第14話「中層、全部まとめた」
コボルトの次は岩トカゲだ。
中層の天井付近に棲んでる爬虫類系の魔物で、体が石みたいに硬い。壁も天井も自在に移動できる。
偵察要員としては最高だろう。
問題は——こいつら、めちゃくちゃ警戒心が強い。
ガルドと一緒に岩トカゲの縄張りに行ったんだけど、近づいただけで全員天井に逃げた。
天井にびっしり張りついて、こっちを見下ろしてる。
三十匹くらいいる。目がギョロギョロしてて、ちょっと怖い。
「おーい、話を——」
ガルドが声をかけた瞬間、全員さらに奥に逃げた。
……ダメだこりゃ。
コボルトのときみたいに、正面から行っても無理だ。
じゃあ——別のアプローチだな。
〝アイ 行ってこい〟
蓋からアイを出した。
ぽよん。
アイがぷるんと着地して、天井を見上げた。
岩トカゲたちがアイを見下ろしてる。
スライムだ。同じ中層の住人。しかもアイは強化済みで、藍色に輝いてて、なんか貫禄がある。
アイがぷるんぷるんと壁を登り始めた。スライムだから、壁も登れるんだな。
天井まで行って——岩トカゲたちの近くで、ぷるん、と止まった。
岩トカゲたちがじーっとアイを見てる。
アイがぷるん(こんにちは)。
岩トカゲの一匹が、おそるおそる舌をチロチロ出してアイを舐めた。
ぷるん(くすぐったい)。
もう一匹が寄ってきた。舐めた。
ぷるん(くすぐったいって)。
……なんか、打ち解けてるぞ。
十分くらいで、岩トカゲたちがぞろぞろ天井から降りてきた。アイの周りに集まってる。
アイ、外交官の才能あるな。
降りてきたところで、俺が蓋文字を見せた。
〝仲間にならないか〟
〝この中に入ると強くなるぞ〟
岩トカゲは——文字が読めなかった。
まあ、トカゲだしな。
しかたないので、実演だ。コボルトのときと同じ。
岩トカゲの中で一番大きいやつを、蓋を開けて誘ってみる。
アイがぷるんぷるんと蓋のほうに誘導してくれた。
大きい岩トカゲが、おそるおそる蓋に近づいて——ぺろっと俺の蓋を舐めた。
舐めるな。
でもまあ、警戒はしてないみたいだ。
えいっ、と中に入れた。
四十分後に出したら、体がひと回りでかくなって、鱗がキラキラ光ってた。
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〝収納〟──▶ 生体格納 完了
対象:岩トカゲ
状態:健康 → 強化済
外殻硬度 ── 大幅上昇 ✓
壁面走行速度 ── 上昇 ✓
基礎体力 ── 上昇 ✓
総合評価:中程度の強化
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外殻硬度に壁面走行速度。やっぱり、種族ごとに伸びる項目が違うんだ!
強化された岩トカゲが壁を走り回ったら、他の岩トカゲたちがざわざわし始めた。
「なんかすげえ速い」「硬そう」「キラキラしてる」
トカゲなりに感動してるらしい。
結果——岩トカゲ二十七匹、全員合流。
交渉時間、一時間。アイのおかげだ。
◇
大蟲は、もっと簡単だった。
中層の湿った区画に大量にいる虫系の魔物で、単体はめちゃくちゃ弱い。
でも、数が多い。
そして——こいつら、本能で強いやつについていく習性がある。
俺が大蟲の巣の近くを通ったら、勝手についてきた。
ズズズしてたら、後ろに虫の行列ができてた。
振り返ったら、五十匹くらいいた。
……いつの間に。
まあ、いいか。仲間になるならありがたい。
大蟲は体が小さいから、十匹まとめて収納に入れても余裕だった。
十匹同時に強化。効率がいい。
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〝収納〟──▶ 生体格納(一括)
対象:大蟲 ×10
状態:健康 → 強化済
外殻硬度 ── 微増 ✓
繁殖力 ── 上昇 ✓
連携行動 ── 上昇 ✓
総合評価:軽度の強化
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繁殖力と連携行動。
強くなるっていうより、数がもっと増えて、もっとまとまって動けるようになる。
虫は虫なりの強さがあるってことか。
大蟲の群れ——最終的に七十匹くらい集まった。ちょっと引くくらい多い。
まあ、いいか。多いぶんには困らない。
◇
こうして——中層の魔物連合が結成された。
メンバーを整理する。
ゴブリン三十四匹。
コボルト十八匹。
岩トカゲ二十七匹。
大蟲七十匹くらい(正確に数えるのをやめた)。
スライム一匹。
宝箱一箱(俺)。
合計——百五十以上。
中層にいる魔物の大半をまとめた形だ。
冒険者だった頃の俺が聞いたら「やべえ」って言うだろうな。魔物が百五十匹も群れたら、ギルドが緊急依頼を出すレベルだ。
でも、今はこっち側だからな。ただただ、頼もしいだけだ。
◇
全員の強化が終わったのは——三日後だった。
三日間、ひたすら出し入れ。
魔石は下層に取りに行った。ガルドとコボルトの精鋭で二回遠征して、たっぷり持ち帰った。
コボルトの嗅覚が遠征でめちゃくちゃ役立った。危険な魔物の気配を事前に察知して避けてくれる。
岩トカゲは壁に張りついて見張り。上からの視界は最強だ。
大蟲は——数で通路を塞いで、敵の退路を断つ。たいした戦闘力はないけど、足止めにはなる。
それぞれの種族が、それぞれの強みを活かしてる。
……いい感じじゃないか。
蓋裏を確認。
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〝収納〟── 一括強化レポート
強化対象:
ゴブリン ×34体
コボルト ×18体
岩トカゲ ×27体
大蟲 ×約70体
連合全体の戦力評価:
強化前 ── Eランク(下位)相当
強化後 ── Cランク(下位)相当
* 種族混成による連携ボーナスあり
* 反復格納により追加強化の可能性あり
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Cランク下位。
Eの下からCの下まで、三ランク跳んだ。
しかも〝種族混成による連携ボーナス〟って出てる。いろんな種族が一緒にいると、全体の評価が上がるのか。
Cランクの下。Bランク冒険者のパーティとなら互角——いや、数で押せば勝てるかもしれない。
でもAランクには——まだ足りない。
〝反復格納により追加強化の可能性あり〟。
時間をかけて何度も強化すれば、もっと上がる。
焦ることはない。じっくりやろう。
◇
強化工場が一段落したところで——名前だ。
コボルトのリーダーに、まだ名前をつけてない。
こいつは最初に俺の中に飛び込んでくれた度胸のある奴だ。ちゃんとした名前をつけてやりたい。
蓋文字を出す。
〝おまえの名前を決めた〟
コボルトのリーダーが尻尾をぶんぶん振り始めた。犬だなあ。
「ガウ! 名前! 俺にも名前くれるのか!」
うん。
次の文字を浮かべる。
〝ガウル〟
「ガウル! 俺の名前はガウル!」
即座に受け入れた。犬は素直でいいな、うんうん。
「ガウル! ガウル! いい名前だ! ガウル、ガウル、ガウル!」
嬉しすぎて自分の名前を連呼してる。
周りのコボルトたちも尻尾ぶんぶんだ。全員嬉しそう。
ガルドが横で笑ってる。
「安直だな」
うるせえ。おまえの名前も安直だろ。
〝おまえに言われたくない〟
「ははっ」
ガルドが笑った。ガウルが笑った。
周りのゴブリンもコボルトも笑ってる。
大蟲はわかんないけど、たぶん喜んでる。岩トカゲは壁の上からギョロギョロ見てる。あいつらは、いつもあんな感じだ。
こう考えてみると……百五十の魔物が、一つの拠点にいるのか。
一週間前は、ゴブリンが三十四匹で怯えてたのに。
今は……百五十以上が、いっしょに笑ってるなんてな。
パカッ。
悪くないな。
でも——まだ足りない。
Aランクの塔守に挑むには、まだまだだ。
もっと強く。もっと多く。
それか——もっと別の方法を見つけるか。
蓋裏の〝???〟が、ぼんやり光ってる。
こいつが目覚めたら、何かが変わる気がする。
でもそのためには——塔に近づかないといけない。
塔に近づくには——塔守をどうにかしないといけない。
堂々巡りだな。
……まあ、今日はいいか。
今日は、仲間が増えた日だ。
難しいことは明日考えよう。
宝箱は蓋を閉じたら即寝だからな。
パタン。
◇
【次回】全員で下層に遠征することにした。もっと魔石を集めて、もっと強くなるために。——ところが、下層で出会ったのは魔石じゃなくて、とんでもない奴だった。上から落ちてきた。人間の女の子が。




