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ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~  作者: かつを
第1部:古代・中世編 ~神々と武士たちの足跡~
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古代山陽道・大山駅の駅子日誌 第1話:駅家の朝

作者のかつをです。

 

本日より、第三章「都の文と峠の馬 ~古代山陽道・大山駅の駅子日誌~」の連載を開始します。

今回の主役は、奈良・平安時代、情報の伝達路であった駅家で働いていた、名もなき若者です。

 

都への憧れと、田舎での退屈な日常。そんな、どこにでもいるような若者の視点から、古代の瀬野の姿を描いていきます。

 

※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

広島市安芸区瀬野。

かつてこの地を貫くように、一本の道が走っていた。都と地方を結ぶ大動脈、古代山陽道である。

そして旅人や馬が休息し、情報を中継するための重要な拠点「駅家うまや」が置かれていた。その名を、大山駅おおやまえきという。

 

これは、歴史の表舞台には決して登場しない、名もなき駅の、名もなき若者の物語である。

 

 

 

 

鶏の鳴き声が、朝霧を切り裂く。

タケルは冷たい水で顔を洗い、眠気を無理やり追い出した。

彼の職場は、大山駅。ここで生まれここで育った、十六歳の駅子うまやじだ。

 

駅子の仕事は、夜明けと共に始まる。

まずは厩舎きゅうしゃにいる十数頭の駅馬はゆまの世話だ。乾草をやり、体を拭い、ひづめに異常がないかを確認する。馬たちはこの駅家の、そして国の財産であり、少しの不行き届きも許されない。

 

「タケル、ぼさっとするな! 今日は、西へ向かわれられるお役人様が昼過ぎにお着きになるぞ!」

 

駅長うまやのおさである父の、雷のような怒声が飛ぶ。

タケルは慌てて背筋を伸ばした。

 

正直、この仕事が退屈で仕方がなかった。

毎日毎日、同じことの繰り返し。馬の世話、厩舎の掃除、そして時折やってくる役人たちの尊大な態度にへりくだること。

 

彼らの口から語られる、遠い都の華やかな話。

きらびやかな寺院、美しい姫君、そして国のまつりごとを動かす壮大な陰謀。

聞けば聞くほど、この瀬野の谷間がちっぽけで色のない場所に思えてくる。

 

(俺は、いつまでこんな場所で馬の糞の始末をしていなきゃならんのだ……)

 

タケルは西の空を見上げた。

この道のずっと先、険しい大山峠を越えた先に安芸の国の国府がある。そしてさらにその先には、夢にまで見る都があるのだ。

いつかこの道を、自分の足で駆け抜けてみたい。

 

そんな叶わぬ夢を抱きながら、彼は手にした桶に新しい水を汲んだ。

駅家の朝はいつもと同じように、ゆっくりと、そして確実に始まろうとしていた。

彼がこの道の上で、やがて国の大きなうねりに触れることになるとは、まだ知る由もなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第三章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

古代の「駅」は、単なる休憩所ではなく、情報と交通を支える国家の重要なインフラでした。そこで働く駅子たちは、まさにその最前線を担う存在だったのです。

 

さて、退屈な日常を嘆く主人公・タケル。

しかし、そんな彼の元に都からの「特別な報せ」が舞い込んできます。

 

次回、「早馬の鈴」。

駅家の穏やかな日常が破られます。

 

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