表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/36

第10話「あの日、世界に蓋がされた……らしい」


 中層の拠点に戻ってきた。


 ガルドたちが遠征の成果を群れに報告してる。


「オークに勝った」って言ったら、全員ぽかんとしてた。


「嘘だろ」

「マジで?」

「ゴブリンが? オークに?」

「マジだ。五人で囲んで、ガルドがぶん殴って倒した」

「すげえ……」


 ざわざわしてる。


 でもいい騒ぎだ。こういう〝勝てた〟って話は、群れの空気を変える。


 それはそれとして。


 俺にはサガに聞きたいことがある。


 ズズズ。


 群れの奥にいるサガのところへ向かう。



 ◇



 サガはいつもの場所で、杖に寄りかかって座ってた。


 俺が来たのに気づいて、顔を上げる。


 「おお、タカラ。戻ったか。オークを倒したと聞いたぞ」


 パカッ(ああ)。


 でも今日の本題はそこじゃない。


 蓋を開けて、蓋文字を出す。



〝下の階で 光る紋様を見つけた〟

〝古い部屋の床に描いてあった〟

〝知ってるか?〟



 サガがそれを読んだ瞬間——顔色が変わった。


 さっきまでの穏やかな目つきが、一気に険しくなった。


「……紋様じゃと?」


 パカッ(そうだ)。


「どんな紋様じゃ。円か、線が何重にも重なっておったか」


 知ってるのか。


 パカッ(その通りだ)。


 サガの手が——震えてた。杖を握る手が、かたかたと。


「……まさか。そんなものが、まだ残っておったのか」


 知ってるんだな。やっぱり。


 蓋文字を出す。


〝あの紋様は何だ〟


 サガがしばらく黙った。


 目を閉じて、何かを思い出すように。


 それから——ゆっくりと口を開いた。



 ◇



「昔の話じゃ。ワシの祖父の祖父の——もっと前。何百年も、前の話じゃ」


 サガは少しずつ語り始めた。


「あの頃、魔物と人間は戦争をしておった。大きな、長い戦争じゃ」


 戦争。魔物と人間の。


 冒険者学校でもさらっと習った。〝古代の大戦〟とかいう名前がついてた気がする。


「魔物にはあの頃、王がおった。〝魔王〟と呼ばれた者がな」


 魔王。


「魔王のもとで、魔物たちは一つにまとまっておった。ゴブリンもオークもトレントも、みな魔王の旗のもとに戦った。人間と対等に」


 対等に戦えてたのか。今のゴブリンからは想像できないけど。


「じゃが、人間の側に一人の大魔導士が現れた」


 サガの目が遠くなった。


「〝大賢者〟と呼ばれた男じゃ。そやつは——恐ろしいことを考えた」


 恐ろしいこと……。


「魔物を殺すのではなく——〝育たなくする〟ことを」


 ……やっぱりか。


「大賢者は、世界中にある仕掛けを建てた。巨大な塔じゃ……魔力を放つ塔を、各地に」


 塔。


「その塔が放つ力が、魔物の成長を抑えこんだ。進化を止めた。どれだけ鍛えても、ある一線から先に行けなくした」


 進化を——止めた。


「魔王はその塔を壊そうとしたが——間に合わなかった。塔が起動した日に、魔王は力を失い、倒された。魔物たちは散り散りになった」


 一日で。


 全部、一日で変わったのか。


「それが——〝あの日〟じゃ」


 サガが俺を見た。


「世界に蓋がされた日。魔物が〝育たなく〟なった日」


 蓋。


 またその言葉だ。


「おぬしが見つけた紋様は——おそらく、その塔の力の一部じゃ。塔そのものではないが、塔から伸びた〝根〟のようなもの。ダンジョンの中にまで浸透しておるのじゃろう」


 塔の根。


 ダンジョンの壁にまで魔力が染みこんでる。


 あの紋様は、その染みこんだ魔力が形になったもの。


 ……だから、あんなに古かったのか。何百年も光り続けてたのか。


 塔が起動してから、ずっと。


「塔は今も立っておるはずじゃ。人間の街の近くに。ワシは見たことがないが、言い伝えではそう聞いておる」


 今も。


 今も、魔物の成長を止め続けてる。


 だからゴブリンは弱いまま。オークも、スライムも、全部。


 何百年もの間、ずっと——弱いままに、されてきた。



 ◇



 サガの話を聞いて、しばらく黙ってた。


 考えをまとめる必要がある。


 整理しよう。


 一、何百年か前に、人間の大賢者が〝封印の塔〟を建てた。


 二、その塔の力で、魔物は進化できなくなった。


 三、塔は今も動いてる。魔物はずっと弱いまま。


 四、ダンジョンの中にある紋様は、塔の力の〝根〟。


 五、俺の蓋裏にも、同じ紋様の欠片がある。


 ……五番目がひっかかる。


 なんで俺の蓋裏に、塔の紋様があるんだ。


 俺はミミックだ。ダンジョンの魔物だ。


 塔の力で封じられてる側のはず。


 なのに——塔と同じ紋様を持ってる。


 封じられてる側なのに、封じてる側の印がある。


 それって——



 蓋裏が、ぴかっと光った。



 ──────────────────

 〝収納〟(更新)

  体内に物体を格納できる。

  格納中の物体は劣化しない。

  格納した物体の性質を読み取り、

  再現することができる。

  生体を格納した場合、

  自動修復および強化が適用される。


 〝擬態〟

  外見を他の物体に変化させる。

  変化の精度は習熟により向上する。


 〝蓋文字〟

  蓋裏面に任意の文字を表示する。

  格納対象との意思疎通に使用可。


 〝 ??? 〟      ──NEW

  解放条件未達

  封印術式との接触を検知

  追加情報を収集してください

 ──────────────────



 新しい項目。


 でも——名前が〝???〟になってる。


 解放条件未達。


 封印術式との接触を検知。


 追加情報を収集してください。


 ……おい、取説。


 今回ばかりは後出しとかじゃなくて、本当にわからないのか。


 まだ条件が足りなくて、名前すら表示できないのか。


 でも——一つだけわかった。


〝封印術式との接触を検知〟。


 あの紋様に近づいたとき、俺の箱が光ったのは、これだ。


 封印の力に反応してる。


 俺の中に——封印に対応する〝何か〟がある。


 それが何なのかは、まだわからない。


 でも、方向は見えた。


 あの塔。封印の塔。


 あれに近づけば——もっとわかるかもしれない。


〝???〟が、名前を持つかもしれない。



 ◇



 サガに蓋裏を見せた。


〝???〟の項目を見せると、サガは長い間じっと見つめてた。


「……封印術式との接触を検知、か」


 サガが目を閉じた。


「タカラよ。おぬしの中にあるゴブリンを強化する力——あれは、もしかしたら〝封印を緩める〟力なのかもしれん」


 封印を緩める。


「おぬしの収納に入ると、魔物が少し強くなる。少しだけ成長する。それは——塔の封印をほんの少しだけ、おぬしが解いておるのではないか」


 ……なるほど。


 俺の中に入ると強くなるのは、収納が魔力を注いでるからだと思ってた。


 でもそうじゃなくて——封印の〝蓋〟を、俺がちょっとだけ開けてたのか。


 宝箱が、蓋を開ける。


 ……出来すぎてないか、この話。


「じゃが、おぬしの力では〝少しだけ〟しか開けられんのじゃろう。塔そのものが動いておる限り、根本は変わらん」


 うん。


〝微増〟とか〝中程度〟とか、そういうレベルでしかない。


 塔が止まれば——もっと大きく変わるのかもしれない。


「塔を壊す——とまでは言わん。じゃが、塔に近づいて、おぬしの〝???〟を解放できれば、何かが変わるかもしれんのう」


 サガがゆっくりと立ち上がった。杖にすがりながら。


「ワシは動けん。じゃが、おぬしは動ける。ガルドも、仲間たちも。おぬしが先に立てば、あの子たちはついていく」


 パカパカッ(まだ何も決めてない)。


「決めんでもよい。ただ——知っておいてほしかっただけじゃ」


 サガが微笑んだ。


「おぬしの蓋の裏に、答えがあるかもしれんということを」


 俺の蓋の裏に。


 取説に。


 余白に。


 ——まだ名前のない、〝???〟の中に。



 ◇



 夜。


 蓋を閉じて、寝ようとした。


 子供ゴブリンたちが、またくっついて寝てる。


 パカ……。


 薄く蓋を開けて、裏を見た。


〝???〟の文字がぼんやり光ってる。


 まだ名前がない力。


 封印を——開ける力。


 それが俺の中にあるのかもしれない。


 塔に近づけば、わかるかもしれない。


 でも塔は人間の街の近くにある。


 宝箱が人間の街に行ったら——どうなるか。


〝ミミックだ!〟〝殺せ!〟


 ……うん、まあそうなるよな。


〝擬態〟があるけど、蓋が消せないしな。


 人間に化けたら?


 前にダンジョンの中で石に化けたとき、蓋が残った。


 人間に化けても、蓋が残るだろ。


 背中に蓋がついた人間……。


 ……怖いわ、そんなの。


 まあ、考えるのは明日にしよう。


 今日はいろいろありすぎた。


 オークに勝った。紋様を見つけた。サガの話を聞いた。取説に〝???〟が出た。


 多すぎる。


 パタン。


 おやすみ。


 蓋の裏で、〝???〟がぼんやり光ってる。


 まるで——早く名前をくれと、言ってるみたいに。



 ◇



 【次回】塔のことが気になって夜も眠れない——嘘だ、宝箱は蓋閉じたら即寝だ。翌朝、ガルドに相談したら、意外な提案が返ってきた。〝ダンジョンの外に出よう〟。え、外? 宝箱が? ——いや、そうだよな。塔は外にあるんだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ