「三人斬り岩」と鉄道工夫の叫び 第2話:鉄路を敷く
作者のかつをです。
第十五章の第2話をお届けします。
今回は、絶望的な状況の中での男たちの友情と、ささやかな夢を描きました。
しかし、その絆がやがて悲劇の引き金となってしまいます。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
地獄のような、タコ部屋暮らし。
その中で、佐吉には心を許せる数少ない仲間がいた。
一つ年上の辰夫と、同い年の三郎だ。
辰夫は、大阪の出身でお調子者だった。
どんなに辛い時でも、冗談を言って場を和ませるムードメーカー。
「なあ、佐吉。この工事が終わったら、神戸の港でハイカラな西洋料理を腹いっぱい食おうやないか」
三郎は、無口で不器用だったが、誰よりも優しい心の持ち主だった。
佐吉が熱を出して倒れた時は、自分のわずかな食事を分け与え、一晩中看病してくれた。
三人は、いつも一緒だった。
過酷な労働も、三人でいればなんとか耐えることができた。
彼らは、互いの唯一の家族だった。
彼らの夢は、ささやかなものだった。
いつか、この地獄から解放されたら、自分たちが敷いたこの鉄路に乗って故郷へ帰る。
そして、真っ当な仕事を見つけ、ささやかな家庭を築く。
ただ、それだけだった。
「なあ、この鉄路はどこまで続いているんだろうな」
作業の合間、三人は敷設されたばかりの二本のレールを眺めながら、そんな話をしていた。
レールは、陽の光を浴びてどこまでも未来へと続いているように見えた。
「きっと、俺たちの故郷まで続いているさ」
辰夫が、おどけて言った。
「そしたら、汽車に乗ってひとっ飛びだ」
その言葉に、三人は顔を見合わせて笑った。
それは、彼らにとって数少ない心からの笑顔だった。
しかし、そんなささやかな夢さえも、この場所では許されないのかもしれない。
彼らの運命の歯車は、静かに、しかし確実に狂い始めていた。
問題は、あの監督だった。
彼は、特に気の弱い三郎を目の敵にし、執拗にいびり抜いていた。
些細なミスを見つけては、殴り、蹴り、罵声を浴びせる。
三郎の身体には、日に日に生傷が絶えなくなっていった。
佐吉と辰夫は、何度も庇おうとした。
しかし、そのたびに監督の暴力はエスカレートするばかりだった。
「やめろ……。俺のことは、いいから」
三郎は、そう言って力なく笑うだけだった。
タコ部屋の中の空気は、日に日に険悪になっていく。
工夫たちの監督への憎悪は、もはや限界に達していた。
それは、いつ爆発してもおかしくない火薬庫のようだった。
そして、その導火線に火がつく日は、すぐそこまで迫っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
過酷な労働現場では、仲間との絆だけが唯一の心の支えでした。しかし、その絆が強ければ強いほど、理不尽な暴力への怒りもまた大きくなっていったことでしょう。
さて、日に日にエスカレートしていく監督の暴力。
そして、ついに取り返しのつかない事件が起きてしまいます。
次回、「消えた三人」。
物語は、一気に悲劇へと突き進みます。
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