い肌に、小麦畑などではなく本物の我らが日本ではお目にかかれない金貨のような色をした美しい髪はサラッサラ。どこのトリートメント使っているか聞きたい。
でも真っ黒くて大きな目がかわいいのに、どこか恐怖を感じる。いや、畏怖かな。どちらだとしても一目見てわかる。
コイツには関わっちゃいけない。そもそもこんな綺麗な顔をしたショタなんか俺のいる次元にいるわけがないんだ。
それにこちらは全く今の事情が呑み込めない。目の前が真っ暗になったかと思うと急に明るくなって、そう思ったら急に眩しいほどに明るくなった。真っ白い光。一流ホテルの真っ白いスーツに初めて顔を突っ込んだときのことを思い出す。
何といってもこの奥行すらわからない真っ白な空間に浮いているのだ。空を飛ぶなんてありえないだろ。
そりゃあ、人並みにアニメや漫画が大好きだ。自分で妄想して悦楽を感じることさえある。
キモイといいたければ言えばいいんだ。アニメが好きな人間なんてこの世の中に何人もいる。だが、誰でも考えたことはあるかもしれないが自ら自分が宙に浮くなんて妄想する奴はいるか?
「ねえ、いい加減話してもいい?」
ずっと黙って自分の中で整理整頓、自己解説をしっぱなしの俺にイラついたのか青筋を立てて拳を強く握り占めショタが俺に再び話しかけてきた。
よくみりゃ女の子みたいにきれいなおべべ、服を着ている。でも真っ白いワンピースなんて食べ物、特にミートスパゲッティとか飛ばしたら終わりねぇか。今時来てる奴なんてそうそういないんじゃないか?真っ白い服。紫外線一番カットできない色って白らしいし、それに白は太って見えるもんな。
「真城彰人。自分の世界に入ってしまうと、戻ってくるのに時間が掛かる。」
なんか俺の名前と性格というか癖?語りだしたぞコイツ。年齢の割に言葉が大人びている奴だな。もしや、二次元でおなじみの実年齢は100歳いってますっ、とかそういう系のガキかこいつ・・。いや、今自分で考えて後悔した。俺馬鹿だな、とすら思う。
「自分でクールなキャラを演じようとしており、そのたび何度も失敗している。いわゆるちょっと痛いやつ。」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ。」
なんで、俺のこと知ってんだよっ。やべぇ自分で言っても平気だけど、他人に言われるとマジで恥だ。なんかコイツ自己完結してるし。お前の方が世間様にとっちゃ痛いやつだよ、ショタ野郎。もうショタだからといって気なんか使ってやんね。
「いや、だってお前話聞いてくれないんだもん。」
可愛くねぇよ、いや可愛いけどそっちに性癖持ってないんでね俺は。でも今のコイツの最後の言葉に顔文字つけるとしたら、まさに知名度の高い「ショボーン」だろう。
「えーと、一応話は聞いているようなので聞いていないようでも話し続けまーす。」
俺とはなしをしようとしている割に、コイツは一度も俺の目を、いや俺の姿すらはっきり認識すらしようとしていない。そんな奴と話してやる筋合いはない。
そして、一度も認識しないまま淡々と衝撃の真実をショタ野郎は告げる。
「この度はご愁傷様です。普段ならまあ第二の人生先の志望を聞くところなんですけど、君の場合は推薦があるためそちらを活用させていただきます。」
ご愁傷様とは、お気の毒という意味や人の不幸を悲しんでいる人に向けて話す言葉だ。
さっきからコイツの言葉に感情はない・・。
いや、俺今はそんなこと自分の中で実況してたって意味はないはずだ。
こいつは俺にご愁傷様という言葉と、第二の人生という言葉を使った。
はじめには無礼にもお前はようやく死んだのか、とまで言った。
何も言葉を発することができない俺をそっちのけでショタ野郎は続ける。
「推薦先、転生先は、異世界。まあ、今丁度魔王とか勇者とかがちょうどいい感じに丸め込まれてるから、刺激は少ないかもしれないけど君の場合はリハビリも兼ねてるから丁度いいでしょ。」
転生先。もう完全に決まった。
「俺は死んだのか・・・・。えっ、マジ俺異世界へ転生するわけ・・。マジで異世界とかあるわけ?ええっ、ねえmy勇者っていうオンラインゲーム知ってる?それなりにマニアの間では知名度あってさ、俺結構ブイブイ言わせてたんだけど。」
「わぁ、興奮すると自己解説ではなくリアルに言葉に出すんだ。恥ずかしい奴だね。君。」
「うるせぇ、美形のショタだろうが男のくせにスカートはいてるお前に言われたくないわ。」
しかもフリルがついてるっぽい真っ白いワンピースだ。
あっ、でも厄除けみたいな感じで女の恰好させられてる男とか漫画とかでよくいるよな。コイツそういう類?いやいや、こいつは転生とかなんとか言ってたぞ。まあ、きっとこれは7割方俺の夢だろうけどな。夢じゃなかったら次元を超えた妄想だ。いや、夢だな。
「っていうかお前何者だよ。」
たとえ妄想だったとしてもお前みたいなショタ妄想しねぇぞ。よくてロㇼだ。美少女が良かったわ。いや、夢だとしたら結局はみたことあるような人たちが出てくるからな、俺はお前みたいな異人のようなショタっ子見つけたら絶対に忘れない。覚えていない、または視界の隅に入ったこともないだろう。こんな二次元にすぐつなげられそうのガキを俺が、俺の眼が見逃すわけがない。
そうかこれは俺の妄想なわけだ。自分が死ぬこと前提の・・。俺そこまで暗い奴じゃなかったぞ。
まあ、結論は俺の妄想だとしたらこのショタはショタに見せかけてのロㇼなんだきっと。
「うん、聞いてなくても特に損傷はないから説明しよう。簡潔にいって僕は神だ。いや、死神の方に近いかな・・。でも限りなく神だ。主な役割は他人に死を伝え、次の魂の転生先の志望を聞くこと。転生用の神だよ。ちなみにさっきから僕のことをショタだのロㇼだの言っているけど僕に性別はない。適当に決めてくれたまえ。」
最後の「くれたまえ」がイラッとする。なるほどそういう設定なわけだ。凝ってるなぁ俺。妄想力は豊かな方だと思ってたけどこんな細かい設定まで作るとはそこまでお頭はよくなかったはずだけどな。
「いい加減、夢だの妄想だの言っているのはやめたほうがいいよ。君はあの人から記憶は残してそのままでの異世界転生を推薦されているんだ。そのままあっちの世界に言ったら後悔する。」
なんか顔は無表情に近いのに言葉の一言一言に棘があって、威圧感がある。
割りがち本当なのかもしれない、と思わせるようだ。でも本格的に異世界転生の夢的なものまで見れて、体験できるというのは憧れだ。
記憶を残したままとか、体がそのままとかそういうあやふやで凝ってない設定を聞くと俺の夢だなぁと思う。
「ねえ、本当に後悔するよ。彼女だって困るよ。じゃあ、何したらこれが事実だと認める?」
俺の秘密をばらせ、とかだったら結局俺の妄想の場合知ってて当たり前のことだしな。
「俺が死んだというのなら俺が死んだという事実を、死んだときの情景を教えろ。」
自分が死んだといわれても実感湧かない。記憶がない。自分が死んだと思えない。まだほにゃほにゃの学生だぞ。でも残念なことに自分の歳が思い出せない。自分がどこまで生きていたのか思い出せない。
もしも、自分が本当に死んでいるのだったら?と思うと、その事実が受け入れられない。
「よく似たようなこと言われるんだよね。推薦があったからどんな奴なのかなーって楽しみにしてたのに、全然普通のやつなんだね。君。
でも記憶を思い出させるとたいていの奴らが、信じないとか言って殴りかかってくるんだ。その場合は強制転生で最悪の人生を遅らせる。神様に恵まれなかったとか言われても、自分が神に殴り掛かってきたんだ。とてつもない禁忌じゃないか。自業自得だよねー。
これを聞いてもまだ自分の記憶が、どうやって死んだのか知りたい?」
具体的な神の恐ろしさをショタ自称神に長々と教えられた。
「ああ、知りたいさ。死んだときの記憶、いや俺が今忘れている記憶全部教えてくれ。」
「えっ、君が忘れてるのって死んだときの記憶だけじゃないの?まあ、いいか。」
そう意味深なことを言ってポケットはなさそうに見えるワンピースから四角くて薄い箱、スマホのようなものを取り出したかと思うと今度はそれがタブレットほどの大きさまで広がった。そういう類の端末だということはわかったが近未来型過ぎる。
そしてその機械からは立体的な図なんかが出てくる。パネルは液晶画面なんて比じゃないほどのきれいで目に優しい光を発していた。
「はいっ、決定的瞬間は車に突撃したみたいですねー。後に病院で息を引き取ったみたいです。では記憶転送しますよー。たまに発狂して人格が破壊する人もいるんで気を付けてください。」
ショタが近未来タブレットの画面を軽くタップすると遅れた走馬灯のように俺の中に画像と音声。いや俺自身が再びその場所にいた。
俺の目の前には俺がいて、その俺はとある有名な病院の入り口から出てきた。
今の俺は実体のない幽霊のようにふわふわと浮いているだけのようだ。
するともうすぐ死んでしまう俺は、うつむいて泣きながら歯を食いしばっていた。すでに唇が噛み切られたかのように血が唇から溢れていた。
そうだ思い出した。誰かが死んでしまったんだ。大切で大事で大好きだったあの子が、あの子って誰だっけ?忘れたふりなんてするのはやめろ、俺の中で何度も俺が呟く。でも俺の脳は思い出させてはくれなかった。
そしていきなり下を向いたまま走り出した俺は、同じく急にいきなり走り出した車。正確にはトラックに思いっきり激突した。
あいつの言っていた車に突撃して死んだという言葉は嘘ではないようだ。
酷い。自分を不憫に可哀想に思う。きっとあの俺はあのトラックのことを恨んでいるだろう。でもあのショタも言っていたように「車に突撃した」のだ俺の方が裁判なんか起こしても一方的に俺が悪いのだ。
自分の中が内臓部分がとても熱い。目の前の俺からは血がどんどん溢れてくる。実体のない俺は自分に近づいた。不意打ちの死のはずなのに、とてつもなく痛いなんていう言葉じゃ表現できないほどに恐ろしい痛みが体を蝕んでいるはずなのに俺の顔は安心しているかのように、安楽死なんかじゃないのに「良かった」とでも言うように安らかな顔をしていた。
自分だなんて思えない。コイツはきっと俺じゃないんだ。自慢ではないが心から死にたいなんて思ったことはない。
トラックのおっさん運転手が血だらけの俺に呼びかけ揺すぶるが、反応がないため119に電話をかけているようだ。
ショタ自称神は、俺は後に病院で息を引き取ったらしい。自分が出てきたばかりの病院だ。
彼女と同じ病院で死んだのだ。彼女って誰だ?でもすべてを悟ったかのように安らかな顔をしている俺はもう全く動かなかった。
ねえ、もうわかったよな。俺はここでトラックに轢かれて意識を奪われたんだ。すなわち死んだんだ。もう実感が湧いたよね。頭の中でショタの自称神が粒や鵜。そうだ、確証はもう得たよな。
風景が再びかすんで今度は真っ暗から真っ白になる。元の空間、いや元の空間って言ってしまって変だがショタの自称神がいた空間に戻ってきたようだ。
「死への実感が湧きましたか?」
「なあ、もう一つ確認させてくれ。彼女って誰だ?」
ショタ自称神・・、いや神なのだろう。神の返事に答えずに俺は質問を質問で返した。こいつは俺の転生先は彼女の推薦先だといっていた。その彼女と俺の記憶の中の死んでしまった彼女。俺に死んでもいいかな、とすら思わせてしまった彼女という存在はきっと同じものなんだろう。フラグがビンビンに立っている。
でもその彼女が俺は思い出せない。思い出したくないと脳が拒絶するのだ。
「彼女のことは彼女に聞けばいいんですよ。彼女も異世界で待ってますから。」
異世界なんて本当に信じることはできないけど、死んだという事実とその記憶すら突き付けられると信じるしかないだろう。それに俺は彼女という存在を知りたいと思う。
「それでは転生させちゃいますよー。えーと、外見などの特徴が多少変わるかもしれませんがベースはそのままで・・。」
えっ、イケメンとかにできるわけっ?できるならイケメンにしてくれっ。異世界でハーレム作りたいっ。メイドとか猫耳とかモンスター系女子とか、魔王系ロㇼ美少女とかのハーレム作りたい。
「ベースは君のままっていう彼女との約束なんで不可能ですね。まあその代りに能力的なものは差し上げますよ。よし準備は完璧だ。」
能力とか聞くと本当に異世界転生なのかな?とかワクワクする。でもショタ神はさっきからずっと近未来的タブレット端末をタップしているだけなので本当に大丈夫なのか不安になる。
「あちらでの第二の人生でこちらではかなわなかった夢を叶えたらどうですか?
クールキャラになることと、高級ティッシュを値段を見ずに「これじゃなきゃだめなんだよねー」と買うことが夢でしたっけ?」
それはっ、5年前の黒い歴史・・。黒歴史じゃないかっ。人権侵害だぞ。神だろうが名誉棄損で訴えるぞ。すいません、難しい言葉本当は意味わかってません。
「では、いっきますよー。ポチッとなー。」
あっ、なんか懐かしい言葉・・。棒読みだから何言ってるか始めわかんなかったけど。
俺の意見を、反論っていうか意味の分からない言葉をたくさん使った・・。
を、全く無視して再び近未来的タブレット端末をタップする。
すると俺の目の前が徐々に薄暗くなってきて脳が活動をやめようとしているのがわかる。
もともと死んでいるらしいけど、死ぬのってこんな感じなのか?何も見えなくなっていって、怖い。恐怖だ。純粋な恐怖だ。誰でも死ぬときは怖いというが死ぬ寸前の自分にしかわからない恐怖だ。手足がまともに動いているのかすら自分ではわからない。
だけどショタ神はなにか喋っているのはわかった。スマホのような端末を耳に当てている。
「えっ、彼ですか?今異世界に転生させようとしているところです。いや転送しているって方が正しいかもしれませんが。はい。はっ?まだ死んでない?認識設定が一時狂ったですって!?でももう遅いですよっ。もう本人の意思は異世界に転送されています。
はいっ、はい・・・。すいません。あの僕の給料って・・・、下がったりします?」
もうショタ神が何を話しているかなんてわからない。というか気にもならない。俺は静かに自分にしかわからない恐怖を味わいながら安らかに眠っていくように意識をシャットダウンさせた。自分の意思じゃない。強制的なシャットダウンだった。