昭和水害と落合道標の奇跡 第7話:復興への一歩(終)
作者のかつをです。
最終話です。
ここまで長い間、この物語にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
20章にわたり、瀬野という土地の歴史を彩った名もなき人々の物語を紡いできました。
最後は、この物語が現代の、そして未来のあなたへと繋がっていくことを願って、筆を置きたいと思います。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
それから、数十年。
瀬野の町は、見事に復興を遂げた。
水害の傷跡は消え、新しい家々が立ち並び、道路は舗装された。
瀬野川は護岸工事が行われ、桜並木が植えられた。
春になれば満開の桜が川面を彩り、多くの人々で賑わう。
かつてタコ部屋があった線路脇には、電化された山陽本線の電車が軽快に走り抜けていく。
大山峠には、国道2号線の新しいトンネルが掘られ、車がビュンビュンと行き交っている。
景色は、変わった。
便利で、快適で、安全な町になった。
しかし、変わらないものもある。
落合橋のたもとには、あの道標が今も静かに立っている。
少し風化し、文字も見えにくくなったが、その堂々とした姿は健在だ。
その前を、ランドセルを背負った子供たちが元気に通り過ぎていく。
買い物帰りの主婦が、立ち話をしている。
健一は、老人となり、その光景をベンチから眺めている。
「じいちゃん、昔、ここが海みたいになったって、本当?」
孫に聞かれ、健一は目を細めた。
「ああ、本当だ。龍神様が暴れてな。でもな、みんなで力を合わせて、この石を探し出して、またここに立てたんじゃ」
「へえ、すごいねえ」
孫は、道標の石を珍しそうに撫でた。
健一は、思う。
この石は、知っている。
この土地で生きた、すべての人々の物語を。
神話の時代の巫女。
戦国の武士。
街道の馬子や茶屋娘。
職人たち。
そして、水害から立ち上がった自分たちのことを。
彼らの汗と涙、そして祈りが、この土地の礎となっている。
私たちは、その歴史の積み重ねの上に立っているのだ。
「さあ、帰ろうか」
健一は立ち上がり、孫の手を引いた。
夕日が、瀬野の町を優しく包み込んでいる。
道は、続いている。
過去から現在、そして未来へ。
名もなき人々が紡いできた、この土地の物語。
それはこれからも、この道標が見守る中で、新しく生まれ、続いていくことだろう。
『ひろしま郷土史譚《瀬野編》』。
これにて、閉幕。
(第二十章:龍神の涙、人の祈り ~昭和水害と落合道標の奇跡~ 了)
(完)
『ひろしま郷土史譚《瀬野編》~街道と鉄路が続く物語~』を最後までお読みいただき、心から感謝申し上げます!
もし、この物語を通じて、見慣れた風景の裏側にある歴史や人間ドラマに興味を持っていただけたなら、これ以上の喜びはありません。
私たちの住む町は、数え切れないほどの先人たちの想いで作られています。
この作品はこれで完結となりますが、歴史は日々刻まれ続けています。
また別の物語で、皆様とお会いできる日を楽しみにしています。
最後に、もしよろしければ、作品の評価(☆☆☆☆☆)や感想をいただけますと、作者の今後の執筆活動の大きな励みになります。
それでは、またどこかの道の上で!
本当に、ありがとうございました。




