檜木城・鳥籠山城の攻防 第2話:籠城の覚悟
作者のかつをです。
第四章の第2話をお届けします。
籠城か、降伏か。
城主の苦渋の決断によって、城兵たちの運命は大きく変わります。
今回は、戦を前にした城内の緊張感と人々の覚悟を描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
狼煙が上がってから、数日後。
毛利軍の先遣隊と名乗る一団が、城下に姿を現した。
彼らは戦を望まないと言った。
城主・野間隆実公が毛利家に降るのであれば、その身分も領地も安堵するという。
城の本丸では、重臣たちが集まり激しい議論が交わされていた。
「ここは、毛利に降るべきです。兵力差は火を見るより明らか」
「いや、大内家への忠義を忘れたか。籠城して援軍を待つべきだ」
弥助は、その議論を遠くから聞くことしかできなかった。
自分たちの運命が自分たちの知らない場所で決められていく。その無力さが歯がゆかった。
やがて、城主の決断が下された。
「籠城する。我らは野間家の誇りと、大内家への忠義を守り抜く」
その声は、若き城主の悲壮な覚悟に満ちていた。
その瞬間から、城の空気は完全に戦の色に染まった。
弥助も他の兵士たちと共に、戦支度に奔走した。
城下の村から米や味噌が次々と運び込まれる。
女たちは矢羽を繕い、子供たちは火をおこすための薪を集めた。
弥助は父と共に、城の周りに逆茂木を立てる作業に当たった。
父は普段、畑を耕すただの農民だ。
しかし、その顔には今、兵士としての覚悟が決まっていた。
「弥助。俺たちはこの土地で生まれ、この土地で死ぬ。だったら、この土地を守って死ぬのが男の本懐だ。違うか」
父の節くれだった、土の匂いがする手が弥助の肩を力強く叩いた。
弥助は何も言い返せなかった。
ただ、こくりと頷くことしかできなかった。
城内は奇妙な熱気に包まれていた。
死への恐怖と故郷を守るという高揚感が入り混じった、特殊な空気。
誰もが来るべき決戦に向けて、心を一つにしていた。
弥助は槍を強く握りしめた。
怖い。しかし、逃げるわけにはいかない。
父がいる。仲間がいる。そして、麓の村にはおふみがいる。
守るべきものが自分にはあるのだ。
その思いが彼の心を、かろうじて支えていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
戦国時代の城主にとって、誰に味方し誰に敵対するかは一族の存亡を賭けた最も重要な決断でした。野間氏が最後まで大内家への忠義を貫こうとしたのは、武士としての誇りの表れだったのかもしれません。
さて、籠城を決意した檜木城。
弥助は最後に一度だけ、愛する人がいる村へと向かいます。
次回、「城下の村」。
そこで彼は悲しい別れを経験することになります。
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