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第15話「上から女の子が降ってきた」


 下層への遠征。三回目。


 今回はガルドとガウルの精鋭組に加えて、岩トカゲの偵察班もつれてきた。


 岩トカゲは天井に張りついて先行してくれるから、敵の位置が事前にわかる。便利すぎるな。


 ガウルの鼻と、岩トカゲの目。偵察は完璧だ。


 縦穴を降りて、下層の通路を進む。


 目的は魔石の回収。群れの全員をもう一周強化するには、まだまだ足りない。


 壁の魔導鉱石をパキパキ剥がしながら進んでいく。


 〝収納〟:魔導鉱石(原石)── 格納完了

 〝収納〟:魔導鉱石(原石)── 格納完了



 順調だ。


 ガウルが鼻をひくひくさせた。


「ガウ。奥にオーク二匹……こっちには来ない」


 ありがたい。避けて進もう。


 岩トカゲが天井からチロチロ舌を出してる。


「ミギ、ナニモナイ。ヒダリ、トオリヌケル」


 岩トカゲの言葉は片言だけど、方向と安全情報だけ伝えてくれるから十分だ。


 ズズズ。


 いい感じだな。この遠征チーム、かなり安定してきた——



 どすん。



 突然、上から何かが落ちてきた。


 天井から。


 目の前に。


 砂ぼこりが舞う。


 全員、反射的に身構えた。ガルドが前に出る。ガウルがうなる。


「グルル……」


 砂ぼこりが晴れて——


 倒れてたのは。


 人間だ。


 ……え?


 人間? 下層に?


 しかも——女の子だ。


 白い服。長い髪。年は十五、六くらいか。


 冒険者の装備じゃない。鎧もない。武器もない。


 ぼろぼろだ。服は汚れて破れてるし……顔にも、擦り傷がある。


 でも——息はしてる。気を失ってるだけだ。


「ガウ。人間だ」


 ガウルが警戒してる。当然だ。こいつらにとって人間は敵だ。


 ガルドも警戒してる。でも手は出さない。俺の判断を待ってる。


 ……どうする。


 人間の女の子が、下層の天井から落ちてきた。


 天井に穴が開いてる。中層から落ちたのか。


 冒険者じゃない。装備がない。


 じゃあ何で、こんなところに——


「タカラ。どうする」


 ガルドが聞いてきた。


 蓋文字を出す。


〝放っておけない〟


 ガルドが苦い顔をした。


「……人間だぞ」


 知ってる。


〝わかってる でも放っておけない〟


「……おまえ、そういうとこだよな」


 なんだそれ。


 ガルドがため息をついて、後ろに下がった。「好きにしろ」って顔だ。


 まあ、ありがとう。



 ◇



 女の子に近づく。


 ズズズ。


 倒れてる人間の顔を、宝箱が覗き込んでる。


 ……冷静に考えるとすごい絵面だな。


 怪我を確認。擦り傷がいくつかある。骨は——折れてなさそうだ。衰弱してるけど、命に別状はない。


 ポーションを使うか。


 収納からポーションの瓶を出す。蓋の隙間からぽとっと。


 ……こぼれた。


 手がないから瓶を傾けられない。当たり前だ。


 ガルドに蓋文字で頼む。


〝この瓶の中身を飲ませてくれ〟


 ガルドがまた苦い顔をしたけど、やってくれた。


 女の子の口にポーションを少しずつ流し込む。


 すると——女の子の顔に色が戻ってきた。擦り傷もじわじわ塞がっていく。


 上級ポーションだからな。効きがいい。


「ん……」


 目を覚ました。


 女の子がゆっくり目を開ける。


 最初に見えたのは——たぶん、ガルドの顔だ。


 ゴブリンの顔が目の前にある。


「…………」


「…………」


「…………きゃあああああああ!!!」


 まあ、そうなるよな。


 女の子が跳ね起きて、後ずさった。壁に背中をぶつけて止まる。


「ま、魔物!? 魔物が……なんで、こんなに、いっぱい!!」


 そりゃいっぱいいるよ。ゴブリンとコボルトと岩トカゲがぞろぞろいるんだから。


 ガウルがうなった。


「グルル。うるさい」


 怖がらせるな。


 パカパカッ(静かに)。


 女の子が俺を見た。


 金色の宝箱を見た。


「宝、箱……?」


 パカッ(やあ)。


「……宝箱が動いた……?」


 パカパカ(動くよ)。


「…………」


 女の子の目がぐるぐるしてる。処理が追いついてない顔だ。


 気持ちはわかる。俺も転生直後そんな感じだった。


 蓋文字を出す。


〝落ち着け 敵じゃない〟


 女の子が蓋裏の文字を読んで——固まった。


「文字……宝箱から文字が……」


 うん、びっくりするよな。


〝おまえ だれだ〟

〝なんで こんなとこにいる〟


 女の子がしばらく黙ってた。


 目がきょろきょろしてる。逃げるか、話すか、迷ってる。


 でも——逃げ場がないことに気づいたんだろう。ここは下層だ。一人で帰れる場所じゃない。


 女の子が、小さな声で言った。


「……逃げてきたの」


 逃げてきた。


塔から」


 ——塔?


「私は……塔の巫女だったの」



 ◇



 塔の巫女。


 サガが言ってた。封印の塔。魔物の成長を止めてる塔。


 その塔の——巫女。


「私の名前はリーリア。塔の中で……ずっと育てられたの」


 リーリア。


「塔を動かすには……魔力がいる。私は塔に魔力を……送る役目だった」


 魔力を送る。


 つまり——この子は塔の燃料か。


「ずっと塔の中にいた。外に出たことなかった。でも——最近、声が聞こえるようになったの」


 声?


「塔の中から。苦しんでる声。たくさんの……魔物の声」


 魔物の声。


 封印されてる魔物の声が、塔の中にいるこの子に聞こえてた。


「怖くて、苦しくて、もう嫌だった……だから——逃げたの」


 リーリアの目に涙が浮かんでる。


「でも追いかけてきて……塔守の騎士が。逃げて逃げて、ダンジョンに飛び込んで……穴に落ちて……」


 それで、下層まで落ちてきたのか。


「……もう、戻りたくない」



 ……さて。


 どうする、タカラ。


 塔の巫女が、目の前にいる。


 塔の内部を知ってる。塔守から逃げてる。


 そしてたぶん——追手が来る。



 ◇



 タイミングよく——ガウルの耳がぴくっと動いた。


「ガウ。上から来る。人間、一人……重い足音、鎧の音」


 来たか。


 塔守か、それとも別の追手か。


 どっちにしろまずい。


 人間の騎士が下層に来たら——ガルドたちが見つかる。


 魔物の群れを見たら、問答無用で斬りにくるだろう。


 隠れないと。全員。


 でもこの人数をどうやって——


 ……あ。


 収納。


 全員入れればいい。


 蓋文字を出す。


〝全員 俺の中に入れ 今すぐ〟


 ガルドが目を丸くした。


「全員? 入れるのか?」


 わからん。やったことない。でも大蟲を十匹同時に入れた実績はある。


 ゴブリンとコボルトは——いけるか?


 足音が近づいてくる。考えてる暇はない。


 パカッ。蓋を全開にする。


「……わかった。おまえら、タカラの中に入れ! 早く!」


 ガルドが叫んだ。


 ゴブリンたちが次々に飛び込んでくる。


 すぽん。すぽん。すぽん。


 コボルトも。


 すぽん。すぽん。


 岩トカゲは天井から飛び降りて——すぽん。


 大蟲はぞわぞわっと——ずるずるっと吸い込まれていく。


 入る。入る。全員入る。


 宝箱の見た目は変わってない。五十センチ四方の箱のまま。


 なのに百匹以上の魔物が、次々に吸い込まれていく。


 収納の容量、どうなってんだ。


 蓋裏がバチバチ光ってる。



 ──────────────────

 〝収納〟── 大量格納モード起動


   格納中:

   ゴブリン ×8

   コボルト ×5

   岩トカゲ ×4

   大蟲 ×37

   スライム ×1

  ※ 継続格納中……

 ──────────────────



 数字がどんどん増えていく。


 ガルドが最後に入ろうとして——リーリアを見た。


「こいつも……入れるのか?」


 蓋文字を出す。


〝入るか?〟


 リーリアに向けた。


 リーリアは——状況が全然わかってないと思う。


 でも、足音はもうすぐそこだ。


「……入る」


 リーリアが言った。


「もう、捕まりたくない」


 すぽん。


 リーリアが吸い込まれた。


 最後にガルド。


「頼んだぞ、タカラ」


 すぽん。


 全員、入った。


 パタン。蓋を閉じる。


 下層の通路に——金色の宝箱が一つ、ぽつんと置かれている。


 静か。


 蓋裏を確認。



 ──────────────────

 〝収納〟── 大量格納モード


   格納中:

   ゴブリン ×12

   コボルト ×7

   岩トカゲ ×9

   大蟲 ×約70

   スライム ×1

   人間 ×1


   魔力消費:高

   魔力残量:44% → 急速消耗中

 ──────────────────



 魔力がごりごり減っていく。


 百匹以上を同時に格納してるんだから、そりゃそうだ。


 長くは持たない。


 でも——今だけ持てばいい。


 足音が近づいてくる。


 重い……鎧の音。


 通路の角から——人影が現れた。


 鎧を着た騎士。白い外套。腰に長剣。


 若い。二十代前半くらい。整った顔で、金髪だ。


 でも……目が鋭い。あれは、戦い慣れてる目だ。


 こいつが——【塔守】か?


 騎士が、通路をゆっくり歩いてくる。


 周囲を見回してる。何かを探してる。


 リーリアを、だろう。


 そして——俺を見た。


 金色の宝箱を見た。


 「……宝箱か」


 声が低い。


 近づいてくる。


 まずい。開けるか? 鑑定するか?


 頼む——スルーしてくれ。


 俺は宝箱だ。ただの宝箱だ。


 中に百匹の魔物と人間の女の子が入ってるとか、そんなわけないだろ。


 ないだろ?


 ……ないよな?


 騎士が、俺の前で立ち止まった。


 じっと見てる。


 手が——剣の柄にかかった。


 やめろ。


 斬るな。


 俺はただの——


 「……ここにはいないか」


 騎士がつぶやいた。


 手が柄から離れた。


 踵を返して、通路の奥に歩いていく。


 足音が遠ざかっていく。


 …………。


 …………。


 ——行った。


 鑑定無効、ありがとう。


 マジでありがとう。


 今日ほど、この体に感謝した日はない。



 ──────────────────

  魔力残量:31%

 ──────────────────



 やばい。もうあんまり持たない。


 足音が完全に消えたのを確認して——


 パカッ!


 全員、出ろ!


 すぽんすぽんすぽんすぽんすぽん!


 ゴブリンが、コボルトが、岩トカゲが、大蟲が、ぞろぞろ飛び出してきた。


 最後にリーリアが——ぽんっと出てきた。


「はっ——」


 目をぱちくりしてる。


「今の……中……すごく、気持ちよかった……」


 おまえもか。


 ガルドが出てきて、体を伸ばした。


「狭かったけど、なんか元気になったな」


 全員ちょっと強化されてるだろうな。短時間だけど。


 ガウルが尻尾をぶんぶんしてる。


「ガウ! もう一回入りたい!」


 後にしろ。


 パカパカッ(後にしろ)。



 ◇



 リーリアが俺の前に座ってる。


 さっきまで怯えてた顔が、少し落ち着いてた。


「ありがとう。助けてくれて」


 パカッ(まあな)。


「あなた……宝箱なのに、すごいのね」


 宝箱なのに、は余計だ。


 蓋文字を出す。


〝さっきの騎士が塔守か?〟


「……うん。塔守のレイス。私の……監視役だった人」


 レイス。


〝強いのか〟


 「強い。塔の中で何度も見た。訓練してるところ。冒険者が十人束になっても勝てないって、みんな言ってた」


 Aランク以上か。やっぱりか。


〝あいつは、また来る?〟


 リーリアが頷いた。


「私がいなくなったら、塔が止まる。だから……絶対に、探しに来る」


 塔が止まる。


 巫女がいないと、塔に魔力を供給する者がいなくなる。


 つまり——リーリアがいなくなった時点で、封印が弱まってるかもしれない。


 ……それって。


 蓋裏を見る。


 〝???〟が——さっきよりほんの少しだけ、光が強くなってる気がした。


 気のせいか?


 気のせいじゃないかもしれない。


 パカッ。


 とにかく今は、安全な場所に移動しよう。


 拠点に帰る。


 リーリアをどうするかは——帰ってから考えればいい。


 ズズズ。


 金色の宝箱と、百五十匹の魔物と、一人の人間の女の子が、中層に向かって歩き始めた。



 ◇



 【次回】リーリアを拠点に連れてきたら、ゴブリンたちがざわついた。そりゃそうだ、人間だもんな。でも子供ゴブリンのチョンが一言で空気を変えた。〝この子も仲間?〟——仲間、か。どうなんだろうな。あと、リーリアが俺の中にまた入りたがってる。なんで?

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