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ゼロの境界線  作者: 陽無陰
第二章 銀の星
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2-2 行かないからね、絶対行かないからね!

 さて、自ら土砂降りというより滝を浴びることとなったソフィア達であるが、彼女達は今現在『銀の星』の宿舎にある浴場にいた。しかも、五人全員で。

 ソフィアはこうなった元凶であるフィレスティナをキッと睨みつける。

 しかし、フィレスティナは何処吹く風とばかりに飄々としている。

 そもそもの始まりは、滝のような水量を纏めて浴びた後のフィレスティナの誘いが原因となっている。



「一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」


「何かな?」


 大量の水を浴びた事でびしょ濡れになったフィレスティナは、水によってほつれ、顔に張り付いた髪を整えながらレイムに話を持ちかけた。

 一般的にいえば、あれほどの水量を浴びれば何処かしらに異常をきたしてもおかしくはないのだが、フィレスティナ達は全身がびしょ濡れになっただけで何処にも異常はない。

 超越者だからという問答でも充分な理由であるが、それでは彼女達が濡れてしまった理由には事足りない。

 超越者は上位の次元にいるため下位の次元では干渉できないのだが、ある条件を満たせば下位の次元でも干渉は可能である。

 その条件とは、上位次元と同次元以上の超越者が、超越者が超越者たる所以である形相に干渉し、形相の位階を落とすことである。

 それでも上位の存在であることから下位の存在では碌に干渉する事はできないのだが、今のフィレスティナ達と同じように濡らす程度の事は可能となる。

 ソフィアがその程度に収まるよう調整した事もあるが。


「もし、後は口頭の説明だけで済むのなら、一緒にお風呂にでも入りながら説明をお願いできますか?」


「何言ってんの!?」


 あまりにも突拍子もない提案にソフィアは驚きの声を上げる。


「……それはかまわんが、よいのか?」


 アインが視線を寄せたのは、唯一の異性であるレイム。


「はい、これから同じ部隊の仲間となるのですから、互いに胸襟を開きあうという証としてその場の方が相応しいかと。身体も濡れてしまいましたしね」


「いやいや、ちょっと待った! どう考えてもおかしいでしょ、それ!? 身体が濡れたっていってもどうにかなるじゃない! 現実の身体にも悪影響は出ないし!」


 仮想世界で与えられる全ての影響が現実の身体に反映されるわけではない。この仮想世界の目的は、あくまで世界樹制圧のための訓練なのだ。その妨げとなる四肢の喪失など目にも当てられない。

 よって、肉体に悪影響を与えるそれは、事前にシャットアウトされる仕組みとなっている。

 ソフィアが主張している様に、例え仮想世界で身体が濡れたとしても、現実の身体には一切影響を及ぼす事はない。


「気分の問題です。精神が肉体に影響を及ぼす事は、これまでの事例からも判明しています。きっと、このまま濡れたままでいれば、私は風邪をひいてしまうかもしれません。ああ、なんて可哀想な私。なんて鬼畜なソフィア」


 よよよと、泣き崩れるフィレスティナは実に演技くさいが、それでも彼女の小芝居に付き合うのは友人としての性か。ソフィアは顔を真っ赤にさせながら猛烈に反対する。


「誰が鬼畜よ! アンタの方がよっぽど鬼畜じゃない! とにかく、私はいやだからね! 絶対にいやだからね!」


「こうして彼女も賛成している事ですし、一緒にお風呂に入りましょう」


「人の話をちゃんと聞きなさいよ!」


「僕としては、どちらか一方でも話を聞いてくれればそれでいいよ。『銀の星』はある意味規律が緩い面もあるしね」


 この場で唯一の男性であるレイムは、彼女達と混浴する事に戸惑いは一切見られない。

 客観的に見れば、フィレスティナの言動は失礼に値するのだが、ここにいるのは彼らだけであり、部隊に対する決定権も彼が有しているため、彼が問題にしなければフィレスティナの言動は処罰されないのである。


「それは僥倖です。では、ログアウトしてもよろしいでしょうか?」


「うん」


 フィレスティナが姿を消したのを皮切りに、レイムとアインも仮想世界から姿を消した。

 一人取り残されたソフィアは――


「私は行かないからね。絶対、行かないからね!」


 誰もいなくなった渓谷で、一人寂しく声を反響させるのであった。




「私は信じていました。あなたならきっと来てくれるって」


「……私は期待を裏切らない女だから」


 にこやかな笑顔のフィレスティナに対し、ソフィアの表情は不本意といった様子である。


「私って誠実で真面目な人間だから、初日から職場放棄的な真似はできないのよね。やっぱり、説明も自分で聞かなきゃだめだし、質問しなきゃいけないかもしれないじゃない?」


「他の部隊の勧誘や説明会を聞き流している御仁のいう台詞とは思えませんね」


「あれは仕方ないのよ! だって、全く興味ないんだもん!」


「つまり、『銀の星』には興味があると?」


「そ、それは――ち、違うもん! 入団したから聞かなきゃ駄目って思っただけだもん!」


 ソフィアはレイム達をチラリと見た後、否定の言葉を勢いよく畳みかけた。


「はいはい、ツンデレ、ツンデレ」


「誰がツンデレよ!」


「もちろん、あなたです。さて、いつまでもあなたをからかっていたいのですが先約があります。そちらの方を先に済ませてしまいしょう」


「そうそう、それで……いいの、よ?」


 ソフィアはフィレスティナの言葉に賛成しかけたが、フィレスティナの言葉が浸透していくにつれ、顔を紅潮させながら言葉尻を弱めていった。

 ソフィアが正気へと立ち直る間に、ソフィア達の言葉の掛け合いを面白そうに眺めていたレイム達もフィレスティナも恥じらう事無く衣服を脱ぎ捨てていく。


「は、え、ちょ――」


 ソフィアが再度混乱し、硬直している間にフィレスティナ達の肌の面積は増していく。そして、バスタオルを身体に巻きつけたところで、ようやくソフィアが脱いでいない事をフィレスティナが指摘した。


「あら、ソフィアは服を着たまま入浴する習慣でもあるのですか?」


「ないわよ! い、今から脱ぐ所だから……」


「そうですか。早くしてくださいね」


 ソフィアは服を脱ごうとするのだが、彼女が服を脱ぐスピードは遅い。遅くしている原因は、誰もかれもがソフィアに注目している事。その視線に恥じらいを覚えてしまい、どうしても手の動きがぎくしゃくしてしまうのだ。


「ソフィアの脱ぐとこ見てみたい。脱げ、脱げ」


 フィレスティナが脱げと連発するものだから、ソフィアは余計に意識してしまい、身体全体に赤みが差すほどに恥ずかしさを覚えてしまう。


「だ、黙ってなさいよ! 今、ぬ、脱ぐ所なんだから!」


「しかし、脱ぐのが遅いではありませんか? そうですか、なるほど。これは私達に脱がせてもらいたいというメッセージですね、分かります」


「そうなのよ……って、なわけあるか!」


「では、さっさと淫らに脱いで、貧相な身体を見せてください」


「ちょっと! このスタイルが抜群な私に向かってなんてこというのよ!」


「少なくとも、私の方がスタイルはいいですよ」


「くぅ……」


 ソフィアはぐぅの音も出ない。ウエスト、ヒップはさほど変わらないのに、バストだけは二回り以上も違うのだ。

 ソフィアは生まれ持った性能の差を嘆きながら、渋々と彼女が纏っていた衣服を脱ぎ捨てていく。


「ほら、これでいいでしょう?」


 やや自棄っぱちになりながらも、ソフィアはフィレスティナ達と同じようにタオルを身体に巻き、準備を整えた。


「ええ……と言いたくはありますが、そうは問屋が卸しません」


「え?」


 はらりと、ソフィアの身体を巻いていたタオルがほどけ、生まれたままの姿をこの場に居る者達の前に晒す。

 ソフィアは何が起こったのか理解が追い付かず、暫し茫然自失となっていたが、ようやく現状を認識することに成功したのか慌てて手で身体を隠した。


「な、何するのよ!?」


 ソフィアががなり立てた先には、ソフィアが巻いていたタオル手にするフィレスティナ。タオルがほどけたのも、彼女がソフィアのタオルのも偶然ではない。全てがフィレスティナの手の内である。


「いえ、ここはお約束を一つ披露した方がよろしいかと思いまして。別名、ペナルティともいいますが」


「何のお約束よ!?」


「勿論、お色気です。タオルがはらりとほどけるのは定番でしょう?」


「そんな定番、こっちから取り下げよ! とにかく、早く返しなさい!」


 ソフィアがタオルを取り戻そうと躍起になって襲いかかるが、フィレスティナは紙一重で躱し、ソフィアの手にタオルを取り戻させない。

 ソフィアは別にタオルを取り戻さず、自分が着用していた服で身体を隠せばよいのだが、混乱してしまっているソフィアはタオルに固執してしまい、その事に考えが及ばない。


「はい、パス」


 タオルが描く放物線の行く先は、レイム。

 ソフィアはフィレスティナから解放されたタオルを救出しようと動くが、救出されたタオルを確保したのは、さらなる凶悪犯。ソフィアが羞恥を感じる元凶となっている真犯人である。


「わきゃー!」


 ソフィアがその事に気付いたその時には全てが遅し。真犯人であるレイムの前にソフィアの秘密は全て晒される事となったのである。ソフィアの諸々の各部分は、救出劇の最中に既に晒されていたのだが、それを自覚しているかいないかは別問題。ソフィアはすぐさまこれまで人質をとっていた犯人の背中へと隠れるのであった。


「あら?」


 しかし、ソフィアもただではすまさない。因果応報とばかりにフィレスティナのタオルを剥ぎ取ったのである。


「残念ね! 全ては私の掌よ!」 


 フィレスティナの背後に回ってようやく思いついた報復であったが、フィレスティナの掌で踊りきるのは無性に腹立たしいので虚勢を張る事にしたのであった。

 だが、フィレスティナは一向に意に介さなかった。堂々と動じることなく己が裸体を曝け出していた。


「……あれ?」


「さて、ここまで騒いでおいてなんですが、一つよろしいでしょうか?」


「何かな?」


「どうせなら、このままタオル無しというのはいかがでしょうか? 入浴時にタオルをつけるのもおかしな話でしょう?」


 公衆が使う浴場なら衛生の観念からマナー違反とされているが、ここは個人が使う浴場であるため、どちらの言い分でもまかり通る。規律である彼が許可すれば。


「君達がそれでいいなら僕もかまわないよ。元々、この二人ともよく一緒に入浴するし」


 レイムの言葉にアインとシェキナは賛同する。この二人は大抵三人で一緒に入るか、レイムと二人で入るかどちらかにしているのだ。


「ならば、お互い何も隠さないようにしましょう。タオルという無粋なものは、これから仲間となる私達に必要ありません」


 そうして、彼女達は何も隠すことなく一つの浴場に入る事となったのである。


 尚、その際少しだけ騒ぎがあったのはいうまでもない。


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