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第44話「禁忌の宝箱」


 王都から帰ってきた。



 チョンが「おかえりー!」って飛びついてきた。


 宝箱に飛びつくなって、蓋に挟まるぞ。



 さて、俺は旅の準備を少しずつ始めた。


 食料、水……魔石の備蓄。


 ガルドが仕切って、レグナが助言して、リーリアとサガが薬草を準備してる。



 準備を進めつつ——実は他にも、やっておきたいことがあった。



 パンドラボックスの新しい力――〝範囲解封〟。



 進化してから気づいてたんだけど、仲間の中にまだスキルの封印が残ってる奴がいるんだ。体の封印は前に全部解いた。でも、スキルの封印は別枠だったらしい。



 魔物たちが本格的に暴れたら手が着けられない。



 だから大賢者は、たとえ俺たちに力が戻っても、『スキル』だけは使わせないように、入念に封印をしてきたようだ。


 それも、パンドラに進化したいまなら、解除できる。


 ――試してみるか。




 村の広場にみんなを集めた。



「ガウ。なあタカラ、今日は何をするんだ?」



〝じっとしてろ。ちょっと、やってみる〟




〝解封〟——範囲展開。



 金色の光が、俺を中心にじわっと広がった。



 蓋裏がばちばちしてる。




 ──────────────────

  〝解封〟──▶ 範囲解除

   対象:範囲内の全スキル封印

   検出数:12件

   解封を実行しますか?

 ──────────────────



 十二件もあったのか。もちろん、実行!



 光が、みんなの体に染みこんでいった。



 レグナが最初に反応した。蒼い炎がぶわっと燃え上がった。いつもの倍くらいに。




「……何だ、この感覚。体の奥から、何かが……戻ってくる」



 レグナが右手を掲げた。蒼い炎が手のひらに集まっていく。



 そして――剣の形になった。蒼い炎の剣だ。



「これは……〝蒼き炎の剣ロア・フレイムブレード〟。我が本来のスキルだ。八百年ぶりに……戻ってきたのか……」



 レグナの蒼い炎が、今までとは全然違う色味で燃えてる。鮮やかだ。



 そして、ガウルの毛並みが銀色に光った。体全体が一瞬、銀色の光に包まれた。



「ガウッ!? なんだこれ、体が軽い……速い……前より、全然速いぞ!」



 ガウルが走り出した。


 速い――今までの超高速より、さらに速い。銀色の残像が見える。



「これ……〝銀牙疾走(シルバーファング)〟か……? 名前が、頭の中に浮かんできた……!」



 スキルの封印が解けて、本来持ってた力が戻ったんだ。



 他の仲間たちも、それぞれ何かを感じてるみたいだ。ホブゴブリンの何匹かが「体が熱い」って言ってるし、ウォーウルフが何匹か遠吠えしてる。



 パンドラボックスの範囲解封——一匹ずつこつんこつんしなくても、まとめて全員のスキル封印を解ける。



 便利だな、これ。




「……ありがとう、タカラ。まさか、我がこの剣を再び握れる日が来ようとは」



 ふっふっふ、お安い御用さ、この程度は。



 パカッ。



 さて、旅の準備の続きだ。



 平和な時間に、どんどんやることをやっておかないとな。



 ——って思ってたけど。



 その夜、村は急に平和じゃなくなった。




 ◇




 夜。


 みんなが寝静まった頃。


 ガウルが——唸った。


 低い、地面を這うような唸り声。


「……ガウ。来る」


 パカッ。


〝何が〟


「人間だ……大勢、五十人以上。南と東から、二手に分かれて……」


 ガウルの金色の目が暗闇を見据えてる。毛が逆立ってる。



「殺意の匂い。全員から」



 五十人以上。全員殺意。



 冒険者の襲撃みたいなチンピラじゃない。統率されてる。二方向から同時に来るってことは——軍事訓練を受けた連中だ。


 傭兵か。暗殺者か。



 ……セルディスが忠告してたな。貴族の保守派。「魔物に村を認めるなど許さない」。



 王都で条件を飲んだ直後に来るってことは——王都にいる間に情報が漏れたか。



 マリウス? いや、断定はできない。



 今はそんなこと考えてる場合じゃない。



〝ガルド 起きろ〟



 ガルドはもう起きてた。ガウルの唸り声で。



「聞こえた。何匹だ」


「ガウ。五十以上。たぶん六十近い。装備してる。鉄と毒の匂いがする」



 毒……暗殺者だな。


 レグナも立ち上がってた。蒼い炎が燃えてる。



「夜襲か。古典的だな」


 古典的でも効くから古典なんだろうけど——相手が悪かったな。


 パカラ村にはAランク以上が三匹と、Sランクの宝箱が一箱いる。


 夜襲で奇襲するには——ちょっと足りないんじゃないか。



〝ガルド 村の中の非戦闘員を中央に集めろ チョンとリーリアとサガは建物の中に〟


「わかった」


〝レグナ 東を頼む〟


「承知した」


〝ガウル 索敵を続けろ 動きが変わったら教えてくれ〟


「ガウ。任せろ」


〝南は俺がやる〟


 ガルドが振り返った。


「一人で? 三十人くらいいるぞ、南は」


〝パンドラボックスだぞ? Sランクだぞ?〟


「……またそれか」


 またそれだよ。今度は、ちゃんと使わせてくれよ。




 ◇




 南の森の際。


 月明かりの下、黒い服の暗殺者が散開してる。


〝査定〟で確認。


 三十二人――弓兵八、近接二十、魔法使い四。


 近接の何人かは——Bランク相当の気配がある。強いな。


 普通の村なら壊滅してる。


 まあ、ここは普通の村じゃないけど。


 万蓋——全開。五枚の蓋が同時に開く。


 先手。


 左の蓋——蔦射出。五本の蔦が草むらを這って、前列の暗殺者の足に絡みつく。


「うわっ!?」


「なんだ、足が——!」


「クソ、暗くてよく見えん!」



 三人が転んだのを合図に、残りの暗殺者も動いた。



「宝箱だ! 囲め!」



 リーダーらしき男が叫んだ。


 暗殺者が左右から回り込んでくる。


 後列の弓兵が——弓を天に向けた。


 俺に向かって、八人同時に。




「——〝アローレイン〟!」



 八本の矢が空に放たれた。



 これは……普通の矢じゃないな。矢が空中で分裂している。


 八本が——六十四本に。


 矢の雨だ。


 空から降ってくる――広範囲――避けられない広域攻撃。


 これは天に向かって撃つことで、矢の雨を召喚する弓兵スキルだ。


 六十四本の矢が、俺の頭上から降ってくる——だったら!



 上面の外蓋——〝空間収納〟!



 蓋の上に空間の歪みが開いた。



 六十四本の矢が——全部、吸い込まれる。



 そして、蓋裏にこう表示された。




 ──────────────────

  〝収納〟:鉄矢×64 ── 格納完了

  〝収納〟:未知のスキルを精査中

 

   弓兵スキル 〝アローレイン〟と判明

   当該スキルの術式を解析します……


    解析完了

   完全再現可能です

 ──────────────────




 解析完了。再現可能。


〝収納〟の力で、もう覚えた。


「嘘だろ……全弾……」


「呑み込まれた……だと!?」



 ああそうだ、全弾だよ。


 そして——これをお返ししてやるぜ!


 上面の内蓋——〝アローレイン〟!


 蓋から矢が空に放たれた、とてつもない量の弓矢を召喚する。


 でも、今度は六十四本——じゃない。


 パンドラボックスの魔力で強化されてる。



 六十四本が、千二百八十本に分裂した。



 およそ20倍だ!



 数え切れない光の矢が、暗殺者たちの頭上に降り注ぐ。


 そして、俺のアローレインは——白い光で出来てる。


 金属の矢じゃない。魔力の矢だから、生半可な防具じゃ貫通するぞ。



 ――着弾。



 ドドドドドドドドッッッ!!!



 おっかない音が鳴ってるけど……実は、一本も当ててない。だって、殺す気ないし。



 でも、これだけの矢が同時に降ってくるなんて、まともではいられないだろ。



 弓兵たちは、あわあわと腰を抜かしていた。



「俺たちのアローレインが……何十倍になって返ってきた……!?」


「無理だ……無理だ!! こんな化け物、俺たちじゃ逆立ちしたって勝てっこねえ!」


「ええい、腰抜け共め……! こうなったら、俺が直々に出向いてくれる!」



 これで弓兵八人は戦意喪失で、戦闘不能だな。



 さて……残り、二十四人か。




 ◇




 近接の暗殺者が突っ込んできた。



 二十人で、短剣と暗器を持っている。



 速いし洗練されてる……全員、プロの動きだ。Bランク相当が、何人かいるな。


 右側の八人——右の蓋から〝フロストエッジ〟!


 氷の刃が飛び出して、暗殺者の足元が凍りついた。


 でも——それだけじゃない。着弾と共に氷がせり上がって、膝の高さまでの氷の壁になった。


 パンドラボックスの魔力で強化されたフロストエッジは、凍結範囲がでかいんだ。



 八人が氷に埋まって動けなくなった。



 左側から攻めてくる六人は、えーっと、こうだ!



 左の蓋から、蔦を射出する!



「くっ——!」



 蔦が締まって、暗殺者たちの手が開く。短剣が六本同時に落ちる。



 カラン、カラン、カラン。



 正面から走ってきてる奴らは、まだやる気のようだな。突っ込んできてる。



 同じように蔦を放ってみたけど……こいつらは避けた、速い。



 先頭の男が——手に黒い気をまとわせた。



 あれは……スキルだ!



「〝暗殺者の刃(シャドウエッジ)〟!」



 黒い刃が、短剣から伸びてきた。刃渡りが三倍になってる、闇属性の強化スキルだ。



 だけど、俺にはまだまだ蓋がある——さあ、〝収納〟だ!



 その瞬間、刃ごと、スキルごと、男の手から黒いオーラが消えた。


 闇属性の短剣が、ただの短剣に戻っている。



「……え? は……?」



 俺は、暗殺者のスキルを〝収納〟した。



 さて、今度はどんなスキルかというと……。




 ──────────────────

  〝収納〟:暗殺者スキル〝暗殺者の刃〟を検出

    術式を解析中……解析完了

    再現可能です

 ──────────────────




 これも覚えた。



 まあ、使わないけどな。暗殺スキルとか趣味じゃないし。



 さて、男が呆然としてる隙に——上面の蓋から白い光弾を、足元に放つ。


 ドォンッ!



 吹っ飛んで気絶した。



 残り、五人だ。



「クソ……どうする、ほとんどやられたぞ」


「玉砕覚悟で構わん、一矢報いることさえできれば……!」


「所詮、魔物は魔物。ラッキーがいつまでも続くと思うな!」



 なんて言いながら、五人が同時に襲いかかってくるけど——



 もういいか。



 内蓋に意識を集中する。



 俺はパンドラに〝進化〟した時から、ある異変を感じていた。



 きっと俺には……収納やズズズとかの能力だけじゃない、新たなスキルが与えられている。



 それも、普通のスキルじゃない。



 ミミックの上位種でしか使えない、ミミック限定の【固有スキル】。



 今こそ、それを試してみる時だろう。



 固有スキル――その名は、〝禁忌の宝箱(パンドラ)〟!





 五枚の蓋が——全て裏返った。




 それと同時に、俺を中心にして金色の光が広がった。




「どこだ……ここ?」


「なんだ……白い、広場?」


「さっきまでの森はどこに……俺たち、いまどこにいるんだ?」



 暗殺者たちは、ポカンと口を開けて、周囲を見渡している。



 白い……白くて、何もない空間で。



 ふっふっふ……この場所が何なのか、誰も分かっていないみたいだ。



 この場所が、何なのか。



 正解は――『俺の中』だ。




「クソ、あの宝箱……訳の分からないスキルを使いやがって!」



 暗殺者の一人が短剣を取り出した。


 まだ抵抗しようとしている。


 でも、その短剣は、直ぐに消えた。



「は……? 嘘だろ、今度は剣が……消えた?」




 違うな、消えたんじゃない。



〝収納〟されたんだ。



 この空間の中にあるものは、全て俺の『中身』。



 俺が「いらない」と思ったものは——全部消える。



 別の一人が叫んだ。



「にっ、逃げろ! この光の外に——外に出れば、安全のはずだ!!」



 暗殺者たちは、悲鳴を上げながら走った。この白い空間から出ようと。



 でも……走っても走っても、たどり着けない。空間に、終わりがない。



「なんだよ……これ」


「走ってるのに……進んでない……!?」


「何なんだよ……本当に、何なんだよ、これはぁ!?」



 ふう……まだ分かっていないみたいだな。



 おまえたちは、『宝箱』の中にいるんだ。



 一度収納されると、中からは出られない。



 蓋を開けられるのは——俺だけだ。



 五人の武器が、全部消えた。鎧も消えた。靴も消えた。



 丸腰。裸足。



「ひっ……何が起きて……!」



 俺は何もしてないぞ。ただ「いらないもの」を消してるだけだ。



 こっちのほうがいいだろ。殴るより、刺すより。



 優しい宝箱だろ?



 だから……怖い顔するなよ。殺さないから。




「お、お助け……お助けを……!!」


「もう二度と刃向かわない! だから、ここから出してくれぇ!!」



 暗殺者は、誰もが膝をついてた。


 戦意喪失……こうなったら、脅す必要もないな。



 解除。



 白い空間がパッと消え、元の世界に戻される。



 戻されるっていうか、俺がこいつらを吐き出しただけだけど。



 暗殺者たちは……へたり込んでるな。気を失ってるやつ多い。



 たぶん、これでもう大丈夫だとは思うけど……武器も鎧も、俺の収納の中だし。



 これは後で返すよ、たぶん。



 ようやく静かになったところで、俺は蓋の裏に意識を凝らした。



 また取説が更新されているらしい。




 ──────────────────

 〝固有スキル:禁忌の宝箱(パンドラ)

 

   五枚の蓋を全開放し、

   収納空間を反転展開する。

   範囲内は〝宝箱の内部〟となる。

 

   範囲:半径約15メートル

   維持時間:魔力依存(最大約60秒)

   魔力消費:極大

 

   * この空間の中では、

    全てがあなたの〝中身〟です。

    蓋を開けた者の運命は、

    あなたが決めてください。

 ──────────────────




 蓋を開けた者の運命は、あなたが決めてください。


 取説がまたポエムみたいなこと言ってるけど……まあ、その通りだな。


 俺の固有スキル【禁忌の宝箱(パンドラ)】は、あらゆるものを収納し、その中に閉じ込める。


 たとえ魔王であっても、この『収納空間』から出ることはできないだろう。



 さて……。


 南方面、三十二人。全員無力化完了。



 俺の被害——ゼロ。



 次は、仲間たちの様子でも見に行くか。



 パカッ。




 ◇




 東のレグナ。


 暗殺者たちが、丘に向かって散開してた。


 レグナが丘の上に立ってる。一人で。


 目に宿る蒼い炎が、パチパチと燃えてる。


 暗殺者たちが、十メートルまで近づいた。


 レグナが右手を掲げた。蒼い炎が凝縮する。


 拳の形——じゃない。長く、細く伸びていく。


 そして……柄ができて、刃ができた。蒼い炎の剣だ。



「〝蒼き炎の剣ロア・フレイムブレード〟」



 青い炎をまとった剣に、思わず尻込みする暗殺者たち。


 そこへ暗殺者のリーダー格の男が叫んだ。



「怯むな! たかが骸骨だ……全員でかかれ!」



 暗殺者たちが同時に斬りかかった。



 しかし、レグナが剣を一閃すると――、




「〝蒼き炎の薙ロア・フレイムスイープ〟」



 蒼い炎の斬撃が、弧を描いて飛んでいった。



 ヒュン――と音を立てて、



 次の瞬間には、十人の剣が溶けていた。


 柄まで。


 手に残ったのは——何もない。


 握ってた鉄が全部液体になって、地面に垂れてる。



「は……?」



 暗殺者たちが、自分の手元を見て固まっていた。



 その隙に、



 「〝蒼き炎の壁ロア・フレイムウォール〟」



 レグナが地面に突き立てた剣から、蒼い炎が噴き出した。


 左右に広がって——幅三十メートルの炎の壁になった。


 暗殺者たちの前に、蒼い炎の壁がそびえ立ってる。


 熱い。近づけない。



「我は死霊将軍レグナ――魔王軍四将軍が一人」



 蒼い炎の向こうから、レグナの声が響いた。



「この炎は我の魂から生まれる。水では消えぬ、風では散らぬ。我が消すまで——永遠に燃え続ける」



 永遠。


 暗殺者たちの顔から血の気が引いた。



「降参するか、戦うか……選べ」



 武器を落とす音が、ぱらぱらと聞こえた。



 一人、また一人……そして、全員。



 レグナが『蒼き炎の剣』を消した。壁も消えた。



 これが——魔王軍四将軍。


 魂が三割しかない状態で、この圧。


 完全体になったら、いったい何が起きるんだ。




 ◇




 逃げ出した暗殺者が三人いた。



 森に走り込んだ。



 ガウルが——追った。



「スキル――〝銀牙疾走(シルバーファング)〟!」



 その時、ガウルの残像が、森を駆け抜けていった。


 一人目、一瞬で追いついた。


 銀色に光る牙が、暗殺者の肩に食い込んだ。普通の噛みつきじゃない——革鎧が紙みたいにちぎれた。銀の魔力が乗った牙の切断力は、鉄の鎧すら噛み砕く。



 噛んで、投げた。木に叩きつけた……気絶。


 ガウルは止まらない。止まったらスキルが切れる。


『走り続けること』が、このスキルの条件なんだろう。



 二人目——こいつは賢い。まっすぐ逃げずに、木の間をジグザグに走ってる。


 でも、ガウルのほうが速い。


 二人目の周りを——ガウルがぐるぐる走り始めた。


 円を描くように、高速で。


 走った軌跡には、銀色の光が残ってる。銀色の線がぼんやり光ってる。


 そして、ガウルが三周した。


 二人目の周囲に、銀色の光の輪ができてた。


『残光の檻』だ。


 二人目が輪の外に出ようとした。銀色の光に足が触れた瞬間——



「ぐっ——!」



 弾かれた。足が痺れて崩れ落ちた。


 残光に触れるとダメージが入るのか、あれは出られないな。


 銀色の檻の中で、二人目が座り込んだ。



「な、なんだこれ……出られない……!」



 出られないよ。狼に囲まれたら、おしまいだ。



 でも、ガウルはまだ止まらない。走り続けてる。



 三人目——こいつが一番遠くまで逃げてた。もう二百メートルくらい先だ。



 ガウルが——加速した。



 もう一段、速くなった。銀色の光が体の周りで風になってる。最高速度。



 最高速に達したガウルの体から——銀色の牙型の衝撃波が飛んだ。



 銀の牙が空を裂いて、三人目の足元の地面に突き刺さった。



 ドォンッ!



 地面が爆発した。三人目が吹っ飛んで、草むらに突っ込んだ。



 ガウルがようやく止まった。銀色の光が消えていく。



「ガウ……はあ、はあ……全力は、疲れるな……」



 三人。十五秒。



 ウォーウルフの敏捷S。嗅覚S。



 走ってる間だけ最強。止まったら——ただの犬だけど。



「ガウ。……ただの犬じゃないぞ」



 なんで、心の声が聞こえるんだよ。



 犬の耳って、けっこういいな。




 ◇




 全部、終わった。


 六十人弱。全員無力化。


 パカラ村の被害——ゼロ。



 俺たちはリーダーを尋問した。


 レグナの蒼い炎がちろちろしてるだけで、リーダーはすぐ喋った。



「主犯は——ベルモント侯爵。王都の貴族だ」



 名前が出た。


 朝になったらドルトン経由でセルディスに報告しよう。


 チョンが建物から出てきた。



「タカラ! 金色の光がばーって広がるやつ、すごかったけど、あれ何!?」



〝新しいスキルだ。禁忌の宝箱(パンドラ)っていう名前のな!〟



「パンドラ……かっこいい!! あと、レグナの蒼い壁もすごかった! あと、ガウルが銀色でびゅーんってなってた!」



〝全部見てたのかよ。まったく、建物にいろって言っただろ〟



「だって気になるんだもん……」


 レグナがチョンの頭に骨の手を置いた。



「次は——おまえも戦えるようにしてやる」



「うん!!」



 仲間たちはもう、ステータスだけじゃない。スキルも取り戻してる。


 これならもう、俺が少し出かけても安泰だな。


 パカラ村は——強い。



  パカッ。



 ◇



 【次回】ベルモント侯爵が拘束された。セルディスから書状が届いた。〝パカラ村を自治集落として正式に認める〟。そして——旅の準備が整った。出発の朝が来る。チョンが手紙をくれた。

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