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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
3/74

瀬野の名の起源、生石子神社の物語 第3話:巫女の決断

作者のかつをです。

第一章の第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

今回は主人公ヒナタの葛藤と、彼女の大きな決断を描きました。

神の声に頼るのではなく自らの意志で未来を選び取る。

一人の少女が大きく成長する瞬間です。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

ヒナタは激しく迷っていた。

村の安全を考えれば、この者たちを丁重にしかし断固として追い払うのが、巫女としての正しい判断だろう。これ以上村に厄介事を増やすわけにはいかない。

 

しかし、イツセの瞳が脳裏に焼き付いて離れなかった。

あの瞳は日照りを憂い神に祈りを捧げる長老の瞳と、どこか似ていた。守るべきものを持つ者の深くそして孤独な色をしていた。

 

(神よ、私にお示しください……。私はどうすれば……)

 

心の中で何度呼びかけても、磐座は沈黙したままだ。

村人たちのいらだった視線が背中を焼く。沈黙が重く彼女を押しつぶそうとしていた。

 

その時だった。

ヒナタの脳裏にふとある光景が浮かんだ。

それは磐座に仕える老婆からまだ幼い頃に聞かされた、この土地に伝わる古い古い伝承だった。

 

「ヒナタや、よう聞きなされ。この土地はな、傷つきし者を癒す場所なんじゃ。昔、旅人を無下に追い返した年は山が枯れ川が涸れた。逆にもてなした年は山は恵み川は潤った。訪れし者は神が遣わした試練であり、恵みでもあるんじゃよ……」

 

それは神の声ではない。

土地に古くから伝わるただの言い伝えだ。

 

しかしその言葉が暗闇の中にいたヒナタの心を、一条の光のように強く打った。

彼女ははっと顔を上げた。その瞳にもはや迷いの色はなかった。

 

彼女は震える声で、しかし村中の者が聞き取れるようはっきりと告げた。

 

「……生石子の神は、こう告げておられます」

 

それは巫女人生で初めて、彼女が自らの意志で紡ぎ出した「神託」だった。

 

「この方々を、受け入れなさい。武器を収め、傷つきし者を癒しなさい。さすればこの乾いた大地にも、必ずや恵みの雨がもたらされるでしょう」

 

村人たちが大きくどよめいた。

「しかしヒナタ様!」「武器を持った連中を……」

それでも巫女の言葉は絶対だ。

彼らは戸惑い顔を見合わせながらも、手にしていた鍬や弓をゆっくりと下ろしていった。

 

イツセが驚いたようにヒナタを見た。彼の部下たちからも安堵のため息が漏れる。

ヒナタはただ静かに彼に頷き返した。

 

自分の下した決断が吉と出るか凶と出るか、今はわからない。

だがこれが自分が信じた道なのだ。

ヒナタは自らの小さな身体に、村のすべての運命を背負う覚悟を決めていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

巫女の「託宣(神のお告げ)」は古代社会において非常に重要な政治的判断の根拠とされていました。ヒナタのこの決断は、まさに村の未来を左右する大きな賭けだったのです。

 

さて、ヒナタの神託により村に受け入れられたイツセの一団。

ここから二つの異なる文化の交流が始まります。

 

次回、「癒しと交流」。

ヒナタとイツセの間に少しずつ絆が芽生えていきます。

 

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

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