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欠片集  作者: 壊レタ硝子
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あいむふぃくしょん

 おんなのこは汚濁のなかでいきていました。

 まんしょんのいっしつ。

 ひるにもひらくことのないかーてん。

 さんらんしたごみ。

 だいどころのつまったはいすいこうからもれる臭い。

 おんなのこのお母さんはほとんどいえにいませんでした。

 まいにちまいにちどこかにいっていました。

 のこされたおんなのこはなにもせずただいきをしていました。

 てれびはありましたがでんげんのこーどがぬかれていました。

 よけいなことをまなばれては面倒だし、でんきだいもかかるのでお母さんがぬいたのでした。

 お母さんはたまにかえってきてはれいぞうこにこんびにのおべんとうをつめこんで、おなかがすいたらたべるようにいってまたでかけていきます。

 おんなのこはうなずいて、いってらっしゃいといいました。

 いわないと叩かれました。

 ほかのことをいっても叩かれました。

 や、や、となんどもくりかえして叩かれて、いってらっしゃいでしょと叩かれて、おんなのこはいってらっしゃいというようになりました。

 そのことばのいみも分からずに、いってらっしゃいというようになりました。

 おんなのこのはお母さんがすきでした。

 お母さんいがいしりませんでした。

 いえからでたことがありませんでした。

 おんなのこはそとをしりませんでした。


 おんなのこにはお母さんがすべてでした。

 お母さんにとっておんなのこはお荷物でした。

 お母さんはおんなのこが嫌いでした。 お母さんはおんなのこをうんだことを後悔していました。

 お父さんがだれかわかりませんでした。

 わかったときにはもう堕胎させることはできませんでした。

 うむのが嫌で嫌でしかたありませんでした。

 でも、うまれたとき、あかちゃんのこえをきいたとき、お母さんはちゃんとそだてなきゃとしぜんにおもえました。

 それはながくつづきませんでした。

 面倒でした。

 いらつきました。

 叩きました。

 いうことをききました。

 叩きました。

 いうことをきかせました。

 叩きました。

 叩きました。

 あかちゃんはおんなのこになりました。

 ほうっておいてもだいじょうぶになりました。

 でかけました。

 たのしいきぶんでかえってきました。

 おんなのこはないていました。

 うるさかったので叩きました。

 たのしいきぶんもだいなしでした。

 またでかけました。

 いえが嫌いでした。

 おんなのこがいるから嫌いでした。

 いなくなればいいと思っていました。

 でもいなくなられるのは面倒でした。

 しなれるのはもっと面倒でした。

 いえに閉じ込めてごはんさえあたえていればいいと思っていました。

 だから、そうしていました。 男がいました。

 無精髭を生やした中肉中背の男でした。

 シャツとトランクスにサンダルで外を歩いてしまうような、そんな物ぐさな男でした。

 近くのコンビニからマンションへと帰ってくると、自分の隣の部屋の玄関が開いているのを見つけました。

 たしか行くときは開いてなかったな、と思いながら前を通る時にふと中を見ると、女の子と目が合いました。

 扉を閉めようと手を伸ばして、そのまま固まってしまいました。

 男も驚いて固まってしまいました。

 若い女が住んでいるのは知っていましたが、子供がいるのは知らなかったのです。

 どうすれば良いのか分からず男が固まっていると、嫌な臭いが漂ってきました。

 部屋の中から臭う腐ったような臭い。

 よく見ると女の子も、汚れていました。

 ずっとお風呂に入っていないような、そんな臭いもしました。

 いつの間にか女の子が手に持ったコンビニの袋に向いているのに気付きました。

 肉まんを買っていたのを思い出して、あげることにしました。

 ただ全部あげるのはもったいない気がして、半分に割って女の子に差し出しました。

 女の子は見るだけで、受け取ろうとはしませんでした。

 いらないのかな、と肉まんのもう半分を食べながら考えていると女の子はそれを見て真似するように肉まんを受け取り一口かじりました。

 そのまま肉まんは女の子の口の中に消えていきました。


「何をしているんだお前は」


 男がびくりと肩を撥ねさせながら後ろに振り返ると、女が立っていました。

 おんなのこはとびらをしめました。

 まえにお母さんがとびらをしめわすれてしまったときしめなさいと叩かれました。

 とびらをゆびさしながら叩いたのでおんなのこはいわれてることばはわかりませんでしたがなんとなくいみはわかっていました。

 へやのなかにさすひかりがなくなって、また暗くなりました。

 おんなのこはふしぎにおもっていました。

 はじめてみたお母さんいがいのひと。

 おかあさんとちがうこえ。

 いいにおい。

 あたたかくておいしかったもの。

 あんなふうにそとをみたのははじめてでした。

 お母さんがでかけるときにすこしだけみたことはありました。

 すごくあかるかった、とおんなのこはおもいました。

 おんなのこはただいきをしていました。

 おんなのこはしょうじょになれませんでした。

 たとえば。

 おんなのこのお父さんがわかっていれば。

 お母さんがちゃんとそだててあげていれば。

 おんなのこが泣いていやがっていれば。

 にくまんをもらったとき、とびらをしめないでいれば。

 ほかにもたくさんのすくいがありました。

 おんなのこはしょうじょになれるはずでした。

 でもなれませんでした。

 いやがらず、のぞます、ただただとじていたおんなのこは、むちゆえにむくだったおんなのこは、むちゆえにしょうじょになれませんでした。

 栄養失調でした。

 かえってきたお母さんは気付きませんでした。

 ねているだけだとおもいました。

 いつもどうりおべんとうをれいぞうこにいれて出掛けていきました。

 おんなのこはいきをするのをやめました。

 かえってきたお母さんはれいぞうこのおべんとうがへってないのにきがついておんなのこにさわりました。

 冷たくなったおんなのこにさわりました。

 お母さんはどうしていいのかわかりませんでした。

 警察は嫌でした。

 だからスーツケースに詰めて山に捨てに行きました。

 穴を掘ってスーツケースごと埋めました。

 おんなのこがいなくなったことに誰も気が付きませんでした。

 そしておんなのこはとざされたくらやみのなかで、えいえんにおんなのこのままでした。

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