黄幡神社と陰陽師の伝説 第3話:星を読む
作者のかつをです。
第十九章の第3話をお届けします。
今回は、陰陽道の神秘的な儀式の準備を描きました。
「毒を以て毒を制す」。凶神をあえて守り神にするという発想は、日本の信仰の面白い特徴の一つです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
その夜、陰陽師は丘の上に祭壇を組み、星を観測した。
天空には、満天の星々が瞬いている。
彼は、「式盤」と呼ばれる占いの道具を広げ、星の配置と地上の気を照らし合わせた。
彼が呼ぼうとしている神の名は、「黄幡神」。
それは、インド占星術に由来する九曜星の一つ、「羅睺星」の精である。
日食や月食を引き起こし、太陽や月さえも飲み込むとされる、最も恐ろしい凶星。
その性質は「土」であり、万物を土に還す死の力を持つ。
「この暴れる地脈を鎮めることができるのは、同じ『土』の属性を持ち、かつそれをも凌駕する破壊的な力を持つ黄幡神しかいない」
陰陽師は、独りごちた。
しかし、それは諸刃の剣だ。
黄幡神は、本来、人々に災いをもたらす神である。
暦の上でも、この神が巡ってくる方位は「大凶」とされ、土を動かしたり、普請(建築)をしたりすることは厳禁とされている。
もし、儀式に失敗すれば、村は地脈の乱れ以上の災厄に見舞われることになるだろう。
「それでも、やるしかない」
彼は、夜空に赤く輝く星を見つけた。
羅睺星だ。
今まさに、その星がこの土地の真上を通ろうとしている。
「時は、満ちた」
彼は、村人たちを集めた。
そして、村人たちに協力を仰いだ。
「これより、七日七晩、この丘の周りに結界を張り、祈祷を行います。その間、村の者は決して家から出ず、火の気を絶ち、身を清めて祈ってください」
村人たちは、恐れおののいた。
しかし、村長の「先生にお任せしよう」という一言で、覚悟を決めた。
陰陽師は、白装束に着替え、祭壇の前に立った。
手には、幣と鈴。
口からは、朗々とした祝詞が紡ぎ出される。
星の神を、地上へと招き寄せる。
それは、天のエネルギーを一点に集中させ、大地の歪みに打ち込む、壮大な儀式の始まりだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「羅睺星」は、実際には天体ではなく、日食や月食が起きるポイント(交点)を仮想的な星と見なしたものです。古代の人々にとって、太陽や月が隠れる現象は、この上なく恐ろしい凶兆だったのです。
さて、いよいよ儀式が始まります。
村人たちが固唾を飲んで見守る中、丘の上で何が起きるのでしょうか。
次回、「鬼門の封印」。
光と闇の、激しい攻防が繰り広げられます。
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