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第22話「村の名前」


 拠点が完成した。


 三日かかった。


 丘の上に、木造の建物がいくつか並んでる。ホブゴブリンたちが木を切って組み立てた。素人仕事だけど、雨風はしのげるくらいにはなってる。


 見張り台が丘のてっぺんに一つ。鏡鱗竜が交代で張りついてる。鱗がきらきらして目立つけど、それが逆に「ここに何かいるぞ」って威嚇になる。


 川から水路を引いた。アイが体で水を運んでくれたおかげで、掘る場所の目安がついた。


 地下には鋼蟲たちが巣を広げてる。地下倉庫みたいなもんだ。食料の保存に使える。


 ウォーウルフたちが周囲の森を走り回って狩りをしてくる。鹿とか猪とか。進化して速くなったから、獲物に困らない。


 リーリアとサガが薬草の知識を出し合って、近くの森から食べられる草や木の実を集めてきた。巫女と長老が薬草摘み。なんか絵面がいいな。


 俺は——蓋文字で指示を出してた。


 擬態すれば手伝えるけど、魔力を温存しておきたいし。


 何より——宝箱のまま村を作るほうが、俺らしい。


 手を動かすのは、ガルドたちの仕事だ。


 俺の仕事は、蓋文字で全体を見て指示を出すこと。



〝建物の間隔をもう少し広く 火事のとき延焼する〟

〝水路は上流から引け 下流だと汚れる〟

〝食料庫は日が当たらない場所に〟



 冒険者時代のキャンプ設営の知識が全部活きてる。手は動かせないけど、頭は動くからな!


 ガルドが笑ってた。


「おまえ、完全に指示する監督役だな」


〝擬態すれば手も使えるけど、みんなが作ったほうが〝自分たちの村〟って感じがするだろ〟


「ああ……それもそうか」


 二人でガハハと笑った。……あっ、俺の場合はパカッとか。



 ◇



 拠点が一通り形になった夕方、ガルドがみんなを集めた。


「なあ、ここに名前をつけないか」


 名前?


「拠点っていうのも味気ないだろ。ちゃんとした名前があったほうが、〝ここが俺たちの場所だ〟って感じがする」


 確かにな、そういうのはけっこう大事かもしれない。


「俺たちは今まで〝群れ〟だった。でもタカラが言ったよな。〝もう群れじゃない、軍団だ〟って」


 言ったな。


「軍団は強いけど、ここは戦う場所じゃない。暮らす場所だ。だから——〝村〟がいいと思う」


 村。


 魔物の村。


「名前、どうする?」


 全員がこっちを見た。


 俺に決めろってことか。


 ……命名担当、完全に俺に固定されてるな。


 まあいいけど。


 考えてみるか。


 この丘の上の村。いろんな種族が一緒に暮らす場所。ゴブリンとコボルトと岩トカゲと虫と、スライムと人間と宝箱。


 全員の蓋を開けた場所。


 全員が——本来の姿を取り戻した場所。


 蓋文字を出す。



〝パカラ村〟



 しーん。


「…………パカラ?」


 ガルドが微妙な顔してる。


 パカッ+タカラで、パカラ。


 蓋を開ける場所だから、パカラ。


「……安直だな」


 うるせえ。ガルドも、ガウルも、チョンも安直だっただろ。


「いや、嫌いじゃないけど」


 チョンが手を挙げた。


「パカラ村! いい名前! 俺好き!」


 子供に好評ならいいだろ。


 ガウルが尻尾を振った。


「ガウ。パカラ、言いやすくていい」


 犬にも好評だ。


 サガが杖をついて、うんうんと頷いた。


「パカラ。蓋を開ける場所……ふむ。よい名じゃ。深い意味がある」


 深い意味を見出してくれてありがとう、じいさん。実際は感で決めたんだけど。


 リーリアがくすっと笑った。


「パカラ村。かわいい名前ね」


 かわいい、か。なら……まあ、いいか。


「じゃあ決まりだな。今日からここは——〝パカラ村〟だ!」


 ガルドが宣言した。


 全員が歓声を上げた。


 ホブゴブリンが吠える。ウォーウルフが遠吠えする。鏡鱗竜の鱗がきらきら光る。鋼蟲がカチカチ鳴る。


 アイがぷるるん。


 ああ——いい名前だろ?


 パカラ村。


 蓋を開ける場所。


 封印を解く場所。


 みんなが、本来の自分に戻れる場所。


 パカッ。



 ◇



 パカラ村ができて三日目の朝。


 この三日間は、平和だった。


 今日も、平和に過ごせるはずだったんだけど——


 ガウルの耳がぴくっと立った。


「ガウ……! 南。人間。七人。走ってる。武装してる——戦う気配だ」


 ガルドが直ぐに動いた。


「迎撃だ。ウォーウルフ隊、左右に散開。ホブゴブリンは正面に壁を作れ」


 指示が速い。


〝殺すな 追い返せ〟


 蓋文字をガルドに見せた。


「わかってる」


 二分で陣形ができた。


 丘の下から——七人の冒険者が現れた。


 全身武装。剣、槍、弓、杖。Bランク級の装備が三人、残りはCランク。


 パーティを二つ合わせたくらいの討伐チームだ。


 先頭の剣士が叫んだ。


「いたぞ……進化魔物の群れだ!」

「本当に、こんなところにいたんだな」

「なんだ? 拠点を作ってる……のか?」

「何でもいい、魔物は殺せ!」

「でも、あれちょっと強くないか?」

「相手は強いが、倒せば貴重な素材が手に入るぞ」

「ああ、一攫千金だ!」

「おい、報酬は山分けだぞ!」



 なるほど、素材目当てか。


 ホブゴブリンの角や、ウォーウルフの毛皮は高く売れる。進化した魔物の素材ならなおさらだ。


 金に目がくらんだ連中。冒険者にはよくいるタイプだ。俺も昔、似たような奴らを何人も見てきた。


 弓使いが矢を放った。


 ひゅんっ——


 ガルドの横を掠めた。


 ガルドは——動かなかった。


「…………」


 もう一射。


 今度はガルドの顔面に向かって——


 ガルドが、素手で掴んだ。

 矢を。飛んでくる矢を、片手で。

 ぱしっ。


「…………え?」


 弓使いが固まった。


 ガルドが矢をへし折って、捨てた。


「帰れ」


 低い声、ホブゴブリンの威圧。


 冒険者たちの足が——止まった。


 でも先頭の剣士が吠えた。


「ひるむな! たかがゴブリンの進化系だろ! 数で押せ!」


 七人が突っ込んできた。


 ——まあ、そうなるか。


 俺の出番だな。


 パカンッッ!!


 白い光弾が、冒険者たちの足元に着弾した。


 ドォンッ!


 地面が爆発した。


 七人が吹っ飛んだ——のではなく、爆風で足を取られて転んだ。威力を加減して、足元を狙った。当てる気があったら、もう終わってる。


 転がった冒険者たちの周囲を、ウォーウルフが囲んだ。


 銀色の毛並み。金色の目。十匹以上のウォーウルフに包囲されて、逃げ場がない。


 上から鏡鱗竜が見下ろしてる。鱗がきらきら光ってて——あれ、太陽光を反射して目くらましにもなるのか。冒険者たちが「眩しっ」って顔を覆ってる。


 ガルドが一歩前に出た。


「帰れ。()()()()()()


 剣士が——剣を落とした。


「な、なんだよ……こんなの、聞いてねえよ……」


 聞いてないだろうな。ダンジョンから出てきた魔物の群れ、くらいの情報しかなかったんだろう。


 まさかAランク相当の軍団だとは思ってなかったはずだ。


 七人が、武器を捨てて逃げていった。


 全速力で。一回も振り返らずに。


 …………。


 ガルドが肩の力を抜いた。


「ま、こんなもんだろ」


 パカッ(誰も怪我してないな?)。


「ああ。こっちは無傷だ」


 よし。


 でも——これで終わりじゃないだろうな。


 あいつらが街に帰って「やべえ魔物の群れがいる」って騒いだら、もっと大勢来るかもしれない。


 ギルドが正式に討伐依頼を出すかもしれない。


 そうなる前に——手を打たないと。


〝街のギルドに話をつけに行く〟


 ガルドが頷いた。


「交渉か。おまえの得意分野だな」


 得意っていうか……蓋文字しか使えないんだけどな。


 まあ、やるしかない。


 攻めてきた奴をぶっ飛ばすだけなら簡単だ。


 でもそれじゃ、何も変わらない。


 だから、俺は話す。


 宝箱だから、中身で勝負する。


 パカッ。



 【次回】村に客が来た。しかも人間だ。ベイルの街の冒険者ギルドから、使者が来たらしい。〝あの魔物の集落と、話がしたい〟——ほう。話、ね。穏やかに済むといいんだけど。

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