木像地蔵の流浪譚 第3話:地蔵が見る夢
作者のかつをです。
第十八章の第3話をお届けします。
地蔵の過去、それは親子の愛と別れの物語でした。
なぜ、地蔵がこれほどまでに穏やかな顔をしているのか。その理由を、夢という形で描きました。
※この物語は史実や伝承を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
その夜から、喜助は度々、地蔵の夢を見るようになった。
それは、まるで地蔵自身が、自らの身の上を語りたがっているかのようだった。
夢の中の風景は、いつも雨だった。
あの日、地蔵を彫っていた男――父親は、完成した地蔵を、子供の枕元に置いた。
「……守ってくだせえ。この子を、守ってくだせえ」
父親は、祈った。
しかし、その願いも虚しく、子供は静かに息を引き取った。
父親の慟哭が、山小屋に響く。
地蔵は、その悲しみを、じっと見つめていた。
子供の魂を、その身に宿すかのように。
その後、地蔵は、子供の墓の代わりに、川沿いの小さなお堂に納められた。
父親は、毎日、毎日、そのお堂に通い、地蔵の頭を撫でた。
「寒くはないか」
「寂しくはないか」
その掌の温かさを、地蔵は覚えていた。
何年も、何十年も、その温かさは続いた。
しかし、ある年。
未曾有の大雨が、山を襲った。
土石流が、谷を埋め尽くす。
濁流が、お堂を飲み込む。
父親――もうすっかり年老いていた彼は、お堂を守ろうと必死にしがみついた。
「いかん! これだけは、流させん!」
しかし、自然の猛威には勝てなかった。
お堂は砕け散り、地蔵は、冷たい泥水の中へと放り出された。
薄れゆく意識の中で、父親が叫ぶ声が聞こえた気がした。
「行け……! 生きろ……!」
地蔵は、濁流に翻弄されながら、暗い、暗い川底を転がり続けた。
岩にぶつかり、木に挟まり、それでも、流れに身を任せて、下流へと、下流へと運ばれていった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
数日か、あるいは数年か。
ふと、水が穏やかになった。
泥が沈み、光が差し込んできた。
そして、葦の茂みに、その身が留まった。
そこに、喜助の手があった。
「……そうか。お前さんは、子供の身代わりだったんじゃな」
夢から覚めた喜助は、涙を流していた。
地蔵が浮かべていたあの穏やかな微笑み。
それは、親の愛を受け、その愛に応えようとした、子供の魂の輝きだったのかもしれない。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
水害で流された仏像が、下流で拾われて祀られるという話は、実際に多くの地域に残っています。災害の記憶と、失われたものへの鎮魂の思いが、そこには込められているのでしょう。
さて、地蔵の想いを知った喜助。
彼は、ある行動に出ることを決意します。
次回、「失われた記憶」。
喜助は、地蔵の故郷を探し始めます。
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