黄幡神社と陰陽師の伝説 第4話:鬼門の封印
作者のかつをです。
第十九章の第4話をお届けします。
今回は、クライマックスとなる儀式の様子を描きました。
自然の猛威と、それを鎮めようとする人間の意志のぶつかり合い。
ファンタジックな要素を交えつつ、緊迫感のあるシーンを目指しました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
祈祷が始まると、村の空気は一変した。
風が止み、鳥や虫の声が消えた。
重苦しい静寂が、村全体を覆い尽くす。
丘の上からは、陰陽師の鈴の音と、祝詞を唱える声だけが、途切れることなく響いてくる。
三日目の夜。
突如、地面が低く唸り始めた。
地鳴りだ。
家々がガタガタと揺れ、閉じこもっていた村人たちは悲鳴を上げた。
「地中の毒が、暴れているのだ」
村長は、家族を抱きしめながら震えた。
封印されまいとする地脈の邪気が、最後の抵抗を試みているかのようだった。
五日目の夜。
今度は、空が異様な色に染まった。
月が赤黒く濁り、不気味な雲が渦を巻いて丘の上空に集まってきた。
稲光が走り、雷鳴が轟く。
陰陽師は、祭壇の前で一歩も引かなかった。
吹き荒れる風に衣をバタつかせながら、彼は天に向かって叫んだ。
「オン・ソラ・ソバ・テイ・エイ・ソワカ!」
真言を唱え、印を結ぶ。
彼の指先から、見えない力が放たれ、空の渦と大地の震えを縫い留めていく。
彼の顔は蒼白で、唇からは血が滲んでいた。
これは、命を削る戦いだった。
人の身で、星の神の力を受け止め、それを御する。
少しでも気を抜けば、彼自身の精神が焼き尽くされてしまうだろう。
そして、七日目の夜明け前。
最も深く、濃い闇が世界を包んだ時。
空から、一条の金色の光が、祭壇めがけて降り注いだ。
「……今だ!」
陰陽師は、用意していた「依代」となる矛を、地面に力いっぱい突き立てた。
ドォーン!
衝撃波が走り、周囲の木々が大きく揺れた。
そして、次の瞬間。
地鳴りが、ピタリと止んだ。
不気味な雲が散り、東の空から、清らかな朝日が差し込んできた。
勝ったのだ。
星の神の力が、地の邪気をねじ伏せ、その場所に「鎮座」したのだ。
陰陽師は、矛を握りしめたまま、その場に崩れ落ちた。
村人たちが恐る恐る丘に上がってくると、そこには、ボロボロになりながらも、安らかな顔で眠る陰陽師の姿があった。
そして、その中心には、神々しい気を放つ矛が、静かに立っていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
陰陽師が唱えた真言は、密教などで使われるものですが、当時の陰陽道は仏教や神道と複雑に混ざり合っていました。彼らは様々な宗教的技術を駆使して、超自然的な存在に対抗していたのです。
さて、災いは去りました。
しかし、呼び出した神様には、これからどうしていただくべきなのでしょうか。
次回、「黄幡神の鎮座」。
神社が創建されるまでの物語です。
よろしければ、応援の評価をお願いいたします!




