表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺を殺した宝箱に俺が転生してどうすんだよ! ~中に入れたものが全部強くなる収納チート~  作者: ぶらっくそーど
第二部 太陽の下の宝箱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/117

第24話「おまえは、何がしたい」


 三日後。


 ドルトンが約束通り、協定書を届けに来た。


 ちゃんとした羊皮紙に、ギルドの赤い印が押してある。


〝ベイルの街冒険者ギルド支部と、パカラ村は、以下の事項について合意する——〟


 堅い文章だ。でも、ちゃんとしてる。


 互いに攻撃しない。協定を破った者はギルドが処罰する。有効期間は一年で、更新可能。


 ガルドがサガに教わった字で、代筆の署名をした。


〝パカラ村代表・タカラ 代筆・ガルド〟


 ドルトンがそれを見て、ちょっと笑った。


「代筆つきの署名は初めて見たよ」


 手がないんだからしょうがないだろ。


 協定書の交換が終わって、ドルトンが帰ろうとしたとき——もう一通、封筒を渡された。


「これは……預かりものだ。ギルド宛に届いたんだが、中身を見たら、おまえ宛てだった」


 俺宛て?


 封筒を、ガルドに開けてもらった。蓋じゃ紙が破れそうだしな


 中に、一枚の紙。


 短い手紙だった。



『タカラへ。


 一度、二人で話がしたい。

 村の南の大樫の木の下で待つ。

 明日の昼。

 武器は持たない。


            レイス』



 …………。


 レイスから。


 二人で話がしたい、と。


 武器は持たない、と。


 ガルドが手紙を読んで、眉をしかめた。


「罠じゃないのか」


〝かもしれない〟


「行くのか」


〝行く〟


「……だと思った」


 ガルドがため息をついた。もう慣れたらしい。



 ◇



 翌日の昼。


 村の南に大きな樫の木がある。ガウルの索敵圏内だ。


 一人で行く——と言ったけど、ガルドが「せめて近くにいさせろ」と譲らなかった。


 結局、ガルドとガウルが百メートルくらい離れた茂みに隠れてる。何かあったらすぐ来れる距離だ。


 俺は——ズズズで、樫の木に向かう。


 人間に擬態するか迷ったけど、やめた。


 宝箱のまま行く。


 レイスは俺が宝箱だって知ってる。隠す意味がない。


 それに——宝箱の姿のほうが、パカパカできる。安心する。


 樫の木の下に着いた。


 先に来てた。


 レイスが木の根元に座ってる。


 白い外套。でも鎧は着てない。手紙の通り、武器もない。


 私服——というか、ただの白い上着と革のズボン。


 騎士の鎧を脱いだレイスは、普通の青年だった。二十代前半。金髪。ちょっと疲れた顔。


 レイスが俺を見た。


「来たか」


 ズズズ。レイスの前まで進む。


「座る……のか? 宝箱は」


 座らない。もともとこの姿勢だ。


 パカッ。蓋文字を出す。


〝話がしたいんだろ〟


「ああ」


 レイスが少し間を置いて——話し始めた。



 ◇



「俺は十二のときに塔守に選ばれた」


 いきなり身の上話か。


「聖騎士団の訓練生の中から、塔守の適性がある者が選ばれる。十年に一人いるかどうかの、名誉ある役目だと教えられた」


 名誉、ね。


「塔を守ることが、世界の平和を守ることだと信じていた。今も……信じたい、と思っている」


〝でも?〟


 レイスがちょっと笑った。


「でも——リーリアが逃げた。あの子は塔の中で十年間魔力を送り続けて、ある日突然逃げ出した」


〝魔物の声が聞こえたから って言ってた〟


「ああ……あの子にはそれが聞こえていた。俺には聞こえなかった。聞こうともしなかった」


 レイスの目が、俺を真っ直ぐ見てる。


「おまえに聞きたい。おまえは封印を解いた。魔物が進化した。それで——何がしたい?」


 何がしたい。


 ……正直に答えるか。


〝仲間を守りたい〟

〝対等に暮らしたい〟

〝それだけだ〟


 レイスが黙って読んだ。


「……対等に、か」


〝魔物を滅ぼしたいわけじゃない〟

人間を滅ぼしたいわけでもない〟

〝ただ、一方的に狩られるのが嫌なだけだ〟


「一方的に、狩られる……」


 レイスが目を伏せた。


「俺は塔守として、封印を守る側にいた。封印があるから魔物は弱い。弱いから冒険者が狩れる。狩れるから人間の社会が回る。……そういう仕組みだと、教わった」


〝その仕組みの下で 何匹死んだと思う?〟


 レイスが黙った。


「……考えたことがなかった。正直に言えば」


 正直だな。


「塔を守ることしか考えていなかった。塔の外で何が起きているかは——見ないようにしていた」


 見ないように。


 それは——俺もそうだった。


 冒険者だった頃の俺も、ゴブリンを斬るとき、そいつに仲間がいるとか、群れで暮らしてるとか、考えなかった。


〝俺も同じだった〟

〝冒険者だった頃は〟


 レイスが目を丸くした。


「……おまえ、元人間なのか?」


 あっ。


 言っちゃった。


 まあ……隠すことでもないか。


〝元Bランクの冒険者だ〟

〝ミミックに食われて死んだ〟

〝気づいたら、ミミックになってた〟


 レイスがしばらく無言だった。


 それから、ふっと笑った。


「ミミックに食われてミミックになった……嘘みたいな話だな」


 嘘みたいだけど本当なんだよ。


「だから人間の言葉がわかるのか。蓋に文字が出せるのも……いや、それは別の理屈か」


 別の理屈だな。取説のおかげだ。


 レイスが膝に肘を置いて、考え込んだ。


「元人間で、今は魔物の代表……か。変な話だが、だからこそ、おまえの言葉には重みがあるのかもしれないな」


 重みっていうか、俺は宝箱だから軽いんだが。


「一つ、聞いてくれ」


 レイスの目が——さっきまでと変わった。真剣だ。


「俺がおまえたちを止めようとしていたのは、封印を守るためだけじゃない」



 ◇



「この塔は、魔物の進化を封じている。それは知っているだろう」


〝ああ〟


「だが——封じているのは、それだけじゃない」


 やっぱりか。あのとき言ってた〝善いものだけとは限らない〟。


「大賢者がこの塔を建てたとき、魔王がいた。おまえたちの先祖の王だ」


 サガから聞いた。


「大賢者は魔王を倒した。だが——殺してはいない」


 殺してない?


「封じたんだ。塔の力で。魔物の進化と一緒に、魔王の魂を塔に封じた」


 ——魔王の魂が、塔に封じられてる。


「塔が完全に壊れたら、魔王の魂が解放される。何百年も封じられた魂がどうなっているか、誰にもわからない。もとの魔王のまま目覚めるかもしれないし……もっとひどいものになっているかもしれない」


 …………。


 それが——レイスが恐れていたこと。


 封印が解ければ、魔物が強くなる。それはいい。


 でも同時に——何百年も閉じ込められた魔王の魂も、目覚める。


〝今の状態は?〟


「台座の封印はおまえが吸い取ったと聞いた。あの台座は塔の心臓部だ。かなり弱まっている。だが……まだ持っている。リーリアが十年分溜めた魔力の貯蓄がある。それが尽きたら——」


 〝どれくらい持つ〟


「……半年。長くて一年」


 半年から一年。


 その間に——どうにかしないといけない。


 魔物の封印は解きたい。でも魔王の魂は解放したくない。


 両方を同時に解決する方法を見つけないといけない。


 ……面倒な話だな。


「だから——俺はおまえに話しに来た。おまえが本当に〝対等に暮らしたい〟だけなら、一緒に方法を考えられる。魔王を目覚めさせずに、封印だけ解く方法を」


 一緒に。


 塔守が、俺と一緒に。


〝おまえ 塔守の仕事を裏切ることにならないか?〟


 レイスが少し笑った。


「塔守の仕事は〝世界を守ること〟だ。塔を守ることじゃない。塔がなくても世界が守れるなら、それでいい」


 ……いい奴だな、おまえ。


〝わかった 協力しよう〟


 レイスが立ち上がった。


「……握手、できるか? その蓋で」


 パカッ。


 蓋を差し出した。


 レイスが蓋の縁を握った。


 二回目の握手。今度は——敵じゃなくて、味方と。


「よろしく頼む、タカラ」


〝よろしく レイス〟


 人間の騎士と、金色の宝箱が握手してる。


 誰にも見せられない絵面だ。


 ……茂みの奥でガルドとガウルが覗いてるの、バレてるぞ。


 ガウルの尻尾がはみ出してる。


 隠れてるつもりなら、ちゃんと尻尾もしまえ。



 ◇



 拠点に帰って、みんなに報告した。


 レイスが味方になった——とまでは言えないけど、少なくとも敵じゃなくなった。


 そしてもう一つ、話さないといけないことがあった。



 蓋文字を出す。



〝一つ、言ってないことがあった〟

〝俺は元人間だ 冒険者だった〟



 しーん。


 ガルドが腕を組んだ。


「……知ってた」


 えっ。


「宝箱のくせに戦術がうますぎるし、冒険者の知識ありすぎるだろ。人間だったんだろうなとは思っていたんだ」


 気づいてたのか、おまえ。


 サガは杖をついて頷いていた。


「言い伝えにあるのじゃ。稀に魂が別の体に宿ることがある、とな。ワシも驚いておらんぞ」


 ふぅーん、杖を落としてたくせに。


 ガウルが尻尾を振った。


「ガウ。匂いで何となくわかってた。人間の魂の匂いがするんだよな、タカラからは」


 犬の鼻、どこまで嗅ぎ分けるんだ。


 チョンだけが目を丸くしてた。


「タカラ元人間なの!? すげー! かっこいい!」


 こいつだけ素直に驚いてくれた。


 ……まあ、こんなもんか。


 みんなあっさりしてるな。


 ガルドが笑った。


「人間だろうが宝箱だろうが、タカラはタカラだ。変わんねえよ」


 ……ありがとう。


 パカッ。


 さて。もっと大事な話がある。




 魔王の魂のことも言ってみたけど、これはすごく大きな話だったらしい。


 群れが……一瞬がざわざわしだした。



「魔王って……あの、伝説の?」


「やべえやつじゃねえか」


「ガウ。やべえ」


 サガだけは落ち着いてた。


「魔王が封じられておったか……。言い伝えでは、魔王は〝倒された〟となっておったが、〝封じられた〟のか。なるほどのう」


 今度は、リーリアが手を挙げた。


「私、塔の中で魔王の気配を感じたことがある」


 えっ。


「魔物の苦しんでる声に混じって……もっと深い、もっと古い声が聞こえたことがあったの。何を言ってるのかはわからなかったけど」


 魔王の声が、リーリアに聞こえてた。


「あのとき怖くて、聞かないようにしてた。でも……今思えば、あの声も苦しんでた気がする」


 苦しんでた。


 何百年も封じられてるんだ。苦しくないわけがない。


 魔王だって——蓋をされてた側なんだ。


 俺は蓋を開ける宝箱だ。


 でも——何でもかんでも開けていいのか?


 開けたらやばいものも、あるんじゃないか。


 …………。


 答えはまだ出ない。


 でも、考え続ける。


 半年から一年の間に、答えを見つける。


 パカッ。


 蓋を開けて、空を見上げた。


 夕焼けだ。


 きれいだな。


 こういう景色を、みんなで見れるようになった。


 それだけで、やってきたことに意味がある……気がするんだよな、うん。


 パタン。


 さて、明日からまた忙しくなるぞ。



 ◇



 【次回】レイスが村に来た。パカラ村に。ガルドが微妙な顔をしてる。ガウルは尻尾を振ってる。チョンは「騎士だ! かっこいい!」って騒いでる。——魔物と人間が、一つの村にいる。なんか、不思議な光景だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ