黄幡神社と陰陽師の伝説 第6話:星は見守っている(終)
作者のかつをです。
第十九章の最終話です。
恐ろしい伝説が、いつしか人々の心の拠り所となっていく。
時を超えて受け継がれる信仰の形と、星空に託されたロマンを描いて締めくくりました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
平安の昔から、幾星霜。
中野村は、広島市の一部となり、風景は大きく変わった。
かつての田園は住宅地となり、近くには国道や鉄道が走っている。
しかし、あの丘の上の黄幡神社は、今も変わらずそこに鎮座している。
村人たちが代々守り続けてきたその社は、何度かの改築を経ながらも、その厳かな佇まいを保っている。
毎年、祭りの日には多くの人々が集まり、神輿が練り歩く。
「ここは、厄除けの神様だからね」
お年寄りが、孫の手を引いて参拝に訪れる。
その言葉の裏に、かつてこの地を救った陰陽師の伝説が隠されていることを、知る人はもう少ないかもしれない。
しかし、黄幡神は約束通り、この土地を守り続けてきた。
大きな災害や疫病が流行った時も、この地区の人々は不思議と難を逃れてきたという言い伝えが、まことしやかに囁かれている。
◇
……2025年、冬。
ある夜、一人の天文好きの少年が、神社の境内で望遠鏡を覗いている。
ここは、街の灯りが少しだけ遠く、星がよく見える場所なのだ。
「あ、流れ星!」
少年が歓声を上げる。
その視線の先、冬の夜空に一筋の光が走った。
その星の光は、まるでかつてこの地を訪れた陰陽師が、空からこの町を見守っているウィンクのようにも見えた。
凶神を、守り神へ。
災いを、福へ。
それは、困難に直面しても、知恵と勇気でそれを乗り越え、プラスの力に変えていこうとする人間の強さそのものなのかもしれない。
少年は、望遠鏡から目を離し、社殿に向かって手を合わせた。
「明日も、いい天気になりますように」
その無邪気な祈りは、夜空に吸い込まれていった。
星の神は、何も答えない。
ただ、冷たく澄んだ空気の中で、静かに、力強く、この町を見下ろしているだけだった。
(第十九章:厄災を封じる星の神 ~黄幡神社と陰陽師の伝説~ 了)
第十九章「厄災を封じる星の神」を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
黄幡神社は、広島県内にも数カ所存在しますが、瀬野・中野地区の黄幡神社は特に地域の人々に大切にされています。もし訪れる機会があれば、境内の澄んだ空気を感じてみてください。
さて、伝説の世界の物語でした。
次なる物語は、昭和の時代に実際に起きた大災害と、そこからの復興を描く、最後の章となります。
次回から、いよいよ最終章が始まります。
**第二十章:龍神の涙、人の祈り ~昭和水害と落合道標の奇跡~**
終戦直後の混乱期、瀬野を襲った未曾有の大水害。
濁流に飲み込まれた村と、奇跡的に発見された道標。
絶望の中から立ち上がった人々の、魂の物語です。
引き続き、この壮大な郷土史の旅にお付き合いいただけると嬉しいです。
ブックマークや評価で応援していただけると、最終章の執筆も頑張れます!
それでは、また新たな物語でお会いしましょう。




