プロローグ
プロローグ
夕日の公園に紙の束が舞う。空からこぼれ落ちるオレンジを反射して、金色に輝いていた。
「小説なんて、売れないのよ!」
目の前の日下咲が叩きつけるように叫んだ。切れ長の瞳と高い鼻梁の、精悍な顔立ちを歪ませながら。
風が吹く。彼女が着ているゴシックロリータ調のワンピースと、綺麗に切り揃ったボブカットが揺れる。
僕と彼女の距離は三メートルあった。けれど、それは決して埋まることのない距離だった。
「もう、うんざりなのよ、こんなくだらないものは……!」
僕と咲の間には、キャリーカートに繋がれたダンボールが置かれている。そこには大量に、同じ表紙の冊子が詰め込まれていた。
また風が吹いて、ホチキスで留められただけの紙束が捕まえられ、宙へと吹き飛んでゆく。
……彼女の言葉に、どうしてと聞く必要はなかった。理由はよく分かっていたし、仕方ないとも思っていた。
だけど、認めたくなかった。
「他の人に誘われてるのよ。ネームを描いてもらえるから、私が作画してみないか、って。多分、貴方との小説よりは売れてくれるでしょうよ」
咲はそう言って、踵を返し、僕に背中を向ける。
震える手足を抑えながら、離れてゆく彼女の背中に、声を投げつけるしかできなかった。
「次に会ったときは、僕は咲を越えてるからな!」
まあ。ただの負け犬の遠吠えなんだけど。




