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第16話「この子も仲間?」


 拠点に戻った。


 リーリアを連れて。


 当然、ざわついた。


「に、人間だ……」

「なんで、人間がいるんだ……」

「捕まえたのか?」

「食うのか?」


 食わねえよ。


 ガルドが群れの前に立って説明してくれた。


 こいつはタカラが助けた人間だ。塔から逃げてきたらしい、敵じゃない」


 群れのゴブリンたちは半信半疑だ。そりゃそうだ。人間は冒険者。冒険者はゴブリンを狩る。それが、こいつらの常識だ。


 リーリアも緊張してる。百匹以上の魔物に囲まれてるんだから、当然だ。


 背中がちょっと震えてる。


 でも逃げない。逃げ場がないのもあるけど——たぶん、さっき収納に入って助けられたのが効いてる。


 気まずい沈黙。


 そこに——チョンが走ってきた。


 子供ゴブリンのチョン。好奇心の塊。


 リーリアの前まで来て、見上げて、首をかしげた。


「ねー。この子も、仲間?」


 しーん。


 全員がチョンを見てる。リーリアもチョンを見てる。


 チョンは空気が読めない。読めないからこそ、ど真ん中の質問をぶつけてくる。


 仲間か。


 ……どうなんだろうな。


 でも——俺がここで答えを出さないと、誰も動けない。


 蓋文字を出す。全員に見えるように、蓋を大きく開けた。


〝仲間だ〟


 二文字。


 チョンがぱあっと笑った。


 「やったー! 仲間だって!」


 子供ゴブリンたちが駆け寄ってきた。


「ねえねえ、名前は?」

「髪ながい!」

「やわらかい! さわっていい?」


 さわるな——と思ったけど、リーリアが先に反応した。


「……リーリア。名前は、リーリア」


 声が小さいけど、震えは止まってた。


 子供ゴブリンに囲まれて、おそるおそるチョンの頭をなでた。


「……小さいのね」


「えへへ」


 チョンが嬉しそうにしてる。


 それを見て、周りの大人ゴブリンたちの空気がちょっと緩んだ。


 子供ってのはすごいよな。壁を壊すのに武器はいらない、笑顔だけでいいんだから。


 ガルドが腕を組んだまま、ぼそっと言った。


「……まあ、タカラが仲間だって言うなら、仲間だ」


 ガウルが尻尾を振った。


「ガウ。人間の匂い、悪くない。いい匂いだ」


 犬に匂いを評価されるのもどうかと思うけど、まあ好意的ならいいか。



 ◇



 リーリアを拠点の隅に案内した。枯れ草を敷いて、簡易的な寝床を作ってやる。


 ガルドがやってくれた。俺には手がないから。


 リーリアが枯れ草の上に座って、周りを見回してる。


 ゴブリンたちの生活空間。焚き火の跡。乾燥させた食料。石の道具。


「……こういう場所、初めて見た」


 塔の中で育ったんだもんな。


 蓋文字を出す。


〝塔の中は、どんな場所だった?〟


 リーリアがちょっと考えてから答えた。


「白い壁と、白い床。窓はなかった。ごはんは運ばれてきた。誰とも話さなかった。たまにレイスが様子を見に来るくらい」


 ……牢獄じゃないか。


「毎日、塔の中心にある台座に座って、魔力を流してた。朝から晩まで。それが私の仕事だった」


 朝から晩まで。


〝いつからやってた?〟


「覚えてる限り……ずっと、五歳くらいから」


 十年以上。


 十年以上、白い部屋で、一人で、魔力を流し続けてたのか。


 ……俺の冒険者時代の愚痴なんか、ちっぽけなもんだな。


〝もう戻らなくていい〟


 蓋文字をリーリアに見せた。


 リーリアの目がうるんだ。


「……ありがとう」


 泣くかと思ったけど、泣かなかった。


 こらえてる顔だった。


 強い子だな。



 ◇



 さて……感傷に浸ってる暇はない。


 リーリアがここにいるってことは、塔守のレイスがまた探しに来る。


 早めに情報を集めておきたい。


〝塔のことを教えてくれ〟

〝場所 構造 守りの人数 なんでもいい〟


 リーリアが頷いた。


「わかった。知ってることは……全部話す」


 以下、リーリアから聞いた情報。


 塔の場所——ベイルの街の北、丘の上。酒場のおっさんの情報と一致。


 塔の高さ——五階建てくらい。白い石でできてる。


 入口——一つだけ。正面の大きな扉。


 守りの人数——レイス一人。他に兵士が十人くらい、交代で見張ってる。


 塔の中心——最上階に台座がある。巫女がそこに座って魔力を流す。


 塔の動力——巫女の魔力。巫女がいないと塔は徐々に弱まる。完全に止まるまでには数週間かかる。


 数週間……かぁ。


〝今、巫女がいないから塔は弱まってるのか〟


「たぶん……でもすぐには止まらないよ。塔自体にも、蓄えがあるから」


 数週間の猶予。


 その間にレイスはリーリアを見つけて連れ戻そうとする。


 逆に言えば——その間にこっちが塔に行ければ、弱まった塔に接触できる。


 蓋裏の〝???〟。


 あれの解放条件が〝封印術式との接触〟だった。


 弱まった塔に接触したら——何が起きる?


 わからない。


 でも、やってみる価値はある。


〝塔に行きたい〟


 リーリアが目を丸くした。


「行くの? 塔に? レイスがいるのに?」


〝まだ行かない 準備がいる〟

〝でもいつかは行く〟


 リーリアがしばらく黙ってた。


 それから——


「……私も行く」


 え。


「私がいれば、塔の中の仕組みはわかる。扉の開け方も、台座の場所も、全部……」


 まあ、それはそうだ。中を知ってるガイドがいるのは心強い。


 でも——


〝危ない〟


「わかってる。でも——」


 リーリアが拳を握った。


「あの塔のせいで、魔物が苦しんでる。私はその声を聞いた。十年間、毎日聞こえてるのに、何もできなかった」


 目が真っ直ぐだ。


「もう、何もしないのは嫌」


 ……強い子だな、やっぱり。


 パカッ。


〝わかった 一緒に行こう〟


 リーリアがほっとした顔をした。



 ◇



 夜。


 寝る前に、リーリアが俺のところに来た。


「ねえ、タカラ」


 パカッ(なんだ)。


「……もう一回、中に入っていい?」


 来た。


 やっぱり来た。


 〝なんで?〟


「あの中にいるとき……すごく安心したの。あったかくて、静かで。塔の中とは、全然違った」


 塔の中は白くて冷たくて一人だった。


 俺の中はあったかくて——アイがいるけど——静かで。


 似てるようで全然違うのか。


〝別にいいけど 狭いぞ〟


「大丈夫。小さくなるから」


 小さくなるってなんだ。人間は小さくならないだろ。


 でもまあ——入りたいなら入ればいい。


 パカッ。蓋を開ける。


 リーリアが中を覗き込んだ。


 アイがぷるん(いらっしゃい)。


「……スライムさん、こんにちは」


 さん付け。丁寧な子だ。


 リーリアが——するっと中に入った。


 すぽん。


 蓋裏が光った。



 ──────────────────

  〝収納〟──▶ 生体格納


   対象:人間(巫女)

   状態:衰弱(軽度)


   体力 ── 回復中 ▶▶

   魔力 ── 回復中 ▶▶▶▶▶

   精神疲労 ── 回復中 ▶▶▶


   自動修復プロセス:稼働中

   推定完了:60分


  * 特記:対象は高い魔力適性を保有

  * 格納中、収納空間との親和性が

   極めて高い値を示しています

 ──────────────────



 特記が二つもある。


〝高い魔力適性〟。そりゃそうだ、塔に魔力を送り続けてたんだから。


 でも、二つ目。


〝収納空間との親和性が極めて高い〟。


 親和性……。


 他の魔物を入れたときには出なかった表示だ。


 リーリアだけ——俺の収納と、特別に相性がいい?


 なんでだ。


 人間だからか? 巫女だからか? それとも——塔に関わってたからか?


 わからない。


 でも——リーリアが中にいると、箱全体がじんわりあったかい。


 アイのときとも、ゴブリンのときとも違う。


 もっと深い、芯からあったかい感じ。


 ……悪くないな。


 中から、リーリアの小さな寝息が聞こえてきた。


 もう寝たのか。早いな。


 まあ、疲れてたんだろう。逃げて、落ちて、魔物に囲まれて。


 ゆっくり寝てくれ。


 パタン。


 蓋を閉じる。


 中にはアイとリーリアがいる。


 外にはガルドたちがいる。


 一人じゃない。一箱だけど、一人じゃない。


 ……ずいぶん遠くまで来たな。


 あのダンジョンの通路で、ズズズの音しか聞こえなかった日から。


 おやすみ。



 ◇



 【次回】リーリアが収納から出てきたとき、ちょっとおかしなことが起きた。蓋裏の〝???〟が——動いた。文字が変わり始めてる。〝解放条件未達〟だった表示が——〝解放条件:あと一つ〟に。何が起きてるんだ。

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