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1話 戻らない日常

はじめまして。

本作はホラー要素を含みますが、

人の思いを描く物語です。


淡々と進みますが、

何か残れば幸いです。

よろしくお願いします。

夜、ただ物静かなアパートの一室で、俺は座って見つめている。

目を逸らさずに、ただ見つめる。


夜は憂鬱だ。嫌でも、あの日を思い出す……。


ピピピ……ピピピ……ピピピ……。


冬の寒い空の下、カーテンの閉じた真っ暗な部屋で、時計のアラームが鳴る。


ベルを止め、もう一度寝ようとしたところで、

ドアの向こうから声がした。


「修二! 修二! 起きて!」


ドアの向こうから、姉の声がする。


「もう、入るよ。朝でしょ!」


そう言いながら部屋に入ってきた姉――陽菜が、

カーテンを開け、俺を叩き起こす。


「修二、学校あるんだから、さっさと起きろ!」


そう言って俺の布団を剥ぎ、

姉は自分の学校へ行く準備を始めた。


母は「行ってらっしゃい」と、俺と姉を送り出す。


学校へ向かう途中、姉が言った。


「修二、あんたもう小学六年生でしょう。

 そろそろ一人で起きなさいよ。

 来年には中学生でしょ」


「私も高三。来年には大学生なんだし、

 毎日あんたを起こしてあげられるわけじゃないのよ」


「いやぁ、分かってるんだけどさ……。

 あ、そういえば父さんは?

 家にいなかったけど」


「はぁ……父さんは病院の早出でしょ。

 どうせゲームに夢中で、話を聞いてなかったんでしょう」


そんな姉との会話の途中、

街にあるアパートの廃墟に目が留まり、

影が見えた気がした。


姉は俺を見送り、高校へ向かう。


学校が終わると、姉が迎えに来ており、

一緒に帰る道中、廃墟アパートの前で立ち止まった。


朝と同じように窓を見ると、

揺れる窓、殴られているように見える人影があった。


朝のあれは、気のせいじゃなかったんだ。


「姉さん! 人が殴られてるよ!

 助けなきゃ!」


俺たちは一緒に廃アパートの階段を上り、

ドアを開け、部屋へ入った。


今思えば、

なぜ「助けなきゃ」と思ってしまったのだろう……。


――見えてしまった以上、

無視するという選択肢はなかった。

幼いながらに、そう思ったのだ。


埃が舞い、夕日が差し込む部屋には、

黒い何か、不安定な“影”があった。


その瞬間、直感する。

明らかに、生きていない。


そう感じたのに、俺は声をかけてしまった。


「あ、あの……大丈夫ですか?」


震える声で、“影”に語りかける。


すると“影”は形を成し始め、

人の形となり、俺の横を通り過ぎていった。


初めて目にする光景に、

俺の体は動かなくなっていた。


後ろから、バタン!

何かが倒れるような音がした。


振り向くと、

そこには倒れている姉と、

その姉に覆いかぶさり、次第に薄くなっていく“影”があった。


俺は姉に駆け寄り、手を取る。

温かいはずの手は、どこか軽い。


「姉さん! 大丈夫!

 なんだよ、これ!

 姉さんから離れろよ!

 姉さん、大丈夫!?」


呼んでいるのに、離れていく。

そんな感覚があった。


何度呼びかけても、姉は起きず、

姉を覆う“影”も消えない。


どれだけ呼び続けただろう。

気づくと夜になっていた。


叫び声を聞きつけた近所の人たちが集まり、

警察や救急車、そして両親が来ていた。


姉は運ばれ、父は俺に詰め寄る。


「修二! 陽菜に何があった!

 誰かに襲われたのか!」


父と警察に、俺は必死に説明した。


だが信じてもらえず、

パニックになって見た幻覚、ということにされた。


事情聴取が終わると、父が言う。


「修二、母さんから病院が分かった。

 今から向かうぞ」


病院へ向かう直前、

誰かが小声で言うのが聞こえた。


「あの部屋、噂の……」


病院に着き、姉の病室へ入ると、

あのモヤは、まだ姉に覆いかぶさっていた。


体は痩せ細り、

アザのような痕が浮かび上がっている。


父は母に尋ねる。


「陽菜の容体はどうだ」


母は疲れた様子で答えた。


「原因不明の気絶としか……」


そして、俺に何があったのかを尋ねる。


同じ説明を繰り返していると、

父が声を荒げた。


「いい加減にしてくれ!

 そんなもの、あるわけがない!」


頭を掻きむしるように触る父を、

母が制止する。


「ちょっと、お父さん。

 ここは病院ですよ」


その様子を見ながら、

あの“影”は俺にしか見えないのだと悟った。


……きっと、俺があの時、扉を開けたせいだ。

そのせいで、姉さんは……

あの“影”に……。


そう考えずには、いられなかった。


調べなければならない。

幼いながらに、そう思った。


医学からオカルトに至るまで、

ありとあらゆる書物を漁った。


姉に起きた出来事は、

心霊現象の話で、よく見られるものだった。


あれから俺は、

オカルトや民話を調べ続けた。


そして、一つの結論に辿り着く。


――幽霊とは、現象である。


だからこそ、人はそれに意味を与えてしまう。

いや、意味を与えずにはいられないのかもしれない。

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