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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
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檜木城・鳥籠山城の攻防 第1話:狼煙

作者のかつをです。

 

本日より、第四章「峠の城、燃ゆ ~檜木城・鳥籠山城の攻防~」の連載を開始します。

舞台は、再び戦国時代。瀬野に実在した山城で繰り広げられた、籠城戦の物語です。

 

名もなき一人の足軽の視点から、戦の現実と、故郷への想いを描いていきます。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島市安芸区瀬野。その東の山中に、今は木々に覆われ訪れる人も少ない丘がある。

檜木城ひのきじょう跡。

戦国の世、この地を治めた野間氏の居城であり、安芸国の覇権を巡る激しい戦いの舞台となった場所である。

 

これは、歴史の片隅で故郷を守るために戦い、そして散っていった名もなき兵士たちの悲しき物語である。

 

 

 

 

天文の世。瀬野の郷を見下ろす檜木城。

若き足軽の弥助やすけは、物見櫓の上であくびを噛み殺していた。

城主である野間氏は西の大大名・大内家に仕え、この辺りは比較的平穏な日々が続いていた。弥助の仕事も、退屈な見張りがほとんどだった。

 

(今日も、何もなしか……)

 

眼下には彼が生まれ育った村と、黄金色に輝く稲穂の海が広がっている。

村には祝言を約束した、おふみという娘がいた。

この戦のない日々がいつまでも続けばいい。彼は心からそう願っていた。

 

しかし、その願いは脆くも崩れ去る。

 

その日の昼下がり。

弥助は東の空、これまで見たこともない山の頂から一筋の黒い煙が立ち上っているのを見つけた。

狼煙のろしだ。

 

胸が、どきりと音を立てた。

あれは味方の上げるものではない。

 

「敵襲! 敵の狼煙です!」

 

弥助の叫び声に、城内がにわかに騒がしくなった。

鐘が打ち鳴らされ、兵士たちが慌ただしく走り回る。

 

噂はかねてから届いていた。

安芸の小領主であった毛利元就が、恐るべき速さでその勢力を拡大していると。

主家である大内家の力にも、陰りが見え始めていると。

 

あの狼煙は、その噂がついに自分たちの喉元にまで迫ってきたことを告げる不吉な知らせだった。

 

弥助は物見櫓の上から村を見下ろした。

つい先ほどまで黄金色に見えていた田んぼが、なぜか色あせて見えた。

おふみの笑顔が脳裏をよぎる。

 

あの笑顔を、守れるのか。

自分のこの槍一本で。

 

戦を知らない若者の心に、初めて冷たい恐怖の影が差し込んだ。

瀬野の郷の、長い長い一日が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第四章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

檜木城は、毛利元就が鏡山城や桜尾城などを攻略していく過程で、その支配下に置かれたとされています。この物語は、その攻防戦を城兵の視点から描く試みです。

 

さて、ついに戦の脅威が現実のものとなった檜木城。

城主は、そして弥助はどんな決断を下すのでしょうか。

 

次回、「籠城の覚悟」。

城は戦の準備に包まれます。

 

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