3話 彼との思い出
ピピピ…ピピピ…ピピピ……
「うーん」
部屋に鳴り響くアラームを止め、1人昨日の出来事を反芻する……
「昨日は……危なかったな……」
“影”は周囲の噂や情報によって……形を与えられる……
……そうでないと、今回の件は説明がつかない。
情報が足りない…
コン!コン!
「はーい、どうぞ〜」
「すみません、ここは心霊現象研究所であっていますか?」
「はい、そうですよ。
要件はなんですか?」
「あ、はい、1年前に行方不明になった。
昭弘を……私の彼氏を見つけて欲しいんです……」
「……話を聞きましょう、コーヒーは好きですか?
ちなみに俺は心霊現象研究家の修二と言います……」
椅子に腰掛け話を聞く。
「私は由美子と言います
1年前まで、彼氏と一緒にツーリングするのが、私たちの趣味でした。
一年前、急用が出来て……
その日は彼氏だけで、ツーリングに行ったんです。
連絡がつかないと思っていたら……
つづら通りでスリップして、転落後に行方不明という連絡が来たんです……
それから数ヶ月が過ぎた頃……夜に通ると……
黒い影を追って来て危うく、事故になりそうだった……
って、ネットの掲示板書いてて、何となくですけど、彼氏のような気がして……」
「お願いです!警察はどれだけ頼んでも捜査を打ち切ってしまうし、
探偵も長期間の調査は断れるし、あなたしかいないんです!お願いします!」
「……」
もしかしたら”影”に関係あるのかもしれないな……
「わかりました、
昭弘さん捜索の依頼、引き受けましょう。」
ーーその日の夜
調査のためにバイクを借り、昭弘さんの行方不明現場へと向かった。
「はぁ、ここで少し休むか……」
ザァー
「なるほど……捜索が打ち切られる理由はこれか……」
見下ろすと、そこには、崖下には近づけば飲み込まれそうな急流があった……
「そろそろ行くか……」
ーー
ブォーン……
「おっと、危なかった……」
道が悪くなり、所々へこみ出来ていた。
バァン……
静かな夜を裂くように、エンジン音が響いた。
ミラー越しに後ろを振り返ると……
「なんだ?あれは……」
世闇に紛れて、"影"が悪路の中、異様な速度で迫ってきた。
「マジかよ……
普通この道をあの速度で……」
“影”は俺の後ろに張り付き、どんどん距離を詰めてきた。
バァン!
エンジン音が耳に響く……
バイクがぶつかってもおかしくないところまで詰めて来た。
「まずい……」
“影”と接触しないように、速度を上げる……
ブォォン!
更に速度を上げる……
「距離を取らないと!ぶつかってしまう……
ヤバい!カーブが!?」
カーブを曲がろうとすると……バイクと体が浮く感覚がした。
崖下の光景がチラつく……
まだ……死ねない……
「ゔ……」
俺は咄嗟にガードレールを蹴り、車体のバランスを整えた……
「はぁはぁ……」
気がつくと……エンジン音は遠ざかり、
”影”は、いつのまにか姿を消していた。
ー翌朝
「痛むな……
昨日のあれのせいだな……」
……あれは間違いなく"影"だった。
でも、このことは由美子さんには説明できない……
このことは隠して伝えなければ……
プルルル……
「由美子さんですか?
昨日の調査結果をお伝えしたいので、一度来てもらえますか?」
ーー
「由美子さん、結果から言いますと、
昭弘さんの行方に繋がりそうなものは見つかりませんでした……
力になれずに申し訳ありません……」
「そ、そんなはずはありません!
……そう、今夜一緒にもう一度行ってくれませんか!?」
「え、ですが……」
「お願いします……お金なら払いますから!」
いきなり……どうしたんだ?
なにか、理由があるのか?
「……わかりました。」
ーー夜
「あの……突然すみません……」
「いえ、引き受けた依頼ですのでお気になさらず、
由美子さん速度を上げるのでしっかり捕まってください。」
走行していると、ミラー越しに”影”が見えた。
しかも、昨日よりもはっきりと形を成している……
やばい……この足で逃げ切れるか?
「由美子さん、しっかり捕まっててください。」
「ゔ……」
やはり、ギアチェンジ満足にできない……
バァン!
「まずい…このままでは…」
このままでは"影"にぶつかられる……
「あれ?」
”影”は由美子さんの後ろに張り付き、つかず離れない安全な距離を保っていた……
「どういうことだ……なんで……」
「グスン……」
「昭弘……私を見守ってくれているんだね……」
「どういうことなんだ?
これはいったい……」
それからしばらく、”影”は姿を現し続けていた……
ーー
「由美子さん……
あなたは薄々気づいてたんじゃないんですか?
だから、俺に依頼をした。」
「グスン…昭弘はよく言っていたんです……」
由美子!お前の前と後ろは俺が守ってやるよ!
なに言ってるのもう、2つは無理でしょ。
まぁそこは分身してな
もう、なにそれ……
「グスン……
私は……昭弘が生きてるって信じたかった……
グスン…グスン…」
「んー……
とりあえず……帰ります?」
事務所で1人ノートに記入する。
今回の影は由美子さんの思いやネット噂が形を成したものなのだろう‥
いやそう考えるしかない
なら死の直前の言動……思いが影を作る。
そう考えれば、説明はつく。
そう…思いたい……
なら「姉さん」のときは、なにが違った
なにがあの影を生んだんだ……
ノートを閉じながら、俺はその問だけを残した……




