第17話「あと一つ」
朝。
パカッ。
蓋を開けると、中からリーリアがひょこっと顔を出した。
「おはよう、タカラ」
おはよう。いつの間にか宝箱から〝おはよう〟される生活になってしまった。いや、する側か。
リーリアが中から出てくる。
すぽん。
蓋裏が光った。
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〝収納〟──▶ 生体格納 完了
対象:人間(巫女)
状態:衰弱(軽度) → 良好
体力 ── 全快 ✓
魔力 ── 大幅回復 ✓
精神疲労 ── 全快 ✓
追加効果:
魔力総量 ── 上昇
魔力制御 ── 上昇
総合評価:高度な強化
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〝高度な強化〟。
ゴブリンが〝中程度〟で、コボルトも〝中程度〟だった。
リーリアだけ〝高度〟。
やっぱり親和性が高いと、効果も大きいのか。
しかも〝魔力総量・上昇〟〝魔力制御・上昇〟って——こいつ、元から魔力が高いのに、さらに上がったのか。
リーリアが自分の手を見つめてる。
「……なんか、体が軽い、すごく。あと、魔力が……前より多い気がする」
気がするじゃなくて、実際に増えてるぞ。
「寝ただけなのに……宝箱の中で、寝ただけなのに」
うん。そういうスキルなんだ。俺にもよくわかってないけど。
リーリアがくるっとこっちを向いた。
「ねえ、毎晩入っていい?」
毎晩。
〝まあ 別にいいけど〟
「やった!」
なんか、嬉しそうだな。
宝箱の中で毎晩寝たがる女の子。
世界で俺だけだろうな、こんな状況になってるの。
◇
リーリアが出た直後だった。
蓋裏に——変化が起きた。
〝???〟の項目。ずっと〝解放条件未達〟だったやつ。
その文字が——ぐにゃっと揺れた。
書き換わっていく。
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〝 ??? 〟
解放条件未達
↓
解放条件:残り一つ
達成済み:
☑ 封印術式との接触
☑ 封印動力源との同調
未達成:
☐ 封印術式の中枢に到達せよ
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…………おい。
動いた。
〝???〟が動いた。
〝解放条件未達〟が〝残り一つ〟になってる。
しかも達成済みの条件が二つ表示されてる。
一つ目、〝封印術式との接触〟。これは下層で光る紋様に触れたときだ。
二つ目、〝封印動力源との同調〟。
封印の動力源——リーリアだ。
塔に魔力を送ってた巫女。封印の動力源。
そのリーリアを収納に入れて、一晩同調した。
それが——条件の一つだったのか。
そして残り一つ。
〝封印術式の中枢に到達せよ〟。
中枢。
塔そのものだ。
塔に——行かないといけない。
やっぱり、そうなるのか。
パカッ。
蓋裏をガルドに見せた。
ガルドが読んで——目が鋭くなった。
「中枢に到達しろ、って書いてあるのか」
パカッ(そうだ)。
「つまり、塔に行けば——このよくわからんスキルが使えるようになる?」
パカッ(たぶん)。
ガルドが腕を組んだ。
「行くしかないだろ」
即答だな。
「問題は塔守のレイスだけど——正面から行かなきゃいいんだろ?」
〝正面以外のルートがあるかどうか〟
ガルドが俺じゃなくて、リーリアを見た。
「おい、リーリア。塔に正面以外から入る方法、あるか?」
◇
リーリアが考え込んだ。
「正面の扉は一つだけ……でも」
でも?
「塔の地下に、古い通路があった。使われてないやつ。私が魔力を送ってるとき、足元からかすかに風が吹いてきてたの」
地下通路。
「たぶん、昔は別の入り口があったんだと思う。今は塞がれてるかもしれないけど」
塞がれてても——壊せばいい。ガルドの拳で。
「それと——地下通路の入り口、たぶんダンジョンと繋がってると思う」
ダンジョンと?
「塔の魔力がダンジョンにまで浸透してるって、サガが言ってたでしょ? あの光る紋様。あれがあるってことは、塔とダンジョンの間に魔力の通り道がある。つまり物理的にも繋がってる可能性が高い」
……なるほど。
ダンジョンの下層にあった光る紋様。あれは塔の力の〝根〟だとサガは言ってた。
根があるなら——根をたどれば、幹にたどり着く。
ダンジョンの下層から地下を通って、塔の真下に出る。
正面突破しなくていい。レイスを避けて、地下から塔の中枢に直接アクセスできるかもしれない。
〝いけるかもしれない〟
ガルドがニヤッと笑った。
「いけるだろ」
おまえの根拠のない自信、嫌いじゃないよ。
◇
作戦をまとめる。
蓋文字で全員に見えるように表示した。
〝作戦:地下ルートで塔に到達する〟
〝手順〟
〝一、下層の光る紋様の場所に戻る〟
〝二、紋様の先に地下通路がないか探す〟
〝三、通路を通って塔の真下に出る〟
〝四、中枢に到達。???を解放する〟
〝メンバー〟
〝タカラ(俺)〟
〝ガルド(前衛)〟
〝ガウル(索敵)〟
〝リーリア(案内)〟
〝アイ(中にいる)〟
〝岩トカゲ偵察班 ×5〟
〝残りは拠点待機 サガが指揮〟
ガルドが頷いた。
「いいな、少数精鋭で潜る。大人数だと足が遅くなるからな」
ガウルが尻尾を振った。
「ガウ。鼻は任せろ」
岩トカゲたちが天井でチロチロしてる。了解の意思表示らしい。
リーリアが——ちょっと緊張した顔で、でもしっかり頷いた。
「私も行く。塔の中のことは、私が一番知ってるから」
サガが杖をついて前に出てきた。
「ワシは動けんが、ここは任せておけ。おぬしたちが帰ってくるまで、群れは守る」
頼もしいじいさんだ。
チョンが手を挙げた。
「俺も行きたい!」
ダメだ。
パカパカッ(ダメ)。
「えー!」
えーじゃない。留守番してろ。
◇
出発は明日の朝にした。
今日は準備だ。
魔石の確認。ポーションの確認。弾になるものの確認。
蓋裏の魔力残量は——
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魔力残量:88%
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リーリアが中にいた影響か、魔力がかなり回復してる。
親和性が高いと、回復にもいい影響があるのかもしれない。
八十八パーセント。万全とは言えないけど、十分だ。
収納の中身も充実してる。
武器。魔導石。魔石。ポーション。鉱石。オークの大斧。
これだけあれば、たいていの相手には対応できる。
問題はレイスだけだ。
地下ルートで塔に入れれば、レイスとは戦わずに済む——はず。
はず、ってのが怖いけど。
まあ、なるようになるだろ。
ガルドが隣に来て、壁にもたれた。
「なあ、タカラ」
蓋文字を出す。
〝なんだ〟
「塔でそのスキルを手に入れたら——何が変わるんだ?」
いい質問だな。
〝わからない〟
正直に答えた。
「わからないのに行くのか」
〝わからないから行くんだ〟
ガルドがちょっと笑った。
「冒険者だな、おまえ」
元、な。今は宝箱だ。
「宝箱の冒険者か。かっこいいじゃん」
かっこいいか? 金色の宝箱がズズズしてパカパカするのが?
「ああ、かっこいいよ」
……そうか。
パカッ。
明日、行こう。
塔へ。
◇
夜。
リーリアが蓋を開けて中に入った。
「おやすみ、タカラ」
おやすみ。
アイがぷるん(おやすみ)。
パタン。
蓋裏で〝???〟が光ってる。
〝解放条件:残り一つ〟。
明日——あと一つ。
パカッ。
小さく開けて、また閉じた。
深呼吸みたいなもんだ。宝箱なりの。
パタン。
おやすみ。
◇
【次回】下層の光る紋様の部屋に戻った。壁の奥を調べたら——あった。地下に続く通路が。暗くて、深くて、空気が冷たい。この先に塔がある。たぶん。ズズズ。行くぞ。




