はじまり
「法案を、可決します」
その言葉と共に始まった小さな歪み。
俺はあの男を心底異常だと思った…。
「ごめんなさい」
そんな言葉と共に、背を向け、立ち去る彼女。
俺は大きくため息をつき、公園のベンチに座り込む。
今年に入って三度目の失恋。理由は簡単。
俺が、裸眼で眼鏡を着けていないから。
「何だってんだ、畜生…」
呻き、先ほどの会話を思い返す。
「だって、貴方、眼鏡を着けようとしないのだもの」
この台詞だけを聞くと、俺を振った彼女は実はものすごい眼鏡フェチだったのだ、と思い込む事は簡単だ。しかし、それが三回目だとしたら。更には今までの恋愛遍歴を振り返ってみたとき、思い返しもしたくは無いがこの四年間、同じような理由で振られ続けているとしたら…。
「訳が分からん…」
ストレッチをする老人、水遊びをしている親子連れ、ベンチで休憩中のサラリーマン。一見接点が無さそうだが、俺は共通点を見つけ、憂鬱な気分になる。
眼鏡だ。道行く人間全てが例外なく眼鏡を着用している。
「はぁ…、」
帰ろう、そう思い立ち上がり出口へと向かう。後ろから、「ママ―、あのお兄ちゃん、眼鏡着けてないー」、と、声が聞こえた。親の声は聞こえてこないが、大方関わってはいけません、とでも言っているのだろう。簡単に想像がついた。
「畜生、皆何かにつけ眼鏡眼鏡って言いやがる。眼鏡がそんなに偉いかよ‼」
その後、俺はあのまま家に帰るのも気分が悪く、その足で、友人の住む都心のマンションへ足を向けた。
「荒れてるな」
部屋に上がり込むなりイライラをぶつける俺とこちらの方を向こうともせず、コンピュータに向かう友人。
「ちっとは慰めるなり何なりしろよ!」
怒鳴ると、溜息を吐かれた。
そのままキーボードを打つ音が続く。続く、続く、続く、続く、続く、続く…。
「おいっ!」
「何だ」
「話を聞け」
「聞いてやったじゃないか」
「どこがだっ」
揺さぶる、暫く揺さぶり続けていると、
「分かったから離せ」今度こそ、俺の方を向いた。その顔にも眼鏡。
「んなぁーっ?」
思わず後ずさりをしてしまう。「どうした」、訊かれるが、答えられない。
「なっ、何でお前それ…」眼鏡を指さしながら呟くと、
「ああ、これか」事もなさげに言った。
「伊達眼鏡だ」
「ああ、伊達眼鏡ね、それなら…、っておい! 何でそんなの着けているんだよ、見つかんないうちに早くしまえよ!」
「いちいち五月蠅い奴だな…。 まあいい、愚痴を聞いてやろうじゃないか」
恩着せがましく紡がれる言葉に反応せず、俺は、何かに監視されていないかのチェックに余念が無かった。
そんな俺を面白そうに見ながら、友人は後で話してやるよ、と言う。
「要するに、お前はさっき三度目の失恋を果たし、その理由がどちらもお前が裸眼だったという事だろう。そしてそれが不愉快なお前は忙しくてたまらない俺の所に愚痴りに来た、そんな感じだな。―何か付け足す事は無いか?」
「要約するな!」
初めまして。yaoと言います。拙い小説ですがこれからよろしくお願いします。