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プロローグ

 それが見える事に気付いたのは、あそこを出てから、すぐの事だった。それは人の形をしているようであり、炎のようみも見えし、いろいろな色があった。例えるなら人が全身を炎に包まれた、火達磨になっていると言った方が簡単に想像できる出来るだろう。それが自分事、思川士郎おもかわしろうが、それについて抱いた最初の感想だった。

 まるで自分に霊感でも宿ったのかと最初は思ったが、それは、そこにあるだけで、動く訳でもなく、かと言って良いものなのか、悪いものかも分からなかった。そう、それはそこにあるだけ、まるで、置き去りにされたように。

 だから、それを見ても不気味だとは思わなかった。ただ、それが自分にだけにしか見えていないと気付くのには時間は掛からなかった。それは、人通りの多い場所にも多くあり、他の人は素通りしていく。いや、それどころか、人がそれに接触すると、それは弾かれて道の端へと飛ばされて行く。そのため、それは道の両側に多く見られた。だが誰も、それを気にしない。誰も、それを気にしてはいなかったのだ。

 だからだろう、俺もそれに気付かないフリをするようになったのは。あそこで学んだ事の一つに、周りに合わせるという事を教えられた。だから俺に他の人と同じように、それに気付きながらも、全く気にする事無く、いや、気付かないフリを続けた。様々な色をした、それを横目に見ながら。

 それでも、俺の中には、それが気になっているという気持ちがあるのは確かだ。そんな時だった、高校の友達から肝試しの誘いを受けた。あそこを出て以来、俺は人との関係に一線をひいていた。別に特別な理由があった訳ではない。ただ誰かと親しくなりすぎると、関係の一線を越えるのが怖いような気がしたから。だから、学校での友達は学校内でしか付き合わなかったのだが、肝試しは良い機会だと思って、自分で言うのは何だが、珍しく友達が企画した肝試しに参加する事になった。

 時期的には、かなり早いものの、オカルトに興味がある友人からの情報で肝試しが行われる事になったらしい。そして肝試しが行われたのは、廃墟となっている病院だった。いかにも、という場所であり、友人達は女子も誘っていたようだ。だから人数の中に女子も入っている。そうして俺を含めて数人が廃墟の病院へと足を踏み入れて行った。

 だが、所詮はただの肝試しである。別に何かが出るわけではなく、誰かが先に何かの仕掛けをした訳ではなかった。ただ、夜に廃墟となった病院を探検するような感覚だった。そして病院内を懐中電灯の光を頼りに歩いている時だった。ふと、俺が別の方向に目を向けると、それは、そこに存在していた。俺にだけ見えると思われる、それである。

 だからこそ、これは確かめたいと思い、俺はそれを指差して大きく叫ぶ。

「そこに何か居るっ!」

 俺の言葉に女子は悲鳴を上げ、懐中電灯を持っている数人が驚きながらも、俺が示した方向へと光を照らすと、それは、はっきりと見えるようになった。だが、友人達は言うのだった。

「何もいねよ。それにしてもスゲー、ビックリしたんだけど」

「止めろよな、思川。何もないじゃん」

「まさか思川に驚かせられるとは思ってなかった」

「泣きそうになるから止めてよね、思川君」

「けど、皆、いいリアクションだったぜ。思川、グッジョブ」

 俺の言葉に、そんな言葉を返してくる肝試しの参加メンバー。だが、これではっきりした。それは俺にしか見えて無いという事が。もし、それが誰かに見えているのなら、戸惑うか驚きの反応を示すのだろう。だが、そんな反応を示したメンバーは居ない。よって、俺の悪ふざけという事になり、俺も場を盛り上げるためにやったと言って、全ては笑い事で済んだ。

 そんな肝試しから一ヶ月ぐらいが過ぎた頃だった。俺はいつものように一人で帰路に付いていた。学校の友人と帰る事はほとんど無い。先にも書いたとおりに俺は学校の友人は学校内でしか付き合うだけで、学校から出れば一人で居る事が多かった。

 今に思えば怖かったんだと思う。それが何なのかは、その時は分からかった。けど、今なら何となく分かるような気がする。俺は人との関係を恐れていたのかもしれない。誰かと親しくなる事が、また……あれに繋がりそうな思いがあったから、恐怖があったから。

それに……あそこを出てから、そんなに時間が経っていなかった。そのうえ、一人暮らしを始めたばかりだから慣れてはいなかった。だからだろう、学校の外での人間関係はほとんど無い、と言えた。だから、怖いとも思ったし、誰かと親しくなる事に不安になっていたのかもしれない。昔の記憶が、俺にそんな思いを抱かせていたのかもしれない。

 けど、その時は幼かったからだ。自分の未熟な部分、幼い部分が、俺をあのような行動に駆り立てた。今でも、その時を思い出そうとすれば思い出せる、鮮明に思い出せる想い出のステージを。そんな、自分の幼さが招いた……最悪な事態を……。

 だから俺は自然と人間関係に一線をひくようになったのかもしれない。もう二度と、あんな事態を起こさないために。そのため、自然と俺が学校の外では一人で居る事が多くなったのだと、今では思うのだった。

 そして、その時も俺は一人で歩いていると、とある空き地で、それを見つけた。いつもの俺なら、それが見えてても無視していただろう。だが、それには様々な色があり、俺が見つけた、それは、無視できない色を放っていた。それが赤よりも赤い……その色だったから。

 それを見た途端、俺の頭に昔の記憶が走る。そうだった、自分にも見覚えがある。赤よりも赤い、あの色を。それを全身に浴びて、そして手には……手した物も、その色に染まっていた。赤よりも赤い色に。だからだろう、俺は吸い寄せられるように、普段なら無視するはずのそれに歩み寄るのだった。

 近くで見れば、よりいっそう分かった。それが放つ色は……確かに昔の記憶にある、今でも鮮明に思い出せる色と同じ色だった。俺は、その色を全身に浴びて、そして今でも手には……。そして全身に……その色が染み込んでいるように思えた。

 忘れたいけど、忘れてはいけない記憶。捨て去る事も忘れる事も許されない想い出。それが俺の頭に蘇ってきた。だからだろう、俺は右手を、それに向かって差し出してみる。それは炎のように揺らいでいるが熱くはなかった。

 そうなると次に思うのは簡単な事だ。触れてみたい。そんな思いが俺の中に溢れてきた。それが何のかは未だに分からない。けど、それの色は俺を魅了するのには充分だった。何が起こるかなんて考えもしなかった。その色に魅了された俺は、それに触れてみたいという気持ちでいっぱいになり、少しずつ手を前に出し、いよいよ、それに触れようとした時だった。

「そのくれないに触れるなっ!」

 突如として凛とした声が響き、俺は驚いて手を引っ込める。そして、声のした方へと目を向けると、そこには、瑠璃色の着物を着て、黒くて長い髪を垂らしながら、まるで日本人形のような少女が立っていた。

 この出会いこそ、自分事、思川士郎と本名を捨てた少女、福寿ふくじゅとの出会いであり。俺の人生が大きく動いた出会いとも言えるものだった。福寿と出会った事、そして決断した事、その事に後悔は無い。ただ、その時は戸惑うばかりだったのを今でも良く覚えているのは確かだった。



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