第13話「ゴブリンだけじゃ足りない」
拠点に帰ったら、ガルドが入口で仁王立ちしてた。
「三時間ぴったりだな」
計ってたのかよ。
「当たり前だ。一秒でも遅れたら、迎えに行くつもりだった」
宝箱を迎えに行くゴブリン。やめてくれ。
「で、どうだった。何かわかったか」
蓋文字で——いや、今は宝箱に戻ってるから声が出ない。蓋文字だな。
〝塔は街の北 丘の上 白い塔〟
〝番人がいる Aランク相当〟
〝正面突破は無理〟
ガルドが読んで、眉をしかめた。
「Aランク。そりゃヤバいな」
パカッ(ヤバい)。
「今の俺たちじゃ勝てないか」
パカッ(勝てない)。
正直に言った。嘘ついてもしょうがない。
Dランク中位のゴブリン三十四匹。Aランクの騎士一人に全員で突っ込んでも——たぶん全滅だ。
ランクが二つ以上離れると、数じゃどうにもならない。冒険者の常識だ。
ガルドが腕を組んで考え込んだ。
五秒くらいで顔を上げた。こいつ、考えるの早いんだよな。
「——じゃあ、もっと仲間を増やそう」
仲間を?
「ゴブリンだけじゃ足りないなら、他の魔物も集めればいい」
他の魔物。
「この中層にはゴブリン以外にもいっぱいいるだろ。スライムとか、岩トカゲとか、大蟲とか。そいつらも、タカラの力で強くなれるんだろ?」
まあ、理屈の上ではそうだ。アイだって強化できた。ゴブリンだって強化できた。
他の魔物も——たぶんいける。
でも——
〝仲間にできるのか?〟
「やってみなきゃわかんねえだろ」
また出たよ。こいつの〝やってみりゃわかる〟理論。
でもまあ——他に案もないしな。
パカッ(やるか)。
「よし!」
◇
中層にいる魔物をリストアップしてみる。
冒険者だった頃の知識と、この五日間で見た情報を合わせると——
ゴブリン。これはもういる。
スライム。アイがいるけど、群れで棲んでるやつらもいるはずだ。
岩トカゲ。体が硬くて、壁や天井に張りつける。偵察向き。
大蟲。でかい虫。種類がいっぱいいる。単体は弱いけど、数が多い。
コボルト。犬っぽい魔物。ゴブリンよりちょっと強い。群れで行動する。
あとは——たまにオークが中層まで上がってくるけど、あいつらは気性が荒いから交渉が難しそうだ。
まずは話が通じそうなやつからだな。
〝コボルトから行こう〟
〝犬っぽいやつだ 群れで動く〟
〝ゴブリンと似た社会性がある〟
ガルドが頷いた。
「コボルトか。あいつら、たまに縄張りの境目で会うな。敵対はしてないけど、仲良くもない。お互い、無視してる感じだ」
無視か……じゃあ、敵じゃないだけマシだ。
「でも、ゴブリンが〝仲間になろう〟って言っても、相手にされないだろうな」
そうだろうな。
じゃあ——俺が行くか。
宝箱が。
パカパカしながら。
◇
ガルドと数匹を連れて、コボルトの縄張りに向かう。
中層の東寄り。ゴブリンの拠点からズズズで三十分くらい。
通路の雰囲気が変わってきた。壁に爪で引っかいたような跡がある。マーキングだ。
犬っぽい魔物だけあって、縄張りの主張が激しい。
もうちょっと進むと——気配がした。
前方の曲がり角の向こうに、何かいる。
ガルドが足を止めた。
「いるな」
パカッ(いるな)。
角の向こうから、のそっと顔が出てきた。
犬の頭に、人間に近い体。毛皮に覆われてて、手には石の斧。
コボルト。
三匹。偵察組だろう。
こっちを見て、固まってる。
そりゃそうだ。
ゴブリンの集団と、金色の宝箱が並んで歩いてきたら、そりゃ固まる。
コボルトの一匹が、低い声でうなった。
「グルルル……」
威嚇だ。
ガルドが一歩前に出た。
「待て、敵じゃない。話がしたい」
「グルル?」
通じてるのか?
「こっちはゴブリンだ。そっちはコボルトだろ。お互い中層の住人だ、ちょっと話を聞いてくれ」
コボルトたちが顔を見合わせてる。
犬の顔で〝どうする?〟って表情をするの、ちょっとかわいいな。
一匹が前に出てきた。他の二匹より体が大きい。リーダー格だろう。
「……ガウ。何の用だ、ゴブリン」
おっ、喋れるのか。片言だけど。
ガルドが堂々と答えた。
「仲間にならないか?」
直球すぎるだろ。
コボルトのリーダーが目を丸くした。
「ガウ? 仲間? ゴブリンと? なぜ?」
「強くなれるからだ」
ガルドが俺を指さした。
「この宝箱の中に入ると、強くなれる」
コボルトたちが俺を見た。
金色の宝箱を見た。
「…………」
「…………ガウ?」
信じてないな。
そりゃそうだ。〝宝箱の中に入ると強くなる〟とか言われて、信じるほうがおかしい。
蓋文字を出す。俺の蓋をコボルトたちに向ける。
〝嘘じゃない 試してみるか?〟
コボルトたちが蓋裏の文字を見て、もっと目を丸くした。
「ガウ!? 文字!? 宝箱が文字を!?」
驚くのそこかよ。
リーダー格のコボルトが、仲間と何かゴニョゴニョ相談してる。
犬語だからわからないけど、時々こっちをチラチラ見てる。
しばらくして——リーダーが前に出てきた。
「……試す。俺が入る。強くならなかったら、帰る」
おっ、乗ってきた。
度胸あるな、こいつ。
ガルドと同じタイプだ。リーダーが先に危険を引き受ける。
パカッ。蓋を大きく開ける。
コボルトのリーダーが恐る恐る近づいてきた。
中を覗き込む。
アイがぷるん(いらっしゃい)。
「……なんかいる」
スライムだ。気にするな。
コボルトが——えいっ、と中に飛び込んだ。
すぽん。
パタン。
蓋裏が光った。
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〝収納〟──▶ 生体格納
対象:コボルト
状態:健康
基礎体力 ── 強化中 ▶▶
筋力 ── 強化中 ▶▶
嗅覚 ── 強化中 ▶▶▶
敏捷性 ── 強化中 ▶
強化プロセス:稼働中
推定完了:40分
──────────────────
嗅覚。
ゴブリンにはなかった項目だ。コボルトは犬系だから、嗅覚が強化されるのか。
種族によって伸びる項目が違う。面白いな。
四十分……待つか。
◇
四十分後。
パカッ。
コボルトが飛び出してきた。
「ガウッ!?」
着地して、自分の体を見回してる。
体がひと回りでかくなってる。毛並みがよくなってる。目が鋭い。
そして——鼻をひくひくさせた。
「……匂いが。すごい。全部わかる。こっちにゴブリンが六匹。あっちに岩トカゲが二匹。上の階に人間が三人。全部匂いでわかる」
嗅覚がバケモノになってる。
索敵能力としては最強クラスじゃないか、これ。
リーダーが自分の手を見つめて——ぐっと握った。
石の斧を振ってみた。
ブンッ!
風切り音がぜんぜん違う。速い。重い。
「…………」
リーダーが俺のほうを向いた。
「ガウ。……本当だった」
パカッ(だろ?)。
リーダーが仲間のコボルト二匹を見た。
二匹とも、尻尾が振れてた。犬だから、感情が尻尾に出るんだな。
「群れに持ち帰る。話をしてくる」
リーダーがそう言って、角の向こうに走っていった。
速い。強化前とは比べものにならないスピードだ。
残りの二匹は——俺の前に残って、尻尾を振ってる。
「ガウ。俺たちも入りたい」
まだリーダーの返事を待て。
パカパカッ(待て)。
尻尾が下がった。
……しょぼんとするな。犬だからリアクションがわかりやすい。
◇
三十分くらいで、リーダーが戻ってきた。
後ろに——コボルトがぞろぞろついてきてる。
十匹。いや、もっといる。十五匹くらいか。
全員、尻尾が振れてる。
リーダーが俺の前に来て、ピシッと背筋を伸ばした。
「ガウ。コボルトの群れ、十八匹。全員仲間になる」
早いな。
「リーダーが強くなって帰ってきたら、みんな〝俺も俺も〟って」
犬だな。群れの長に従うのが本能なんだろう。
十八匹か。ゴブリン三十四匹と合わせて五十二匹。
全員強化するとなると——また強化工場だ。
魔石、足りるかな。
まあ、下層に取りに行けばいい。
ガルドがニヤッと笑った。
「ほら、やってみたらいけただろ」
おまえの〝やってみりゃわかる〟理論、今回は当たったな。
パカッ(まあな)。
コボルトの群れが、ゴブリンたちと合流する。
最初はお互いちょっとぎこちなかったけど、子供ゴブリンのチョンがコボルトの子供に近づいて「もふもふ!」って叫んだ瞬間、一気に打ち解けた。
子供は偉大だ。
「もふもふ!」
「ガウガウ!」
「しっぽさわっていい!?」
「ガウ! いいぞ!」
異種族交流が始まってる。
……平和だな。
こういうのが、もっと広がればいいのに。
ゴブリンとコボルトが一緒にいる光景。
冒険者だった頃は見たことがなかった。
でも——別におかしくないんだよな。
同じ中層に棲んでて、同じように冒険者に狩られてて、同じように弱い。
敵対する理由なんて、最初からなかったんだ。
パカッ。
さて。次は岩トカゲだな。
◇
【次回】岩トカゲと大蟲も仲間にした。中層の魔物連合、結成。で——全員強化するのに何日かかるんだこれ。あと、コボルトのリーダーに名前をつけた。〝ガウル〟。ガウガウ言ってるから。安直? うるせえ。




