檜木城・鳥籠山城の攻防 第6話:丘の上の鎮魂(終)
作者のかつをです。
第四章の最終話です。
戦の後の喪失と、それでも続いていく日常。
主人公・弥助が悲しみを乗り越え、新たな一歩を踏み出す再生の物語を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
どれだけ彷徨っただろうか。
弥助は山中の岩陰で、何日かを死んだように過ごした。
そして煙の匂いが完全に消えた頃、おそるおそるあの丘へと足を向けた。
かつて檜木城があった場所。
そこには無数のカラスが飛び交い、黒い炭と化した柱の残骸が墓標のように立ち尽くしているだけだった。
地面は乾いた血で、赤黒く染まっていた。
彼は父の亡骸を探した。
そして城門の近くで、見覚えのある手甲をつけた腕を見つけた。
彼は声もなく、涙を流した。
弥助は近くの森から木の枝を拾い集め、小さな穴を掘った。
父を、そして見分けのつく仲間たちの亡骸をそこに埋めた。
名もなき小さな墓だった。
彼はその上に、河原から拾ってきた丸い石をそっと置いた。
戦は終わった。
しかし、自分はこれからどうすればいいのか。
父は生きろと言った。
だが、生きる意味がもうわからなかった。
力なく村へと足を向けた。
村は幸い戦火を免れていた。
しかし多くの家が男手を失い、そこには静かな悲しみが満ちていた。
おふみの家の前まで来た時、彼女が飛び出してきた。
その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
彼女は何も言わずに、弥助の胸に飛び込んできた。
「弥助さん……! 生きて、いてくれた……!」
その温かさに、弥助の凍りついていた心が少しだけ溶けていくのを感じた。
そうだ。自分は一人じゃない。
守るべき人が、まだここにいる。
父の最後の言葉が蘇る。
「お前は、この土地で生きるんだ」
弥助はおふみを強く抱きしめ返した。
彼は決意した。
もう槍は取らない。
この手には鍬を。
父がそうであったように、自分もこの瀬野の土と共に生きていこう。
死んでいった者たちの分までこの土地を豊かにしていく。
それが自分に遺された、本当の戦なのだと。
◇
……現代。檜木城跡。
丘の上には今も、誰が置いたのか小さな石積みがひっそりと残されている。
それは四百数十年前、ここで繰り広げられた悲劇と、それでも生き抜いた人々のささやかな祈りの証なのかもしれない。
(第四章:峠の城、燃ゆ 了)
第四章「峠の城、燃ゆ」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
戦国時代の物語は、どうしても悲しい結末が多くなります。しかし、その悲劇の礎の上に今の私たちの平和な暮らしがあるのだということを、忘れてはならないのかもしれません。
さて、血なまぐさい戦の物語が続きました。
次なる物語は少し趣向を変えて、神秘的な伝説の世界へとご案内します。
次回から、新章が始まります。
**第五章:空海が見た谷 ~弥山谷の護摩と龍の伝説~**
若き日の弘法大師・空海が、この瀬野の地を訪れていたという伝説があります。
彼がこの地の美しい自然の中で、何を見、何を感じたのか。
少し不思議な物語の始まりです。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、第五章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




