6話 父の面影
イマジナリーフレンドとは、主に幼児から児童期にかけて、
子供が頭の中で作り上げる、本人にしか見えない空想上の友達である。
多くの場合、5〜6歳頃に現れ、
成長とともに、児童期のうちに自然と姿を消す。
それは「想像」だとされ、
やがて忘れられていくものだ。
※本作は、このイマジナリーフレンドという概念を、
独自の視点から再解釈しています。
「ふぅ、静かで、いい朝だ……」
ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!
ドアを叩く音が、ボロい壁を振るわせる。
「ち、ドアが壊れるだろう……
はーい!」
ドン!ドン!ドン!
「はぁ、なんですか?」
ドアを開けると、そこには女の子と女性が立っていた。
「ちょっと美羽!やめなさい!」
「あ!ねぇ、お願いがあるの。
美羽のお父さんを探して!!
警察さんやお母さんにお願いしたけどダメって言われたの。
だからお願い!美羽を助けて!」
「なんだ?いきなり……」
「すみませんが、美羽の話を聞いてあげてくれませんか……」
「はあ、わかりましたよ……」
二人を席に腰掛けさせ、話を聞く。
「お母さん……
どういうことなのか説明してもらえますか?」
「えーと……
半年ほど前に、夫が突然帰ってこなくなってしまって……
いつまで経っても帰ってこないので、職場に連絡したんです……
職場では一か月前に退職したって……
その……世間的には蒸発したということになりまして……」
「違うもん!お父さんいるもん!
だって、マンションの前にいるもん!」
「美羽!あなたはまだそんなこと言うの。
もうやめて……お願いだから……」
いい加減にしなさい!そんなものはありはしない!
父さん……
「……わかりました。
美羽ちゃん、お母さん、一度……マンションに行ってみましょう。
話はそれからでどうでしょう?」
ーーマンション前
「お兄ちゃん、いるでしょ。
あそこにお父さん」
……まずいな……
ここで俺が明言してしまうと、“影”が形を成してしまうだろう……
そうなれば、美羽ちゃんにも危険が及んでしまうかもしれない……
「俺にはよく見えないから、また明日来てもいいかい?」
「……わかった。じゃあまた明日ね
お兄ちゃん……」
「お母さん、また明日、美羽ちゃんとここで話しませんか?」
「?
はい、わかりました。
明日よろしくお願いします……」
ーー事務所
「あ、戻ってきた。
修二くん、どこに行ってたの?」
「依頼だよ。
お母さんと女の子からの依頼で……」
「へー。私も美羽ちゃんに会ってみたい!」
「だめだ、これは俺の仕事だ!
それに由美子さんは無関係でしょ」
「いいじゃん別に。助手ってことでさ」
「はぁ、もう好きにしてください……
俺は考えることがあるんで……」
「そう、ありがと。」
俺は席につき、先ほど見た光景について考えた。
今回のあれはなんだ?
今までの"影"と何が違う?
美羽ちゃんは影をお父さんと認識し、呼びかけてもいる……
だが、形を成そうとしない……
違いはなんだ?
今までの観測者は大人だった……
まだ、美羽ちゃんは子供だ……
そして、あそこにお父さんがいることを疑っていなかった……
つまり、今まで俺が見てきた“影”とは、
根本の部分で何かが、違う気がする……
翌日――
「どうも、助手の由美子です。
今日はよろしくお願いします」
「あ、はいこれはどうも
本日は朝早くからありがとうございます。」
「いえいえ、私も来たくて、来てますから。」
親子に挨拶する由美子さんをよそに、俺は美羽ちゃんに語りかけた。
「美羽ちゃ――」
「お兄ちゃん、あれお父さんだったでしょ。
ねぇ、お父さ――」
「もうやめなさい美羽!
父さんはもういないの!
戻ってこないの!いい加減にしなさい!」
「グスン……
……でも…グスン…」
「……美羽ちゃん、今から俺の言うことを、しっかり聞いてほしい……」
「美羽ちゃん、
君の言っていることは本当だ。
でも、お母さんの言っていることも本当なんだ
見えてる景色は、人によって違うんだよ……」
「え?」
美羽は母の顔を見上げ、母の足に抱きついた。
「……ねぇ、お母さん……お父さん……もういないの……
もう一緒に……学校行ってくれないの……」
「……っ
やだぁ…」
泣き声は、だんだんと鼻が詰まるような声に変わっていった。
「……美羽…今までごめんね……
お母さんは、ずっと一緒にいるからね。」
「グスン…グスン……ねぇ、お兄ちゃん……」
「なんだ?どうした?」
「ねぇ、お兄ちゃんの所……
また遊びに行っていい?」
「……んー
俺も仕事があるし……」
「別にいいじゃない。
事務所、明るくなるし」
「はあ、たまになら、いいぞ」
事務所でノートを開き書き込む。
“影”は、観測によって形を得る。
だが、“影”にはまだまだ謎が多い。
そして、
信じ続けることと、
意味を押し付けることは、
似ているようで、まったく違う。
そう書き記し、俺はノートを閉じた。




