黄幡神社と陰陽師の伝説 第1話:都からの陰陽師
作者のかつをです。
本日より、第十九章「厄災を封じる星の神 ~黄幡神社と陰陽師の伝説~」の連載を開始します。
今回のテーマは、陰陽道と民間信仰です。
凶神を祀る神社の謎。その起源に、ミステリアスな陰陽師の活躍があったとしたら。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
広島市安芸区中野。瀬野川を見下ろす小高い丘の上に、「黄幡神社」という古社が鎮座している。
「黄幡」とは、陰陽道における「八将神」の一柱であり、本来は殺伐を司る恐ろしい「凶神」とされている。
なぜ、人々に災いをもたらすはずの神が、この地では厚く祀られ、地域の守り神となっているのか。
そこには、平安の昔、この地を襲った原因不明の厄災と、それを封じるために命を懸けた、一人の陰陽師の物語が秘められていた。
これは、星の力で土地の運命を変えようとした、知られざる闘いの記録である。
◇
時は、平安時代の末期。
源平の争乱の足音が、まだ遠く微かに聞こえ始めた頃のこと。
瀬野川流域の中野村は、得体の知れない「闇」に覆われていた。
「また、牛が死んだか……」
村長の家の土間で、男たちが沈痛な面持ちで座り込んでいた。
ここ数ヶ月、村では奇妙な出来事が続いていた。
家畜が突然泡を吹いて倒れ、井戸の水が赤く濁り、夜ごと山の方から地鳴りのような不気味な音が響いてくる。
そして、村人たちの間にも原因不明の熱病が流行り始めていた。
「これは、たたりじゃ。きっと、山の神様がお怒りなんじゃ」
「いや、昔、この地で死んだ武者たちの亡霊の仕業かもしれん」
人々は恐怖し、祈祷師を呼んだり、供え物をしたりしたが、効果はなかった。
災いは収まるどころか、日増しに酷くなっていく。
村全体が、じわじわと死の影に飲み込まれようとしていた。
そんなある日の夕暮れ。
一人の旅人が、村の入り口に現れた。
白い狩衣に、烏帽子姿。
背中には、星や暦を記した書物を入れた木箱を背負っている。
その立ち振る舞いには、ただの旅人とは思えない、凛とした気品が漂っていた。
男は、村の入り口で足を止め、じっと空を見上げていた。
そして、何やら指で印を結び、ブツブツと呪文のようなものを唱えている。
通りかかった村人が、怪しんで声をかけた。
「あんた、何者だ? そこで何をしておる」
男は、ゆっくりと振り返った。
その瞳は、夜空のように深く、吸い込まれそうなほど澄んでいた。
「……この土地は、泣いているな」
男は静かに言った。
「私は、京から参った陰陽師。名を、晴明の末葉に連なる者とだけ、申しておきましょう」
陰陽師。
それは、星を読み、暦を操り、目に見えない「気」の流れを正す、国家公認の呪術師である。
都の貴族たちに仕えるはずの彼が、なぜこんな辺境の地を訪れたのか。
「悪い『気』が、とぐろを巻いている。このままでは、この村は滅びるでしょう」
その不吉な、しかし確信に満ちた予言に、村人は戦慄した。
この男なら、あるいはこの地獄から村を救ってくれるかもしれない。
そんな一縷の望みが、人々の心に芽生えた瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
第十九章、第一話いかがでしたでしょうか。
黄幡神は、九星術や陰陽道の方位神の一つです。本来は忌むべき神ですが、逆に祀ることで強力な守護神とする信仰もあります。
さて、村に現れた謎の陰陽師。
彼は、村を覆う厄災の正体を突き止めることができるのでしょうか。
次回、「土地の祟り」。
見えない敵の正体が、明らかになります。
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