第12話「番人がいるからな」
ベイルの街が見えてきた。
石造りの壁に囲まれた、中くらいの街だ。冒険者ギルドの支部がある。
冒険者だった頃は何度も来た。依頼を受けて、ダンジョンに潜って、帰ってきて飯を食って寝る。そういう街だ。
門の前に衛兵が二人立ってる。
大丈夫だよな? バレないよな?
普通に歩いて近づいてみる。
「冒険者か?」
衛兵に声をかけられた。
「ああ」
「プレートは?」
冒険者プレートは、収納の中にある。カイルの名前が刻まれたBランクのプレート。
出すか? 出していいのか?
カイルは死んでる。死亡届は——出てないだろうけど、行方不明扱いにはなってるかもしれない。
「……忘れた」
「はあ?」
しまった。冒険者がプレート忘れるとか、ありえないんだよな。
「いや、ダンジョンで落としちまってさ」
「しょうがねえな。通行料、銅貨五枚な」
金。金がいる。
……収納の中に、前世の装備と一緒にカイルの財布があったはずだ。
背中の蓋を——いや、人前では開けられない。
えーと。ポケットに手を突っ込むフリをして、収納から銅貨を五枚取り出す。
いけた。手の中に直接出せるのか。便利だな。
「ほらよ」
「おう。入っていいぞ」
通過した。
……ふう。心臓に悪いな、心臓はないけど。
◇
街の中を歩く。
懐かしい。
石畳の道。雑貨屋。武器屋。宿屋。酒場。
冒険者がうろうろしてて、商人が荷車を引いてて、子供が走り回ってる。
人間の街だ。
五日前まで、こっち側にいたんだよな。
今は——中身が宝箱の偽物人間だけど。
さて、塔のことを調べないと。
どこで聞こう?
冒険者ギルドは——やめとこう。顔見知りがいるかもしれない。カイルの顔で化けてるから、知ってる奴に会ったらめんどくさいことになる。
酒場だな。酒場なら、いろんな奴が噂話をしてる。
通りに面した酒場に入る。昼間だけど、冒険者が数人飲んでた。
カウンターに座って、安い麦酒を一杯頼む。
飲めるのか? 人間に化けてるから——
一口。
……飲めた。味もする。
うまい。五日ぶりの麦酒。宝箱になってから味覚なんてなかったのに、人間の体だと味がわかる。
……うまいな、これ。
いかんいかん。飲みに来たんじゃない。
隣に座ってるおっさんに話しかける。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど」
「あん?」
ヒゲ面のおっさん。Cランクくらいの冒険者っぽい。
「この辺に、でかい塔があるって聞いたんだけど。知ってるか?」
おっさんの目がちょっと変わった。
「塔? ああ、あの白い塔のことか」
白い塔。
「街の北に歩いて半日くらいのとこにあるな。丘の上にでかいのが立ってる。見たことないのか?」
「いや、この辺に来たのが初めてでさ」
「ふうん。まあ、あれには近づくなよ」
あれ……って、なんのことだ?
「番人がいるからな」
番人……?
「番人って、誰の?」
「塔の番人だよ。『塔守』って呼ばれてる騎士がいるんだ。あの塔を守るのが仕事の、お偉い騎士様だ」
塔守。専門の騎士か。
「強いのか?」
おっさんが麦酒を一口飲んで、笑った。
「冒険者だと、Aランク相当って話だ。街の冒険者が束になっても勝てねえよ」
Aランク。
Bランクの俺でも歯が立たないレベルだ。
「なんであんな塔にそんな強い奴がいるんだ?」
「さあな。昔からそうだって話だ。塔は聖域だから近づくなってのは、この辺のガキでも知ってるぜ」
聖域。
人間にとっては〝聖域〟か。
魔物にとっては〝牢獄〟なのに。
「あんた、何で塔なんか気になるんだ?」
「いや、なんとなく……」
「なんとなくで聞くようなこっちゃねえぞ、ありゃ。まあ、好奇心は猫を殺すってな。気をつけな」
おっさんはそう言って、また麦酒をあおった。
◇
酒場を出て、街の中を歩きながら考える。
北に半日。丘の上。白い塔。Aランクの番人。
今の俺の戦力で、Aランクに勝てるか?
正直——厳しい。
収納の射出は強いけど、あれは不意打ちだから効く。正面からAランクとやり合ったら、たぶん負ける。
ガルドたちを連れていくか?
ゴブリンの群れ三十四匹。強化済みでDランク中位。全員で突っ込んでも——Aランク一人には勝てないだろう。
数の暴力が通じるのは、ある程度の実力差までだ。それを超えると、何匹いても意味がない。
もっと強くならないとダメだ。
もっと——
……ん?
魔力残量を確認。
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魔力残量:51%
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擬態を維持してるだけでどんどん減ってる。あと一時間くらいが限界だ。
帰ろう。今日は情報だけで十分だ。
塔の場所はわかった。番人がいることもわかった。
あとは——どうやってそこに近づくか、だ。
正面突破は無理。こっそり近づくか、番人を味方にするか、別のルートを見つけるか。
冒険者だった頃の俺なら、依頼を受けて正面から行くだけだった。
でも今は——宝箱だ。
宝箱なりの攻略法がある。はず。
街の門を出て、ダンジョンへの道を歩き始める。
背中の蓋がうずく。パカパカしたい。
我慢しろ。もう少しだ。
人通りがなくなったところで——擬態を解除した。
ぐにゃり。
体が四角くなっていく。手が消える。足が消える。
金色の宝箱が、道端にぽつんと出現した。
パカーッ!!!
パカっ、パカパカパカパカパカパカパカ!
全力パカパカ。
はー……すっきりした。
三時間我慢してたパカパカだ。もう限界だった。
パカパカパカパカパカッ!
周囲に誰もいないのを確認してから、もうしばらくパカパカした。
「ぷるん?」
アイが中から顔を出した。どうしたの、って顔してる。
なんでもない。パカパカしたかっただけだ。
ズズズ。
ダンジョンに戻ろう。
やることは見えてきた。
塔に近づくために、もっと強くなる。
まずはそこからだ。
◇
【次回】拠点に帰って、ガルドたちに報告。塔のこと、番人のこと。で、ガルドが言った。〝じゃあ、もっと仲間を増やそう。ゴブリンだけじゃなくて、他の魔物も〟。——他の魔物? 中層にいる奴らを仲間にするってことか?




