表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
9/18

炎と鉄の鎮魂歌 第2話:戦国の注文

作者のかつをです。

第二章の第2話をお届けします。

 

主人公・宗近の元に、毛利家の武士が訪れ、彼の運命を左右する「注文」が突きつけられます。

ここから、彼の刀鍛冶としての誇りを懸けた戦いが始まります。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

ある日の昼下がり。

宗近が、研ぎ場で黙々と小刀の手入れをしていると、たたら場の入り口に、馬を乗りつけた一人の武士が立っていた。

上質な具足を身に着け、その佇まいは、そこらの地侍とは明らかに違う。鋭い眼光が、宗近を射抜くように見つめていた。

 

「ここが、大山鍛冶の仕事場か。棟梁は、おるか」

 

武士の声は、鞘から抜かれた刀のように、冷たく響いた。

宗近は、手を止め、静かに立ち上がった。

「いかにも。俺が、棟梁の宗近だ」

 

武士は、馬上から宗近を値踏みするように見下ろし、やがて満足したように頷いた。

「俺は、毛利家に仕える、杉原という者だ。若いが、良い目をしている。お主に、刀を一本、打ってもらいたい」

 

杉原と名乗る武士が懐から取り出した書状には、毛利輝元からのものとされる花押が記されていた。

内容は、簡潔かつ、あまりにも過酷なものだった。

 

「我が腹心の者に与える、特別な一振りを、来月の十五日までに、打ち上げよ」

 

ひと月。

たたら場で砂鉄から玉鋼を作り、それを鍛え上げ、一本の刀を完成させるには、あまりにも短い期間だった。通常の倍以上の速さで仕事を進めなければ、到底間に合わない。

 

「……それは、あまりにも。数打ち物では、ございませぬな?」

宗近が問うと、杉原は鼻で笑った。

「無論だ。俺が欲しいのは、そこらの足軽が持つような鉄の棒ではない。我が命を預けるに足る、魂のこもった一振りよ。できぬか?」

 

挑発するような、物言い。

宗近の心の奥で、何かが、カチリと音を立てた。

それは、職人としての、意地だったのかもしれない。

 

「……承知した。大山鍛冶の名に懸けて、必ずや、ご満足いただけるものを、打ち上げてみせよう」

 

杉原は、満足げに馬首を返すと、一言だけ言い残して去っていった。

「期待しているぞ、若き棟梁」

 

嵐のような来訪者が去った後、宗近は、一人、立ち尽くしていた。

無謀な注文。しかし、断ることはできなかった。

毛利家の威光は、絶対だ。そして何より、彼の職人としての誇りが、逃げることを許さなかった。

 

宗近は、炉の中に赤々と燃える炎を見つめた。

あの炎は、今や、自分自身の命の残り時間のように思えた。

彼の、孤独で、壮絶な戦いが、静かに幕を開けた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

戦国時代、有力な刀鍛冶は、大名の庇護を受けることで、その技術を守り、発展させていきました。宗近に突きつけられた注文は、彼にとって、大きな好機であると同時に、失敗すればすべてを失いかねない、危険な賭けでもあったのです。

 

さて、あまりにも短い納期。

宗近は、父が遺したものを頼りに、この難題に挑みます。

 

次回、「父の教え、息子の迷い」。

刀を打つ意味を問い続ける、彼の葛藤が描かれます。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

ーーーーーーーーーーーーーー

この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


▼公式サイトはこちら

https://www.yasashiisekai.net/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ