第49話「砂漠の王と、宝箱の王」
砂蛇族の集落を出発して半日。
第二の塔に向かって、砂漠を進んでる。
メンバーは俺、ガルド、ガウル、レグナ、リーリア、ナギ。砂蛇族は集落に残った。長老が「我らが行っても足手まといになる」と判断したらしい。賢い長老だ。
ナギが先頭で道を案内してる。砂の振動を読んで方角を判断しているらしい。
「こっちだ。塔まであと半日くらい……って言いたいところだけど」
ナギが止まった。
尾の先が砂に触れてる。
「……来るぞ」
〝何が〟
「砂の振動が変わった。でかいのが近づいてくる。地面全体が揺れてる」
ガウルの耳がぴくっと立った。鼻は効かないけど、耳は使える。
「ガウ……聞こえる。ずしん、ずしんって。足音だ。すごく重い。でかい」
足音。
地面が——本当に揺れ始めた。立ってるのがわかるくらいの振動。
砂丘の向こうから——何かが来る。
砂が揺れてる。砂丘が崩れていく。
出てきた。
でかい。
サソリだ。巨大なサソリ。
体長——十五メートルはある。赤黒い外殻、八本の脚、ハサミが二つ、それぞれ人間の家くらいある。尻尾は高く上がってて、先端には強烈な毒針が。
そして——目が赤い。
【戦の王】の残響に侵されてるのか。第一の塔のときと同じ赤い光が、こいつの目に宿ってる。
【砂帝蠍】。砂漠の王――Sランク相当。
ナギが唾を飲んだ。
「あれだ……。でかくなってるな、前に見たときより……」
封印が弱まって、本来の姿に近づいてきてるんだろう。
ガルドが拳を鳴らした。
「……やるか」
〝やるしかない こいつを越えないと塔にたどり着けない〟
レグナが〝蒼き炎の剣〟を生成した。蒼い炎が砂漠の風に揺れてる。
「久しぶりに……本気を出す場面だな」
ガウルの毛が逆立ってる。鼻は効かないけど、体が敵の格を感じ取ってる。
「ガウ……。Sランクか、やべえのはわかる」
リーリアが後方に下がった。アイがリーリアのそばについてる。支援と回復担当だ。
〝作戦はこうだ〟
蓋文字を全員に見せる。
〝ガルドとレグナが正面 ハサミを止めろ〟
〝ガウルとナギが側面 脚を狙え〟
〝俺は後方から万蓋で援護する〟
〝尻尾に気をつけろ 毒針は絶対に食らうな〟
全員が頷いた。
砂帝蠍が、こっちを見た。
赤い目が八つ、全部こっちを向いてる。
咆哮——は、しない。サソリだから。
でも、ハサミをガチンと鳴らした。
それだけで地面が震えた。
……来る。
◇
ガルドが走った。
砂漠の砂を蹴って、まっすぐ砂帝蠍に向かっていく。
砂帝蠍の右のハサミが——振り下ろされた。
でかい。木造住宅くらいあるハサミが、真上から叩きつけられる。
普通なら潰される。ぺちゃんこだ。
でも、ガルドが拳を握った。
前に……ドレイクと戦った時に、掴んだ感覚があるそうだ。
拳に意識を込める。全身の力をその右手に。
……ぶつける。
「スキル——〝覇拳〟!!」
ガルドの闘気が凝縮された拳が光った。
叩きつけられたハサミに、拳を合わせる。
ドゴォォォンッッッ!!!
衝撃波が砂漠に広がった。
砂が吹き飛ぶ。周囲十メートルの砂が全部吹っ飛んで、岩盤がむき出しになった。
ハサミが——止まった。
ガルドの拳一つで。
外殻にヒビが入ってる。Sランクの外殻に、ホブゴブリンの拳でヒビを入れた。
「……ガルド、おまえいつの間にそんなスキルを」
レグナが横で見てる。
「さっき覚えた」
「さっき?」
「ドレイクと戦ったとき、拳に気を込める感覚を掴んでたんだ。あのときは、名前がなかった。でも、タカラの解封でスキル封印が解けて——名前が浮かんできた」
〝覇拳〟
ガルドの固有スキル。
素手に闘気を込める。
シンプルだけど、ガルドの戦い方にぴったりだ。こいつは拳一つで戦う男だから。
でも、ハサミは止まったけど、砂帝蠍は止まってない。
左のハサミが横から来た。
レグナが飛んだ。
〝蒼き炎の剣〟を振り下ろす。
「〝蒼き炎の薙〟!」
蒼い炎の斬撃がハサミの付け根に直撃した。
ジュウウウッ!
外殻が焼けた。溶けた——のは表面だけ。ハサミは切れてない。
「硬いな……。暗殺者の短剣とは訳が違う」
Sランクの外殻はレグナの蒼い炎でも一撃じゃ斬れないか。
でも、焦げ跡がついた。ダメージは入ってる、蓄積すれば斬れる。
左右のハサミをガルドとレグナが止めてる間に——
側面でガウルとナギが動いていた。
ガウルが右側から接近する。
「スキル——〝銀牙疾走〟!」
銀色の光を纏って、砂漠を走る。
……遅い。
砂に足を取られてる。砂漠はウォーウルフにとって最悪の地形だ。走れば走るほど足が沈む。
「ガウっ……砂が……足が……!」
このままじゃ〝銀牙疾走〟の最高速に乗れない。
そのとき、ナギが叫んだ。
「ガウル! 俺の上を走れ!」
ナギが砂に手をついた。
「〝砂塵舞踏〟!」
砂が動いた。ガウルの足元の砂が固まって、道ができた。
砂が岩みたいに硬くなって、走路になる。ガウルの進む方向に、固い砂の道が伸びていく。
「ガウッ! これなら——!」
ガウルが加速した。固い走路の上を、全力で駆ける。銀色の残像が砂漠を走り抜ける。
速い……ガウル本来の速度が出てる。
そして、砂帝蠍の右側面に回り込んだ。
銀の牙が光ってる。走りながら牙に魔力が溜まっていく。
一番手前の脚の関節に——噛みついた。
ガキンッ!
硬い。外殻が硬すぎて、牙が滑った。
「ガウっ……! 歯が立たない……!」
でもガウルは止まらない。止まったら〝銀牙疾走〟の効果が切れるから。
走り続ける。走りながら——二回目。今度は関節の隙間を狙った。
外殻と外殻の繋ぎ目。装甲の薄い部分。
銀色の牙が関節の隙間に食い込んだ。
バキッ!
一本目の脚が——折れた。
「ギシャアアアッ!」
砂帝蠍が初めて声を上げた。痛かったんだろうな。
ガウルが走り抜けながら叫んだ。
「ナギ! 次の脚も頼む!」
「任せろ!」
ナギが砂を操って、次の脚の手前にも固い走路を伸ばす。
ガウルが二本目の脚の関節に噛みつく。
バキッ!
二本目も折れた。
ガウルとナギの連携。砂漠では犬の鼻が使えないけど、蛇が走路を作れば犬の脚が活きる。
弱点を補い合ってる。
いい連携だ……って感心してる場合じゃない。俺も仕事しないと。
◇
砂帝蠍が怒った。
脚を二本折られて、バランスが崩れてる。でも、まだ六本もある。
砂帝蠍はまず、尻尾を動かした。
高く振り上げて——地面に叩きつける。
ドォォォンッッ!
砂が爆発した。衝撃波で全員が吹き飛ばされそうになった。
それだけじゃない。尻尾の先端が——光ってる。
何かを溜めてる。
ナギが叫んだ。
「やばい! 〝尾撃砲〟が来るぞ! 全員避けろ!」
尻尾から——凝縮された砂の弾丸が撃ち出された。
速い。弓矢なんかより全然速い。まるで砲弾だ。
ガルドが横に跳んだ。弾丸が通過した場所の砂が——爆発した。
着弾点を中心に、半径五メートルが吹っ飛んでる。
「なんだあの威力……!」
一発でこれか。
二発目が来た。レグナに向かって。
レグナが〝蒼き炎の剣〟で弾いた——弾けなかった。
砂の弾丸が蒼い炎を突き抜けて、レグナの肩の鎧を砕いた。
「ぐっ……!」
レグナが数歩下がった。肩の骨が一本欠けてる。
「……重い。闇属性ならともかく、純粋な質量攻撃は炎では防げんか……」
三発目——俺に向かって来た。
万蓋——上面の外蓋、〝空間収納〟!
砂の弾丸が蓋に触れた瞬間——吸い込まれた。
蓋裏に表示が走る。
──────────────────
〝収納〟:凝縮砂弾 ── 格納完了
〝収納〟:未知のスキルを精査中
魔物スキル〝尾撃砲〟と判明
当該スキルの術式を解析します……
解析完了
完全再現可能です
──────────────────
覚えた。
さて——お返ししてやろうか。
右の蓋——〝尾撃砲〟!
蓋から凝縮された砂の弾丸が撃ち出された。
ただし——パンドラの魔力で強化されてる。
元の弾丸の三倍くらいでかい。
砂帝蠍の顔面に——直撃。
ドォォォンッッ!
外殻が砕けた。顔の装甲の一部が吹っ飛んだ。
「ギシャアアアアッ!!」
自分の技を、三倍にして返された。
さすがに効いたみたいだ。体がよろめいてる。
でも——まだ立ってる。Sランクの耐久力は伊達じゃない。
砂帝蠍が、本気を出した。
体全体が赤く光り始めた。【残響】の力が溢れ出ているのか。
……地面の砂が動いた。
砂帝蠍の周囲の砂が、渦を巻き始めてる。
ナギの顔色が変わった。
「まずい……〝砂獄牢〟だ……!」
砂がガルドの足元で噴き出した。
ガルドの膝まで砂が盛り上がって、固まった。
「なっ——足が……! 動かねえ……!」
砂の牢獄。地面の砂を操って、相手を閉じ込めるスキルか。
ガウルも——走路の砂が突然崩れて、足元が沈んだ。
「ガウッ! 砂が……崩れた……!」
ナギが作った固い走路を、砂帝蠍の〝砂獄牢〟が壊した。砂の操作で砂の走路を崩されたんだ。
ナギが歯を食いしばってる。
「こいつ……俺の〝砂塵舞踏〟より砂の操作が上だ……! 砂漠の王の名前は伊達じゃないってことかよ……!」
ガルドが砂に埋まってる。ガウルも足が取られてる。レグナは肩を壊されてる。
まずい。
〝砂獄牢〟で味方が拘束されてる間に——尻尾が動いた。
〝尾撃砲〟の連射。ガルドに向かって。
動けないガルドに——砲弾が飛ぶ。
まずい——!
万蓋、全蓋展開!
上面の外蓋——〝空間収納〟でガルドに向かう砲弾を吸い込む!
内蓋——〝尾撃砲〟で返す!
左の蓋——〝フロストエッジ〟でガルドの足元の砂を凍結!
砂が凍った。〝砂獄牢〟の砂は操れるけど、凍った砂は操れない。氷で固めれば動かなくなる。
凍った砂をガルドが〝覇拳〟で砕いた。
バキィッ!
「助かった、タカラ!」
右の蓋——蔦射出。ガウルの周囲の崩れた砂に蔦を絡ませて、足場を作る。
「ガウッ……! 蔦の足場……ありがてえ!」
ガウルが蔦の上に飛び乗って、再び走り出す。
背面の蓋——〝ファイアランス〟。砂帝蠍の目を狙って赤い光の槍を飛ばす。
威嚇射撃。目を狙うことで、こっちに注意を引きつける。
「ギシャッ!」
砂帝蠍の意識が俺に向いた。
五枚の蓋を全部同時に使った。攻撃、防御、救出、足場作り、威嚇。全部同時に。
これが〝万蓋〟だ。
でも——息が上がってるのは俺も同じだ。五枚同時は、魔力をごりごり消費する。
長期戦は不利だ。こいつは砂漠の王。砂漠にいる限り、砂を無限に操れる。
こっちの魔力が先に尽きる。
終わらせないと——
〝全員聞け〟
蓋文字を全員に見せる。
〝次で決める〟
〝俺が禁忌の宝箱を使う〟
〝発動したら全員範囲の外に出ろ〟
ガルドが叫んだ。
「了解! ——全員、宝箱から離れろ!」
◇
【次回】禁忌の宝箱、二度目の発動。砂漠の王を——宝箱の中に引きずり込む。そこでタカラが見たものとは……。




