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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
8/20

炎と鉄の鎮魂歌 第1話:たたら場の煙

作者のかつをです。

 

本日より、第二章「炎と鉄の鎮魂歌 ~大山刀鍛冶、最後の一振り~」の連載を開始します。

今回の主役は、戦国の世、瀬野の地で名刀を生み出したとされる「大山鍛冶」。

その最後の末裔かもしれない、一人の若き刀鍛冶の葛藤の物語です。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島市安芸区瀬野。その山あいの一角に、かつて「大山おおやま」と呼ばれた地区がある。

今では静かな住宅地が広がるこの土地に、遠い昔、鉄を打ち、刀を生み出す職人たちが暮らしていたことを知る人は少ない。

戦国の世、安芸国の有力な刀工集団として、その名を響かせた「大山鍛冶」。

 

これは、時代の荒波に翻弄されながらも、一振りの刀に己の魂を込めた、名もなき最後の刀鍛冶の物語である。

 

 

 

 

天正の世。安芸国、瀬野の郷。

その奥深い山懐に、昼夜を問わず、白い煙を吐き出し続ける一角があった。

大山鍛冶の仕事場、「たたら場」である。

 

炎が燃え盛る炉の前に、一人の若者が、汗だくで立っていた。

名を、宗近むねちかという。

病で世を去った父の跡を継ぎ、このたたら場を守る、若き棟梁だった。

 

「棟梁、火の色が良うなってきました」

下働きの男の声に、宗近は無言で頷く。

彼の目は、神事のように揺らめく炎の色だけを、じっと見据えていた。

父から叩き込まれた、鉄の声を聞くための、ただ一つの作法。

 

鉄は、生き物だ。

火の色を読み、槌音を聞き、その機嫌を損ねぬよう、丹念に仕事をする。さすれば、鉄は、人の思いに応え、強靭で、美しい鋼へと姿を変える。

 

しかし、その鋼が生み出すものは、人を殺めるための「刀」だった。

 

宗近の心には、常に、一つの葛藤が渦巻いていた。

自分は、ただひたすらに、美しいものを創りたい。父がそうであったように、人の心を撃つような、魂のこもった一振りを。

だが、世が求めるのは、敵兵を効率よく斬り捨てるための、無個性な「数打ち物」ばかり。

 

村の若者たちが、次々と戦に駆り出されては、二度と帰ってこない。

自分が打った刀が、彼らの命を奪っているのかもしれない。

その思いが、槌を振るうたびに、彼の心を重く蝕んでいた。

 

(父上、俺は、何のために刀を打つのですか)

 

問いは、炎の中に吸い込まれ、答えは返ってこない。

 

それでも、彼は槌を振るう。

それが、大山鍛冶の棟梁として生まれた、彼の宿命だったからだ。

たたら場の煙は、まるで宗近の晴れぬ心の靄のように、瀬野の谷間を静かに漂っていた。

作者のかつをです。

 

本日より、第二章「炎と鉄の鎮魂歌 ~大山刀鍛冶、最後の一振り~」の連載を開始します。

今回の主役は、戦国の世、瀬野の地で名刀を生み出したとされる「大山鍛冶」。

その最後の末裔かもしれない、一人の若き刀鍛冶の葛藤の物語です。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

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この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


▼公式サイトはこちら

https://www.yasashiisekai.net/

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