表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
50/98

間宿「出見世」の茶屋看板娘 第7話:私の見てきた景色(終)

作者のかつをです。

第七章の最終話です。

 

時代の変化と共に、その役目を終えていく一つの場所。

主人公・おはなの一生を通じて、街道の栄枯盛衰を描きました。

少し寂しい結末ですが、そこにあった人々の確かな営みを感じていただけたら幸いです。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

長い、長い動乱の時代が終わった。

世は、明治という新しい時代を迎えた。

 

しかし、新しい時代の到来は、出見世の宿場町に静かな終わりの始まりを告げるものだった。

 

街道のすぐ脇を、黒い鉄の塊が煙を吐きながら走り抜けていくようになったのだ。

「汽車」である。

 

人々は、もはや何日もかけて街道を歩かなくなった。

汽車に乗れば、これまで一日がかりだった道のりも、ほんの数時間でたどり着ける。

 

西国街道は、その役目を終えようとしていた。

 

出見世の茶屋を訪れる旅人の数は、日に日に減っていった。

あれほど賑やかだった宿場町は、まるで火が消えたように静まり返っている。

一軒、また一軒と、茶屋がその暖簾を下ろしていった。

 

おはなも、もう看板娘と呼べる年ではなかった。

白髪の混じる髪を結い上げ、彼女は一人寂しくなった店先で客を待っていた。

父の源助は、数年前に世を去っていた。

 

ある晴れた日の午後。

おはなは店の縁側に座り、静かになった街道をぼんやりと眺めていた。

 

彼女の脳裏に、これまでの数十年間の光景がまるで走馬灯のように蘇ってきた。

 

きらびやかな大名行列。

その中で優しく微笑んでくれた若武者の顔。

杖を頼りにひたすら歩き続けた老夫婦の小さな背中。

雨の軒先で猫に餌をやっていた影のある浪人。

そしてこの国の未来を憂い、足早に駆け抜けていった数多の志士たち。

 

嬉しいことも悲しいこともたくさんあった。

多くの出会いと別れがあった。

 

自分は、ただこの茶屋から一歩も出ずに生きてきた。

しかし、自分はこの場所で見ていたのだ。

この国の歴史が動くその瞬間を。

この道の上を通り過ぎていった、無数の人々の人生を。

 

そう思うと、自分の人生も決して空っぽではなかったと思えた。

 

「……いらっしゃいませ」

 

一人の旅人が、店の前で足を止めた。

おはなはゆっくりと立ち上がり、いつものように優しい笑顔で客を迎えた。

 

私の見てきたこの景色。

それこそが、私の人生そのものなのだ。

彼女は、静かにそう思った。

 

 

 

 

……現代。出見世地区。

かつての茶屋の面影は、もうどこにもない。

ただ、アスファルトの道の脇に古い道標が一つ、ぽつんと残されているだけ。

 

しかし、もしあなたがその道標の前で静かに目を閉じれば。

聞こえてくるかもしれない。

遠い江戸の昔、この場所で行き交う人々の賑やかな声と、一杯の茶に心を癒された旅人たちの安堵のため息が。

 

(第七章:大名の背中、旅人の笑顔 了)

第七章「大名の背中、旅人の笑顔」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

 

明治になり鉄道が開通したことで、江戸時代に栄えた多くの宿場町がその役割を終え、衰退していきました。瀬野の出見世も、そんな時代の変化の波に洗われた場所の一つでした。

 

さて、街道の華やかな物語でした。

次なる物語は、同じく江戸時代ですが、今度はものづくりの職人の世界に光を当てます。

 

次回から、新章が始まります。

**第八章:水車の音は消えず ~広島藩御用達・瀬野の油搾り~**

 

瀬野川の豊かな水を利用して、暮らしの灯りである「油」を作っていた職人たちがいました。

彼らの誇りと、そして時代の変化に消えていった水車の音の物語です。

 

引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。

ブックマークや評価で応援していただけると、第八章の執筆も頑張れます!

 

それでは、また新たな物語でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ