表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/49

第48話「砂漠に、蓋を開けに来た」


 ナギの案内で、砂漠を二日間歩いた。


 正確には、俺はズズズした。砂の上のズズズは少し沈むから遅い。砂ズズズ。


 ナギは砂の上を滑るように移動する。蛇だから砂との相性が抜群にいい。鱗が砂を掴んで推進力に変える。砂漠では俺より速い。



「タカラ、遅いぞー。砂の上は腹で滑るのが一番なんだよ」


 俺は腹がない。箱だから。底面はあるけど。


「底面で滑れないのか?」


 滑ってるんだよ。これがズズズだよ。


「ずずずって……もうちょっとかっこいい名前にしたら?」


 うるさい。ズズズはズズズだ。変えないぞ。




 ◇




 二日目の夕方。


 ナギが砂丘の上で止まった。尻尾がぴくぴくしてる。



「あそこだ」


 砂丘の向こうに——岩場があった。


 砂漠の真ん中に、赤茶色の岩が突き出してる。その岩の間に——穴がいくつも開いてる。


 巣穴だ。



「砂蛇族の集落。俺の故郷」



 ナギの声がちょっと変わった。いつもの陽気さが少し引っ込んで、静かな声になってる。



 「……八百年前は、もっと大きかった。ここ一帯が全部森で、砂蛇族は森の中に集落を作ってた。でも戦の王の暴走で森が焼けて、砂漠になって……集落も縮んだ」



 八百年分の歴史が、この岩場に詰まってるんだな。


 近づいていく。


 岩場の入口に——蛇がいた。


 サンドスネーク。ナギの進化前と同じ姿だ。砂色の小さな蛇。


 見張りだろう。こっちを見て——ぎょっとした。




「なっ……ナギか? ナギなのか? おまえ、その姿は……!」



 ナギが手を振った。手があるからな、もう。



「よう。久しぶりだな、トカ」


「おまえ……腕が生えてる……! 何があったんだ……!」


「封印を解いてもらった。こいつに」



 ナギが俺を指した。


 見張りのトカが——俺を見た。


 黒と金の宝箱を。



「……はこ?」


 またこの反応か。もう慣れたけど。




 ◇




 集落の中に入った。


 岩場の穴の中に、砂蛇族が住んでる。


 全員——サンドスネーク。ナギの進化前の姿。小さくて、腕もなくて、片言しか話せない。


 数は……三十匹くらいか。


 集落の長が出てきた。白っぽい鱗の、少し大きめのサンドスネーク。



「……ナギ。おまえ、その姿……」


「長老。封印が解けたんだ。こいつが——俺の封印を解いてくれた」



 長老がゆっくりと俺に近づいてきた。


 舌をちろちろ出してる。



「……おまえが……蓋を開ける者(オープナー)か」


 知ってるのか。


「いいつたえ……ある。いつか、はこがくる。ふたをあけるはこが。ふういんをとく、はこが」


 言い伝え。この砂漠にも伝わってたのか。


〝俺がその箱だ〟


 蓋文字を出した。長老が蓋裏の文字を読んでる。


「もじ……はこから、もじ……」


 ナギと同じ反応だ。まあ、そうなるよな。


「おまえ……わしらの、ふういんも……とけるか」


〝解ける 全員まとめて〟


 長老の目が見開かれた。蛇の目が見開かれるのは、もう二回目だから慣れてきた。


「ぜんいん……いちどに……?」


〝パンドラボックスの範囲解封だ 俺の周りにいるだけでいい〟


 長老が——震えた。


 体全体がぶるぶるしてる。蛇が震えるって、けっこう気持ち悪いな。


「……みんなを、よべ。みんなを、ここに、あつめろ」


 見張りのトカが岩場の奥に向かって叫んだ。


「みんな出てこい! 蓋を開ける者(オープナー)が来たぞ! 封印を解いてくれるって!」


 わらわらと——蛇が出てきた。


 岩の穴から。砂の中から。岩の上から。


 三十匹くらいのサンドスネークが、俺の周りに集まってきた。


 全員がこっちを見てる。小さな蛇の目が、何十個もこっちを見てる。


 期待の目だ。


 八百年間、封印されて、弱い姿のまま生きてきた。力を奪われて、狩られて、砂漠の片隅に追いやられて。


 パカラ村のゴブリンたちと同じだ。


 同じ目をしてる。


 パカッ。




〝やるぞ〟


〝解封〟——範囲展開。




 金色の光が、俺を中心にじわっと広がった。


 岩場全体を覆うくらいの範囲。半径二十メートル。パンドラボックスの範囲解封は、前よりさらに広がってる。


 蓋裏がばちばちしてる。




 ──────────────────

 〝解封〟──▶ 範囲解除


   対象:範囲内の全封印

   検出数:32件(進化封印31件

         スキル封印1件)


   解封を実行しますか?

 ──────────────────



 三十二件。


 実行!




 ◇




 光が——砂蛇族全員に染みこんでいった。


 一匹目が変わり始めた。体が伸びて、鱗の色が変わって、上半身に腕が生えてくる。


 二匹目。三匹目。四匹目。


 同時に。全員が同時に変わっていく。



「うわ……! 手が……手がある……!」


「体が大きく……!」


「声が……ちゃんと喋れる……! 言葉が出る……!」



 岩場の中で、三十匹のサンドスネークが、三十人の砂嵐の踊り子(サンドダンサー)に変わっていく。


 金色の鱗、褐色の肌、腕、指、言葉。


 八百年ぶりに取り戻した、本来の姿。


 あちこちから声が上がってる。




「俺の手……俺の手だ……!」


「砂が動く! 砂が俺の言うことを聞いてる!」


「スキルだ……名前が浮かんでくる……!」



 何人かが砂を操り始めてる。舞うように体を動かして、砂が渦を巻いてる。〝砂塵舞踏(サンドワルツ)〟。全員が同じスキルを持ってるのか。種族固有スキルだな。


 長老が——変わった。


 白い鱗の蛇が、銀色の鱗の砂嵐の踊り子(サンドダンサー)になってる。他の奴らより体が大きい。尾が太い。


 そして——長老の手のひらに、金色の砂が集まってきてる。


 普通の砂じゃない。光ってる。



「これは……〝砂金操術(ゴールドサンド)〟……。長老種にしか使えないスキル……。八百年ぶりに、戻ってきた……」



 長老種の固有スキル。金色の砂を操る。サガのホブゴブリン長老種みたいなもんか。


 長老が——俺の前に来た。


 ゆっくりと。


 そして、頭を下げた。




蓋を開ける者(オープナー)よ……。我らは八百年、この日を待っておった」


 他の砂蛇族も、全員が頭を下げた。


 三十人の砂嵐の踊り子(サンドダンサー)が、俺に向かって頭を下げてる。



「我らの力を、お返しいただいた。この恩は……決して忘れぬ」


 …………。


 なんか、すごいことになってる。


 パカラ村のときも思ったけど、この瞬間は何度やっても慣れないな。


 蓋文字を出す。



〝頭を上げてくれ 俺はただ蓋を開けただけだ〟


「ただ蓋を開けただけ……それが、どれほどのことか。おまえにはわからんだろうが……我らにとっては、八百年越しの奇跡なんだ」



 奇跡、か。


 俺にとっては、いつもの〝解封〟なんだけど。


 でも——相手にとっては、人生が変わる瞬間なんだよな。


 パカッ。



〝一つ頼みがある〟


「何でも言え」


〝俺は第二の塔に向かってる 中の魔王を浄化しに〟


〝おまえたちの故郷を砂漠にした魔王だ〟


〝浄化すれば この砂漠も変わるかもしれない〟


 長老の目が——ぎらっと光った。



「……故郷が、戻るのか」


〝約束はできない でも可能性はある〟



 長老がしばらく黙った。


 それからにやっと笑った。蛇が笑うとちょっと怖いけど、いい顔だ。


「おまえが行くなら——我らも動く。砂蛇族は、蓋を開ける者(オープナー)に協力する」


 仲間が、三十人増えた。


 砂漠の案内、砂嵐の制御、砂の操作。砂漠で戦うなら、これ以上ない味方だ。




 ◇




 夜。


 集落の中で焚き火を囲んでる。


 砂蛇族が料理を出してくれた。砂漠のサソリを焼いたやつ。見た目はアレだけど、食べてみると……



「うまい!」


 ガルドが叫んだ。


「何これ! 殻がパリパリで、中がぷりぷりしてる!」


 ナギが得意そうにしてる。


「砂漠のサソリは、焼くと旨いんだ。殻を剥がしちゃダメだぞ、殻ごと焼くのがコツ」


 リーリアが恐る恐る食べて——目を丸くした。


「……おいしい。エビみたい」


 レグナは食べられないから見てるだけだ。蒼い炎がちょっと寂しそうにゆらゆらしてる。


「食事は不要だが……匂いは感じる。いい匂いだな」


 ガウルはサソリを五匹くらい食べてる。犬食いだ。


「ガウ。うまい。砂漠、飯はいいな」


 鼻が効かなくて落ち込んでたくせに、飯がうまければ機嫌が直るのか。犬だな。


「犬じゃない」


 また、心の声が聞こえたのか。耳と勘はいいんだよな、ほんと。




 ◇




 食事の後。


 長老が俺のそばに来た。




蓋を開ける者(オープナー)よ。一つ、伝えておきたいことがある」


〝なんだ〟


「第二の塔の手前に、でかいのがいる」


 でかいの。


「〝砂帝蠍(サンドエンペラー)〟。砂漠の王。巨大なサソリだ。Sランク相当。あいつがいる限り、塔には近づけない」


 Sランクの巨大サソリか。厄介な相手だな。


〝そいつは凶暴なのか?〟


「元々は砂漠の守護者だった。穏やかな生き物だ。だが……最近、おかしくなった。暴れるようになった。塔の封印が弱まったせいだと思う」


 戦の王の残響だな。第一の塔のときと同じだ。


「あいつを何とかしないと、塔にはたどり着けない。砂蛇族も、あいつには手が出せなかった。Eランクの蛇が、Sランクのサソリに勝てるわけがないからな」


 そりゃそうだ。


 でも今は——砂嵐の踊り子(サンドダンサー)が三十人いる。


 俺はパンドラボックスのSランク。


 レグナはAランク上位。ガルドとガウルがAランク。ナギがBランク上位。


〝なんとかする〟


「なんとかする、か。あっさり言うな」


〝宝箱だからな 中身で勝負する〟


 長老がぷっと笑った。


「中身で勝負、ね。面白い言い方だ」


 面白いだろ。気に入ってるんだ、この言い回し。




 ◇




 夜中。


 リーリアが中に入った。


「おやすみ、タカラ。今日もいい日だったね」


 いい日だったな。仲間が三十人増えた。


「砂蛇族のみんな、嬉しそうだった。封印が解けたとき、泣いてる子もいたよ」


 見てた。


「タカラ……いいことしてるね」


〝蓋を開けてるだけだよ〟


「それが、いいことなんだよ」


 …………。


 パタン。


 明日は砂帝蠍(サンドエンペラー)に向かう。


 Sランクの巨大サソリ。砂漠の王。


 こいつを倒して——いや、正気に戻して——第二の塔に向かう。


 ズズズ。


 ……砂の上のズズズは、やっぱり遅いな。


 パタン。



 ◇



 【次回】砂帝蠍(サンドエンペラー)が、砂漠の向こうからやって来る。地面が揺れてる。でかい。とんでもなくでかい。ガルドが拳を鳴らした。「よし。やるか」。全員のスキルで——砂漠最強のサソリに挑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ