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旅の宿決めは重要なこと




 イヴリンが協力を承諾したその町は、イヴリンが住んでいた村からはだいぶ離れていた。首都からはまだ少し遠い。

 ダレンがイヴァンを探すためだけに、遠くへきたことが分かる。と同時に、イヴリンがダレンから逃げるためだけに、徒歩にも関わらず遠くへきたことも分かった。


「イヴリン様、いったい何故そんなにイヴァン様を探すのがお嫌なのですか?」

 ダレンに兄弟はいないものの、身内や親しい人が失踪したと聞いたら、身を案じて探しにいくだろうと思う。しかしイヴリンは、全力で嫌がっていた。

 訊ねた今も、途端に迷惑そうに眉根を寄せている。

「何故嫌って、そんなの、わたしの平穏がぶち壊されるからですよ。もうぶち壊されましたけど」

 そんなことをさらっと言ってのけるイヴリンと、イヴァンの関係。ダレンには不思議でならない。

「貴女はイヴァン様がお嫌いですか? それで、失踪したと聞いても案じもしないと?」

「嫌いではありませんけど。でも、大して心配要らないでしょう? だって、オズですもの。誰が兄を傷つけられますか?」

「それは、そうですが」

 オズ《妖精の番人》は生まれつき妖精に好かれる。オズを傷つける者を妖精たちが許すことはなく、その報復は容赦がない。その妖精が攻撃的な性質ならば、命にも関わるのだ。

「わたしの兄への感情は、捜索に関係ないでしょう? あ、ここにしましょう」

 唐突に腕を引かれてダレンは立ち止まった。そこは、一軒の宿屋の前。

 町で一番とまではいかないが、比較的新しいようだ。

「ダレン様?」

 イヴリンは足を止めることなく宿屋の入り口を開けて振り返った。突っ立って宿屋を眺めるダレンを不思議そうに見やっている。

「何か、よくない宿ですか? それともわたしの荷物が重くて、お疲れになりました?」

「……いえ。確かに荷物は重いですが。ただ、さっきから何軒か宿を通り過ぎていますが、何故この宿なのかと思いまして」

 この町には宿屋が多い。だから必然的に似たような等級の宿がある。そんな宿を何軒か通り過ぎ、まるで最初からここと決めていたかのようだ。

「あらダレン様。旅をするのに重要なこと、ご存知ないのですか?」

「と、申しますと?」

「いかに良質な睡眠を得るか、です。宿屋の調べは町についてすぐしてますもの。さ、入りましょう。ここは寝台の固さがちょうど良いって評判なんです」

「……」

 イヴリンは気分良さそうに笑って宿へ入っていく。ダレンは一度空を見上げ、それから足早にイヴリンの後を追いかけた。



「今夜宿泊したいのですけど、部屋は空いてます?」

 さっさと入り込んだイヴリンがにっこり笑ってそう言うと、受付の女性もにこりと笑って答えた。

「はい、空いておりますよ。一泊でよろしいですか?」

「ええ、構いません。あ、あと馬も一頭預けたいのだけど」

「はい、畏まりました」

 その後ろからダレンもやってくると、受付の女性はちょっと目を丸くして、それからますます笑みを深めて言った。

「お部屋はおひとつでよろしいでしょうか?」

「いいえ、ふたつお願いしますね」

 イヴリンも笑みを深めて即答する。それから唐突にダレンを振り返って訊ねた。

「あ、一部屋の方がよかったかしら?」

「は……ご冗談を」

 突然からかわれ、苦笑いで答えるほかない。イヴリンはくすりと笑って受付の女性へ向き直る。

 そんな二人を不思議そうに見つつ、女性は部屋の鍵を二つ渡してくれた。




 ダレンが目覚めたのは、曙を告げるうっすらとした光が室内にそろりと入り込んできた頃だ。もともとぐっすり眠りを貪れるような職種でないのもあるが、一度は裏をかかれたのだ。イヴリンに対する信頼は、まだ薄い。

 さっと親衛服を羽織り、ブーツを履き、ベルトを絞め、剣を腰へ差す。

 ダレンの愛剣には、鞘と柄に繊細な銀細工が施されている。惜しげもなくあしらわれたそれは、ひとめ見ただけでは装飾品に違えるほどだ。その剣は、特に手入れを必要としない。ダレンがあまり手をかけないのも相まって、この剣の真実を知るのは、持ち主であるダレンと、主であるイヴァン。そして、国王くらいのもの。

 まだ闇夜を追い払っただけの弱々しい光を受けて、剣は生まれたてのように瑞々しく光を反射してみせた。

(さて、逃げていないといいが)

 夜の間に脱出した気配はなかった。だが、あの家で待っていた時も、急いで出て行ったとは思えないほど、気配は静かだったのだ。

 多分あの妖精たちの所為だろうと察するが、いかんせん彼らの能力は把握出来ていない。これはもう、自らの感に頼るしかなかった。




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