黄幡神社と陰陽師の伝説 第2話:土地の祟り
作者のかつをです。
第十九章の第2話をお届けします。
今回は、陰陽師による「謎解き」のパートです。
科学的な知識がなかった時代、人々は自然の異変を「気」や「祟り」として理解しようとしました。陰陽師は、その体系化されたロジックを持つ専門家だったのです。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
村長の家に招かれた陰陽師は、出された粗末な食事にも礼を言い、村の状況を詳しく聞き取った。
いつから異変が始まったのか。
どの方角から音がするのか。
誰が最初に倒れたのか。
彼は、村人たちの話を一言も漏らさず聞き、懐から取り出した紙に筆でさらさらと何かを書きつけていく。
それは、村の地図と、そこに書き込まれた奇妙な記号の数々だった。
「……なるほど。概ね、見当はつきました」
翌朝、彼は村人たちを連れて村の中を歩き回った。
井戸を覗き込み、土を手に取り、風の匂いを嗅ぐ。
そして、村の北東にある小高い丘の前で足を止めた。
そこは、鬱蒼とした木々に覆われた、誰も近づかない場所だった。
「ここが、鬼門です」
陰陽師は、指さした。
「この地下深くで、地脈が乱れている。土の気が腐り、毒となって地上に噴き出しているのです。それが、水や空気を汚し、生き物を蝕んでいる正体です」
それは、亡霊や祟りといった漠然としたものではなく、土地そのものが持つ「病」のようなものだと彼は説明した。
地脈の乱れ。
風水で言うところの、「龍穴」が塞がり、気が淀んでしまっている状態。
「おそらく、遠い昔、この地で大きな戦があったか、あるいは天変地異によって地形が変わったか……。いずれにせよ、行き場を失った土の気が、怒り狂っているのです」
村人たちは、顔を見合わせた。
確かに、古老たちの言い伝えでは、この辺りはかつて豪族たちが争った古戦場だったとも言われている。
「では、どうすればいいのですか? お祓いをすれば、治まるのですか?」
村長が、すがるように尋ねた。
陰陽師は、静かに首を横に振った。
「ただ拝むだけでは、この強大なエネルギーは鎮まりません。毒には毒を。力には力を。この暴れ狂う土の気を押さえつけるには、それ相応の強大な力を持つ『神』をお招きし、ここに鎮座していただく必要があります」
「神様、ですか……」
「ええ。それも、並大抵の神ではありません。土を司り、万物を殺めるほどの強力な力を持つ、荒ぶる星の神です」
陰陽師の目が、鋭く光った。
彼が呼び出そうとしているのは、普通の村人たちが祀るような、優しく穏やかな神ではなかった。
それは、一歩間違えれば村ごと焼き尽くしかねない、危険な賭けでもあった。
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「鬼門」とは北東の方角を指し、陰陽道では鬼が出入りする不吉な方角とされています。京都の比叡山延暦寺も、都の鬼門封じのために建てられたと言われています。
さて、原因を突き止めた陰陽師。
彼が対抗策として選んだのは、あまりにも恐ろしい神でした。
次回、「星を読む」。
夜空の下で、秘儀が行われます。
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